第100話「フィフスと英雄」
エリスとアイゼンの会話ついてある程度思考をまとめたオレは、早急に確認しておきたいことができたためポータブルを手に取った。
そのままマナを流しこみ、とある人物に連絡を入れる。既に遅い時間帯な上に相手は多忙なので、もしかしたら連絡はつかないかと思っていたが、マナを流してから数秒でポータブルが相手に繋がった。
『こんな時間に連絡なんて、何かあったのかい?』
ポータブルから、通話の相手であるエルトシャンの落ち着いた声が聞こえてくる。
「貴様に聞きたいことがある。フィフスとかいう奴らについて、知っていることを教えろ」
『フィフスについて...か。もしかして、彼らから何か接触があったのかい?』
「ああ」
現状はただ見られていただけのため接触があったと言えるかは微妙なところだが、今それは言わなくても良いだろう
「口ぶりからして、貴様はフィフスがオレを嗅ぎまわっていることを知っていたようだな」
『いや、フィフスらしき集団が学園の周辺で何か動いていることは知っていたけど、リダン君を狙っていることは知らなかったよ。...まあ、一応その可能性は想定していたけどね』
今の発言がどこまで本当かは分からないが、エルトシャンはフィフスがリダンを狙っていることを想定しておきながら、そのことをこちらに伝えていなかったようだ。
本来ならばこの件について軽く追及してもいいところだが、今それを話すと本題からそれてしまうため触れないでおく。
『フィフスについて聞きたいということだけど、具体的にどういった情報が知りたいんだい?答えられないこともいくつかあるけど、可能な限り答えるよ』
「オレが聞きたいのはフィフスの構成員の数やその戦力、それから学園での目撃情報についてだ」
『なるほど...じゃあまずはフィフスの構成員について話そうかな。フィフスには僕の知る限りでも300人以上のメンバーがいて、そのほとんどが戦闘員で構成されているそうだよ。戦力については具体的には分からないけど、結構な数の実力者がいると思っていいだろうね』
「300人以上か。フィフスが結成した当時、貴様が討伐隊を編成してほとんど壊滅に追い込んだと聞いたことがあるが、現在でも随分と数がいるようだな」
オレはフィフスについての情報を思い出しながら、エルトシャンにそう問いかける。
オレがフィフスについて初めて知ったのは、確か学園に入学してすぐにあったテストの最中だった。テストにフィフスの内容が出題されてリダンに質問したことを、朧気ながら覚えている。
『あれから400年近く経っているからね。長い時間をかけて、水面下で組織をまた大きくしていったらしい』
「貴様はそれに対して何も手を打たなかったのか?」
『壊滅に追い込んでから300年くらいは彼らも表舞台には現れなかったから、手を打とうにも、そもそも水面下で動いていることすら知らなかったんだ。そして、気が付いた時にはかなり巨大な組織になっていて、僕も簡単には手を付けられなくなってしまったんだよ』
「貴様もフィフスには手を焼いているというわけか」
『情けないけど、そういうことだね』
「ちなみに、結構な数の実力者がいると言っていたが、それはどの程度の強さだ?」
『どの程度って言われると答えるのが難しいけど、キミの知っている今年の学園の生徒を指標にするなら、シュトラールブルーのルフト君やキスキルレッドのアース君くらいの人が100人以上、トリスカーナイエローのレオンハルト君やメリア君、ミスト君レベルの人も数十人はいるだろうね。アイゼン君やリダン君レベルの人は流石にいないとは思うけど、複数人を相手にすれば二人でも油断できないレベルの人がいることは間違いないよ』
ルフトやアースレベルの奴が100人以上に加えて、トリスカーナイエローのリーダー格のレベルが数十人いるとなると、客観的に見ればかなりの戦力と言っていいだろう。
「なるほどな。雑魚共がいくら集まったところでオレの脅威になるとは思えんが、一応参考にしておく」
『念のため言っておくけど、無茶はしないようにね』
「安心しろ。問題になるような行動はしない」
『よろしく頼むよ』
エルトシャンの言う無茶というのにどの程度の行動が含まれるのかは分からないが、騒動を起こすような真似はしないつもりだ。
『さて、構成員や戦力についての話はこんなところでいいかな?』
「ああ」
『次は、学園での目撃情報についてだったね。...と言っても現状では情報が少なくて、これについて話せる内容はあまりないんだ。とりあえず言えることとしては、フィフスがアストラムに現れたのが1週間くらい前ってことくらいかな。まあその時はフィフスだとは分かっていなかったけどね』
「そうか」
『すまないね。何か分かり次第すぐに教えるよ』
「そうしてくれ」
情報が無いならば食い下がっても仕方がないため、オレは潔く諦める。
まあ、学園周辺での目撃情報についてはそれほど重要なものでもないため、無いならないで構わない。
『...さて、聞きたいことは以上かな?』
「そうだな...。いや...最後に1つ聞きたいことがある」
『何だい?』
「この学園にフィフスの関係者、もしくは関係者を知り合いに持つ者はいるか?」
オレは思い出したかのようにこの質問をしたが、実を言うとエルトシャンに連絡をした一番の理由はこれを聞くためだ。
『もしかして、学園内に内通者がいるかもしれないと警戒しているのかい?』
「ああ。狙われている以上は当然だろう」
『...絶対にいないとは言い切れないけど、僕の知る限りではいないはずだよ』
エルトシャンはオレの想定していたものとは違う答えを返してきた。
アイゼンとエリスの会話からして、エリスがフィフスと何らかの関係を持っている、あるいは持っていたのはほぼ間違いない。そして、アイゼンはそのことを知っている様子だった。
