第10話「リダンと第2王女」
(誰かいるみたいだな、どうする?)
(魔物であれば排除しに行くところだが、さっきいったようにここに魔物はいないはずだ)
(つまり?)
(誰かいたところで俺には関係ない。音のした方は避けていく)
どうやら、リダンは自分から関わりに行くことはしないらしい。前回の一件から、リダンは意外と目の前で危ない目にあっている人を放っておけない奴なのかと思っていたが、そうでもないのかもしれない。前は単純に魔物が絡んでいたから首を突っ込んだだけかもな。まあ、音からして戦闘音とかではないみたいだから、首を突っ込む必要はないと思ったという可能性もある。
だがリダンは関係ないとは言いつつも、音の正体が多少は気になっているようで、音のした方を気にしながら走っている。
音のした方を避けるとはいえ、進行方向ではあるので距離自体は近づいていく。少しすると、さっきよりも大きな破裂音がして、上から雨が降ってきた。いや、良く見るとただの雨ではない。
リダンは咄嗟にマナで体をコーティングしてそれを防ぐ。相変わらず反応と対応が早い。
ちなみに、今リダンが使ったのは無属性魔法の『マナ障壁』だ。無属性魔法は自分の適正属性に関係なく使用することができ、身体強化や具現化もこの無属性魔法に分類される。
(急に雨が降ってきたな)
(貴様が本気で言っているのなら底が知れたな。どう見ても今のは魔法だ)
オレはとぼけるが、リダンはちゃんと魔法だと分かっていたみたいだ。そう、今降ってきたのはおそらく水属性の第6位魔法『スコール』だ。
(なら、音の発生源の何者かがリダンに気付いて攻撃してきたということか?)
(この雨に殺傷能力はない。大方、俺に気付かずに魔法を放ったのだろう。まあ、多少やる奴なら今ので俺がいることに気付いたかもしれないが)
(どうするんだ?)
(何も変わらない。気付かれないように森を抜けるだけだ)
リダンはスピードを上げる。本気で関わりたくない様子だ。まあ、誰がいるかもわからない森で広範囲の魔法を放つ奴がいる場所に留まりたくないしな。
だが、そんなリダンの願いも虚しく前方に人影が現れた。人数は三人。リダンよりも少し幼いくらいの女が一人と、その護衛らしき女の兵士が二人だ。
リダンは一応進路を変えて無視しようとするが、三人は変えた進路を塞ぐように移動する。どうやらリダンに用があるらしい。リダンもさすがに無視はできなかったのか、足を止める。
「俺に何か用か?」
リダンがそう問うと兵士の一人が前に出ようとしたが、それを静止して一番小さい女が前に出た。
「あなたこそこの場所になんの用?ここがシュトラール家が管理している場所だと知らないのかしら?立ち入り禁止の看板は立てているはずなのだけど」
どうやらこの森は立ち入り禁止だったらしい。だが、入る時にそんな看板は確認できなかった。まあ、リダンはどう見ても道じゃない場所から森に入ったから、入口にそんなものがあったとしても確認できているわけもないのだが。
「そんなものは知らん。俺はここを通っていただけだ。目的地への近道だったんでな」
リダンはそんなことを気にした様子もなく、悪びれもせず答える。どう考えてもリダンが悪いのだが、堂々としたものだ。
「そう、なら早く立ち去りなさい。ここにいると私の魔法に巻き込まれることになるわよ」
「さっきの雨は貴様の魔法か」
「そうよ、すごいでしょ。褒め称えてくれてもいいのよ?」
「確かに雑魚にしては中々の魔法だったな」
「なっ!!!」
リダンの態度からトラブルに発展する可能性も危惧されたが、どうやら何事もなく通してもらえるらしい。そう思ったがリダンの態度はそれを許さなかった。リダンはどうにも人を貶さないと気が済まないらしい。いや、今回は一応は褒めているのか?
