第102話「腹黒少女と痛み」
オレはゆっくりとエリスに歩み寄る。
一歩近づくごとに全身を襲う痛みは増していく。素晴らしい感情だ。
オレはそれを噛みしめながらエリスの目の前まで進み、その瞳を覗き込んだ。
「そろそろ話をするつもりになったか?」
「......」
「今素直に話さなければ、痛い目を見ることになるぞ」
「...。好きにすればいいじゃん...」
「意外だな。もっと抵抗しようとは思わないのか」
「...これ以上抵抗したところで意味なんてないでしょ?あたしが何をしたところで、キミに抗えるわけない」
エリスは覇気のない小さな声でそう呟く。言葉の通り、エリスはオレから逃れることをもう諦めているようだ。
「力ではそうかもな。だが素直に話をすれば助かる道があるとは思わないのか?」
「...ありえないでしょ」
「そんなことはない。事と場合によっては貴様に手を出すつもりはないぞ」
「...嘘だね。キミみたいな人があたしを見逃すわけない」
エリスは弱々しい様子のまま、全てを見透かしたようにオレの目を見てそう答える。
「オレみたいな、だと?勝手に決めつけて知ったような口を利くじゃないか。貴様がオレの何を知っているというんだ?」
「...これまでのキミを見てれば、大体どんな人なのかは分かるよ」
「ほう...?ならば聞かせてもらおうか。貴様にはオレがどんな人間に見えている」
「...そんなこと、話す必要ある?」
「いいから話せ」
オレは目でエリスを威圧する。エリスはそれに対して軽く睨み返してきた。
「...。キミは...これまでその強さで自分勝手に生きてきたんでしょ。キミみたいな人は、自分より弱い人の事を馬鹿にして、その気持ちなんて考えたりしない。気まぐれに虐めて楽しんだり、道具として使い潰したり、そんな酷いことを平気でやるんだ。あたしはキミみたいな人をたくさん見てきたから、だから分かる」
これまでの様子からして素直に話してくれるとは思っていなかったが、意外にもエリスは自らの考えを打ち明けてくれた。
言い方に棘があることから、リダンへの恨み節としての意味もあるのだろう。エリスは既にリダンへの嫌悪感を隠そうともしていない。
「貴様がこれまでどんな人間を見てきたのかは知らんが、オレとそいつらは違う」
「ううん、同じだよ。キミを初めて見た日にそう確信した」
「初めて見た日だと?」
リダンの話では学園に入学する以前はエリスとの面識はなかったはずだが、そうではなかったのだろうか。
オレの頭にそんな考えがよぎったが、すぐにそれは否定される。
「学園に入学した日だよ。キミとナディアちゃんが喧嘩したでしょ。あの時、キミ達があの人達と同じ人種だって確信した。強さを振りかざして、弱い人を人とも思わない自分勝手で最低な人達だって」
エリスはあのナディアとの一件を見て、リダンという人間を敵だと認識したということか。確かに思い返してみれば、エリスからの感情を初めて感じ取ったのはナディアとの戦いが終わった直後だった気がする。
「最低か。随分な物言いだな」
「事実でしょ」
「まあ、強さを振りかざす自分勝手な人間という部分については否定はせん」
そこについては言い訳しようもない事実だ。
「ところで、さっき貴様が言ったあの人達というのはフィフスの事を言っているのか?貴様はそいつらに何かされたのか?」
「...」
フィフスの名前を出すと、またエリスは黙り込んだ。だが、先ほどまでとは違いただ黙っているわけではなく、こちらの目を見て様子を伺っている感じだ。
「隠しても意味はないぞ。オレは貴様がフィフスに所属していたことを知っている。フィフスに家族が襲われ、その時に強制的に所属させられたことも、1年ほど前にエルトシャン達によって保護されたことも、今はオレを殺す作戦に参加させられそうになっていることも、それをアイゼンに相談していることも、全てな」
「...そこまで知ってて、何でこんな真似するわけ?早くあたしを殺せばいいじゃん。キミの言う通り、あたしはフィフスの人間でキミの敵なんだから」
オレの知る情報を開示したことで、エリスはようやく自分がフィフスの人間であったことを認めた。
これでようやく次の段階に進むことができる。
「確認するためだ。貴様が本当にオレの敵なのかどうか」
「何が言いたいの?」
「貴様はフィフスの人間だったが、自ら望んでそうなったわけではなかった。その事実だけならば、オレは貴様の存在を気にすることはなかっただろう。当然、こうして貴様を追い詰めることもなかった。だが、貴様は初めからオレを異常に嫌い、そして恐れているようだったからな。フィフスに関わりのある人間がオレに異常な感情をぶつけてくる事実は無視できるものではない」
オレはこの行動に出た意図の一つをエリスに伝える。
「もしかして、ずっと気づいてたの?あたしが本当はキミを嫌っていること」
「人間の悪意や敵意には慣れているからな。貴様は上手く隠していたが、オレには通じない」
本当は天啓が無ければエリスの感情は見破れなかったが、そこは当然黙っておく。
「そっか...」
エリスは複雑な表情でそう呟いた。何を思っての表情なのか、オレには知る由もない。
「貴様は何故それほどまでにオレを嫌う?入学初日の出来事やそれ以降の態度を考えれば、ある程度嫌悪感や恐怖心を示す事は理解できる。他の雑魚共のようにな。だが、貴様の場合はそれでは説明できないほど異常だ」
エリスがリダンを嫌う理由は少しだけ想像できてきたが、まだそれを断定することはできない。そもそも、想像通りだとしても理解できない部分もある。
「そんなこと知ってどうするの...?」
「それはまだ分からん。だが、貴様と理解し合える道もあるかもしれん。もしかすると、貴様が抱えている問題を解決してやることもできるかもしれんな」
オレは真剣にエリスの瞳を見つめ、そう告げた。こちらの言葉は嘘偽りない本心であると、そう訴えかける。
「...!」
オレの言葉がそれほど意外だったのか、それともこちらの本気度が伝わったのか、エリスが驚いた反応を見せる。
そして、少しだけその表情が和らいだ。
「キミは...そんなこという人じゃない...でしょ」
「さっきから言っているだろう。貴様がオレの何を知っているというんだ?確かにオレは、貴様の言う通り強さを振りかざす自分勝手な人間だが、弱い人間を気まぐれに虐めて楽しんだり、道具として使い潰したりはしない。貴様の言うあの人達とオレは違う」
「...」
エリスは黙ったままオレの瞳を見つめ返してくる。これまで冷たい痛みを発していたエリスの瞳が少しだけ熱を帯びた気がした。
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