オレはエルトシャンもこの事実を知っていると考えている。エリスをこの学園に招待しているのだから、その時にある程度の素性は調べているはずだし、この大陸でのエルトシャンの立場から言って、アイゼンが知っていてエルトシャンが知らないというのは考えにくい。
一応エルトシャンが本当に知らない可能性も無くはないが、知らないなら知らないで情報になるためそれはそれでいいだろう。
「本当だろうな?」
『何か気になることでもあるのかい?』
「実を言うと、シュトラールブルーの人間でフィフスの関係者ではないかと疑っている人物が1人いる。オレの見立てでは、そいつがフィフスと無関係であることはほぼありえない」
オレがそう言うと、エルトシャンはポータブル越しでも分かるような動揺を見せた。
もしオレの推測が合っていて、エルトシャンも真実を知っているのだとすれば、シュトラールブルーの人間だと対象を絞ったことでオレが言っていることが適当ではないことは伝わったはずだ。
『...どうしてその人物を疑っているんだい?』
「ただの勘だ」
少し苦しいが、こういってしまえばエルトシャンはこれ以上は何も言えないだろう。
「そんなことよりもう一度聞くが、本当にフィフスの関係者は学園にはいないんだな?」
オレは脅すようにエルトシャンにそう問いかける。
『...』
これまでの質問には景気良く答えてくれていたエルトシャンが、ここでオレの言葉に対して沈黙を返した。
エルトシャンはまだ何も言っていないが、この沈黙こそがオレの問いへの答えを表している。エルトシャン自身も、この時点でオレがある程度察していることは分かっているだろう。
『...仮に、学園にフィフスの関係者がいたとして、キミはどうするつもりなんだい?』
「敵対する意思があるのなら潰す。害がないのであれば何もしない」
『そっか...』
エルトシャンは観念したように小さくそう呟いた。
『...リダン君はほとんど確信しているようだからもう正直に言うけど、フィフスと関係のある子が学園にいることは確かだよ』
「ようやく認めたか。...それで、そいつはフィフスとどう関わっているんだ?」
『そこまで話さないといけないかい?』
「当然だ」
『...。...その子は約1年前までフィフスの構成員だったんだ。けど、その子はそもそも好きでフィフスにいたわけじゃないし、キミに敵対するつもりもないはずだよ』
「好きでフィフスにいたわけではない?どういうことだ?」
『その子の家族に闇属性の人がいたんだ。...そして、フィフスに襲われた。その子はその場に居合わせてしまってね、そのまま攫われてしまったんだよ』
「それで無理やりフィフスに入れられてしまったということか」
『そういうことだね。本人の話では、命令に従わないと酷い仕打ちを受けるから、従わざるを得なかったらしい』
「そいつがフィフスにいたのは1年前までという話だったが、そいつはその状況でどうやってフィフスを抜けたんだ?」
『約1年前、帝国でとある人物がフィフスに狙われているという情報が入ってきたんだ。僕は皇帝やアイゼン君に協力を要請してその計画を阻止し、その計画に参加していたフィフスの構成員の何名かを捕らえた。そして、その時捕らえた内の1人がその子だったんだ。捕らえたメンバーを調べると、その子が数年前に行方不明になった子だと判明してね。それで保護されたってわけだよ』
「そういうことか...」
ここまでの話を聞いて、一昨日のエリスの様子や先ほどのアイゼンとの会話に合点がいった。
『...リダン君、これ以上はもういいかい?その子はこういう境遇だし、さっき言った通りキミに危害を加えるようなことはないよ』
「そのようだな」
本当はもう少し聞きたいことがあるが、エルトシャンからこれ以上引き出すのは無理そうなため、ここは潔く引いておく。
『一応言っておくけど、今聞いた話は他言無用だからね。この話は一部の人間しか知らない話だし、その子もあまり人には知られたくないだろうから』
「分かっている」
『それじゃあ、今度こそ話は以上かな?』
「こんな時間に悪かったな」
『大丈夫だよ。また何かあったらいつでも連絡してくれて構わないからね』
「ああ。ではな」
そうしてエルトシャンとの通話を終え、ポータブルは光を失った。
いつもお読みいただきありがとうございます。
おかげさまで、本日の投稿で100話達成+1周年を迎えることができました。
物語のノイズになると嫌なので、普段はあまり後書きを書かないようにしているんですが、折角の節目ということで今回は少しだけ書こうと思います。良ければお付き合いしてくださると嬉しいです。
さて早速ですが、まずは更新が遅れていることを謝罪致します。
現在更新中の第5章は元々7月末には完結する予定でしたが、もう少しかかりそうです。
早くて8月末、遅くて9月末の完結になると思います。
何故か書けば書くほど執筆ペースが落ちていくんですよね...。
まあですが、先日初めて感想をいただいてかなりモチベーションは高まっているので、頑張って更新ペースを上げていきたいです。
やはり、この作品を読んで面白いと思ってくださる方が少しでもいるだけで作者としてはとても励みになります。1人でもそういった方がいてくださる限りは、完結まで頑張って書いていこうと思っています。
最後に少し余談なんですが、良い機会なので作者が呼んでいるこの作品の愛称を紹介したいと思います。
作者は感情希薄な『モルモ』ットは二重人格『者』を略してモルモ者と呼んでいます。良ければそう呼んであげてください(呼ぶ機会があるかは不明ですけど)
では後書きは以上になります。
今後ともこの作品を読んで楽しんでいただけると幸いです。