「わ、私が雑魚ですって!?あなた、私が誰か知ってて言っているのかしら?」
「知らん。貴様などに興味はない」
「な、なによその失礼な態度は!...まあいいわ、なら教えてあげる。私はシュトラール王国第2王女、あのナディア・シュトラールよ!あなたなんかが気安く話すことのできない、高貴で素晴らしい人間なの」
「そうか」
「そうか...って!どれだけ私を馬鹿にすれば気が済むの!それともあなたのような人間には私の凄さが理解できないのかしら。私は基準値の59倍のマナを持っていて、第8位の魔法まで使えるのよ!」
それでもリダンは態度を変えることはなかった。まあここでリダンの態度が軟化したらオレは心底驚くだろうが。そんな態度が気に食わないのか、目の前の女、ナディアの怒りは一向に収まる気配はない。むしろ怒りは最高潮に達しようとしている。
正直、刺さってくる感情はかなり痛い。リダンは何故そんなに平気そうな顔をしていられるのだろうか。
ちなみに、基準値というのはマナ含有量を示す指標だ。大陸中の人間のマナを順番に並べた時の中央値をマナの基準値としているらしい。
そんな中で後ろの護衛の一人に動きがあった。何かに気が付いたのか、一瞬はっとすると、ナディアに何かを耳打ちした。
「あなた、いつまでそんな態度でいるつもりかしら。まだ私の凄さが理解できないの!?...ふぅ、ふぅ。え、何?」
ナディアは怒り疲れて少し息が上がっている。そして、護衛から何かを聞いて少し表情を変えた。
「あなた、あのリダン・ブラックヘローらしいわね。その失礼な態度も、あの悪魔の子だというのなら納得がいったわ」
「俺をその名で呼ぶな」
「あら、怒ったの?いいじゃない。あなたにはお似合いよ、悪魔の子だなんて」
「聞こえなかったのか?その名で呼ぶなと言っている」
リダンはナディアを強烈に睨みつける。だが、ナディアはそんなリダンに対して怯むことはなかった。
「あら、やる気?いいわ、あなたのその生意気な態度を改めさせてあげる」
ナディアは睨みつけるようなことはしなかったが、リダンに対して怒りが収まらないらしい。更にリダンを挑発するような態度を取る。このまま戦闘に突入してもおかしくないような状況だったが、先ほどナディアに耳打ちをした兵士が止めに入る。
「ナディア様いけません。このような場所で争って怪我でもされたらどうするのですか」
「私に馬鹿にされたまま引き下がれと言うの?」
「そうではありません。ですが、ここで争うのは得策ではないと申しているのです」
「ならばどうすれば良いというの?」
「お忘れですか?リダン・ブラックヘローはナディア様と同じく、明後日からはレスト領の学園に通うはずです。ここにいたのもレスト領に向かうためでしょう。ですから、学園に入ってからリダン・ブラックヘローにナディア様の素晴らしさを教えてやれば良いのです」
このナディアという女、リダンと同い年だったらしい。見た目からして、リダンよりも1つか2つほど下だと思っていた。
「そう...、そうね。確かにここで争うのは少し大人げないかもしれないわね」
「理解していただけて良かったです」
「そういうことだから。ここは見逃してあげるわ、リダン・ブラックヘロー」
「何を勝手に話を進めている。撤回しないなら俺は貴様を許すつもりはないぞ」
「それはこっちのセリフよ。学園では楽しみにしていることね。その生意気な腹立たしい態度を改めさせてあげるわ」
リダンはまだ納得できていないが、どうやらこの場で争うことはないらしい。オレとしてはこのまま争いになってもどうでもよかったが、何事もないならそれに越したことはないだろう。
(まあいいじゃないか、リダンにとってもさっきの話は同じだ。学園で思い知らせてやればいい)
(ふん)
「一応、ここを通ることは許可してあげるわ。さっさと立ち去りなさい」
「そうさせてもらう」
リダンは足早にその場を去った。その背中に刺さる痛みは、三人と最初に会った時からは比べ物にならないほど痛かった。だが、あのナディアという女から刺さってくる感情には少し違和感があった。
*
森を抜け更にしばらく走り続けると、かなり大きな都市が見えてきた。
(もしかしてあれか?)
