第99話「腹黒少女とアイゼン」
学園に戻った後、エリスとはそのまま寮で解散となった。
部屋に戻ったオレは、まずとある魔道具にマナを流し込む。すると、魔道具が光りだして、そこから小さな物音が聞こえてきた。どうやら正常に動作しているようなので、オレはもう一度マナを流して電源を落とす。
今マナを流した魔道具は、先ほどエリスに渡した魔道具を監視できるものだ。この魔道具を通じて、エリスのいる位置を特定したり会話を盗聴することができる。
これらの仕組みは、エリスに渡した側の魔道具が発信したものをオレの手元にある魔道具が受信するという形になっている。これはポータブルの機能と似ている部分が多いため、今回はそれを改造して作ったというわけだ。
ちなみに、これらの機能は常に作動しているわけではない。
もちろんそういう風にすることもできるのだが、それだとエリスに気付かれるリスクも多少は上がってしまうし、そもそも常に監視していられるほどこちらも暇ではない。そのため、今回はスイッチのオンとオフができるようにし、必要な時にだけ機能させるようにした。
このスイッチを切り替えるトリガーは2つ。1つは今やったようにこちらが持っている受信側の魔道具にマナを流すこと。そしてもう1つは、声に反応するようにしている。つまり、これの持ち主が誰かと会話を始めたらスイッチが自動的にオンになるという仕組みだ。
ひとまず魔道具の動作は確認できたため、部屋にある作業机に魔道具を置く。
そしてオレはそのまま机に向かい、魔道具作りの作業を開始した。後二人の裏切り者候補、ダルクとソフィーリア用に同じ魔道具を作っておくためだ。
作業を開始して10分ほどが経った頃、近くに置いていた受信用の魔道具が光りだした。どうやらエリスが何かを話し始めたようだ。
オレは魔道具に近づき、聞こえてくる声に耳を澄ます。
『...。今いいかな?ちょっと相談あるんだけど』
魔道具の仕様上、会話が始まってからスイッチが入るようになっているため最初の方は聞き取れなかったが、確かにエリスが誰かと話している声が聞こえてくる。
エリスの位置を確認すると、今は寮にいる様子。恐らくポータブルで通話をしているのだろう。
『構いませんよ。私で力になれることがあるのなら何でも言ってください』
ポータブル越しの声をさらに盗聴の魔道具で受信しているため、ところどころにノイズが入って音質は悪いが、相手の声も聞こえてくる。
『ありがと。やっぱりアイゼン君は頼りになるね』
ここでエリスの口から相手の名が告げられる。オレはその名を聞いて、魔道具から発せられる音に更に集中を向けた。
『あなたにはお世話になっていますし、これくらいは当然ですよ。...それで、相談とはどういった内容なんですか?』
『...それがさ、実は今結構ヤバい状況なんだよね。最近学園の近くで不審な集団が発見されたって話は聞いてる?』
『ええ』
『実はその不審な集団ってフィフスの事なんだ』
唐突に予想外の単語が出てきてオレは一瞬自分の耳を疑った。何故エリスの口からフィフスの事が出てくるのだろうか。
『フィフスですか...。もしや彼らからあなたに接触があったということですか?』
『流石アイゼン君、察しがいいね。その通りだよ。一昨日街に出た時、あの人たちがあたしの前に現れたの』
『あなたのその辺りの事情は把握してますから。...それで、彼らはなんと?』
『あの人達は今、リダン君を抹殺する計画を立ててるみたい。それで、あたしにその協力をするように言ってきたんだ』
エリスの口から重要な情報が次々と飛び出してくる。
色々と疑問は浮かんでくるが、今は一旦それらを頭の中にしまい、オレは静かに話の続きを待つ。
『なるほど...。では相談というのは、あなたに接触してきたフィフスの排除をしてほしいということですか?』
『そう...。あたしはもうあの人達に関わりたくなんてない...。もう...あの人達みたいな自分勝手な人達に虐げられるなんて嫌っ......!...だから...アイゼン君の力を貸して。あたしの力で何をしたところで、あの人達に抗うことなんてできないから...』
『もちろんですよ、安心して私に任せてください』
『ありがとう...アイゼン君...』
『とりあえず、分かる範囲で構いませんので相手の戦力を教えていただけますか?』
『...たぶん、最低でもフィフスの精鋭が50人くらいは集まってきてると思う。リダン君を確実に仕留めるために、今は人を集めつつ情報収集をしてるんだって』
『精鋭が50人ですか。むこうがそれほどの戦力を集めているのであれば、対処には時間がかかりそうですね』
『すぐには動けないの...?』
『そうなります』
『...アイゼン君の強さなら、あの人達なんて楽勝なんじゃないの...?』
『一人一人に私が後れを取ることはないでしょう。ですが、50人近い戦力に対して私一人で勝つなど不可能ですよ。絶対的な個の力を持っていても、まとまった数の力には敵いません。それと、戦力的に問題がなかったとしても相手の情報をもっと正確に探る必要がありますから、どの道相応の時間がかかることは理解してください』
『でも...それじゃ...約束と違うじゃん...!あたしは約束通りアイゼン君に協力してきたんだから、アイゼン君もあたしを守ってくれるっていう約束を果たしてよ...!...今すぐ何とかしてくれないと、あの人達に何をされるか...』
エリスは泣きそうな声で、縋るようにそう訴える。
『気持ちは理解できますが、落ち着いてください。彼らがあなたに協力を求めているのなら、今すぐあなたに何かすることはないはずです』
『それは...そうかもしれないけど...。いつあの人達の気が変わるかなんてわからないじゃん...!』
『そこはあなたが上手く立ち回れば問題はないでしょう』
『それって...』
『あなたは私の準備が終わるまでの間、上辺だけでもいいので彼らの計画に協力してください。そうすればあなたは彼らに重宝され、危害を加えられることはないはずです』
アイゼンは淡々とエリスにそう言い放つ。
『無理だよ...!相手はあのリダン君だよ?あたしが計画に協力したってバレたら何をされるか...』
『だからそこはあなたが上手くやってください。あなたならばできるはずです』
『...』
二人の間に沈黙が流れる。そして少しして、エリスが小さな弱々しい声を出した。
『...分かった...やるよ。でもその代わり、できるだけ早くあの人達を何とかしてね』
『はい、もちろんです。安心してください、必ず約束は果たしますから』
アイゼンは優し気な声色でエリスにそう話す。
その後もエリスとアイゼンは5分ほど会話を続けていたが、特に気になるような情報が話されることはなくそのまま通話は終わった。
まさか、仕掛けをして早々こんな話を聞けるとは思っていなかったな。
エリスとアイゼンの関係、フィフスの件、求めていた内容とは少し違ったが十分すぎる情報を手に入れることができた。
後はこの手に入れた情報をどう使うか...。
魔道具の光が消えて静かになった部屋の中で、いくつかの道筋がオレの頭の中を巡り始めた。
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