(そうだ。あれがレスト領の学園都市、『アストラム』だ)
(『アストラム』ね。領地の名前といい、この都市を作ったやつは四英雄のレストとやらが好きらしいな)
(この領地や都市の名前は全てエルトシャンが決めたらしい)
(へぇ。死線を共に潜り抜けた仲間を立てたってとこか)
(さあな)
(ところで学園都市って言ってたが、ここは15年前にできた町なのか?学園が始まったのは15年前だったよな?)
(俺も詳しくは知らないが、元々レスト領の主都だったこの町を学園都市として作り替えたらしい)
(なるほどな)
理由はわからないが、エルトシャンという奴は随分とこの学園に力を入れているらしい。自分の住んでいる場所を学園として作り替え、更に大陸中から生徒を集めているというのだから、かかった手間や費用は相当なものだろう。何が目的かは知らないが、なかなかできることじゃない。
リダンはそのままアストラムに入り、学園へと向かう。入口で軽い検問を受けたが、学園に入学する生徒だと言うとすんなりと通してくれた。
町の入口付近は普通の町といった感じで、商売をする者がいたり、何かを運ぶものがいたりと特別な所はあまりない。リダンの顔を知っている人間もいないのか、感情が刺さってくることもない。
ただ、入口付近を抜けるとそこには巨大な門があり、その前にフォーマルな恰好をした大人が立っている。その人間はこちら見ると声をかけてきた。
「もしかして、今年入学する生徒の方ですか?」
「そうだ」
「身元を確認しますので、名前を教えて頂けますか?」
「リダンだ」
その返答に門に立っていた人間が動揺する。同時に、こちらに対して恐怖心を向けてきた。悪い噂が流れているとはいえ、名前を聞いた瞬間にこれは流石に失礼じゃないだろうか。まあ、今に始まった話でもないが。
「リ、リダン・ブラックヘロー君。確かに確認しました。通っていいですよ。このまま進むと右手側に寮がありますので、まずはそこに向かってください」
一応、怯えながらも役目はきっちりとこなしてくれた。リダンは気にすることもなく、そのまま進んでいく。
学園の敷地内に入ってオレは少し驚いた。学園の敷地が想像していたよりもかなり大きい。町を外から見た時点でそこそこの大きさを想像していたが、それでも想像以上だった。どうやら、町のほとんどの場所を学園の敷地として使っているみたいだ。
少し歩くと言われた通りに寮らしき建物が見つかったので、そこに入っていく。寮にも同じように担当の人間がいて、学園の入口と同じような会話をし部屋に通してもらった。
(無事に着いたな)
(途中に腹立たしい奴もいたがな)
(まだ気にしてたのか。あのくらいのトラブルなら、リダンにはいつものことなんじゃないか?)
(まあそうだな。身の程知らずにも俺に突っかかってくる奴は多い)
(ならいいだろ。さっきも言ったが、学園が始まってから思い知らせてやればいい)
オレがリダンを宥めるような役目を担っているのは何故だろうか。まあ、リダンが問題行動を起こすとオレも困ることになるから、ある程度こういう役割になるのは仕方ないか。こういう事態を少しでも丸く収めるためにツンデレ作戦があるわけだしな。
(これからどうする?学園が始まるのは明後日からだろ?今日はもう遅いからいいとして、明日は何か予定はあるのか?明日の所有権はオレだけど、やることがあるならやっておくぞ?)
現在の時刻は19時。今日は移動で体が疲れているだろうし、休むには丁度いい時間だろう。
(今日の残りの時間と明日の全日を使って、貴様にこの世界の常識というものを教えてやる。覚悟しておけ)
(勘弁してくれよ。もちろんその時間も取る。だけどせっかく領外に出たんだ。明日は学園を見て回る時間も欲しい)
(口応えするな。貴様は俺に恥をかかせる気か?)
この時のリダンには有無を言わせない迫力があった。その迫力に気圧されたわけではないが、ここは素直に従っておこう。
そうしてオレは学園が始まるまでずっと、寮の自室でこの世界について勉強することになった。オレとしては恨み言の1つでも言いたかったが、リダンも自分の時間を使ってくれている。これ以上文句を言うのはやめておくことにしよう。
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