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感情希薄なモルモットは二重人格者  作者: 識友 希
第2章「学園入学編」
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第9話「モルモットは探られる」

ここから第2章になります。今日は第2章の前半(7話分)を一気に投稿します。

 リダンがレスト領の学園に入学する少し前、とある研究施設で一人の男が怒り狂っていた。


「おいっ!エルが消滅したとはどういうことだ!」


 怒り狂っている男はゼル・ブラッドコール。転生魔法によって現在リダンの中にいる少年を育て、実験体として好き勝手していた男だ。


「私に言われても困ります。実験をしたテッド先生に直接聞いてくださいよ」


 そう言われ、ゼルはテッドの研究室へと向かう。テッドの研究室はそこから歩いて10分ほどの場所にあったが、そこに向かう間もゼルの怒りが収まることはなかった。ゼルはテッドの研究室に着くなりノックもせずに扉を開けて声を上げる。


「おいテッド、聞きたいことがある」


「どうしましたか、ゼル先生。今はデータをまとめているところなので静かにしてもらえると助かるのですが」


「とぼける気か?エルのことだ」


「ああ、そのことですか。彼は私の転生魔法の実験に協力してもらったのですが、実験は失敗してしまったみたいで、彼の精神はどこかへ消えてしまいました。それにしても、なぜそんなに怒ってらっしゃるのですか?ゼル先生にも実験の話は伝えていたはずですが」


「私はそんな実験にエルを使うことを許可した覚えはない。あれは特別なのだ。こんな所で失っていい個体ではない」


「そう言われましても、今回の実験はあの方からの許可を頂いて行ったものです。この実験が成功すれば、私たちの悲願に大きく近づくことができますからね。なにしろ、悲願達成のために重要な転生魔法について知ることができ、更には莫大なマナを持ったリダン・ブラックヘローの体を手に入れることができますから」


 そう言われ、ゼルはこれ以上テッドを責めることはできなかった。あの方からの許可がでているのであれば、ここで自分が何を言ったところで意味はない。

 その様子を知ってか知らずか、覇気をなくしたゼルに対してテッドは更に言葉を続けた。


「ですが、実験が失敗したことは想定外でした。私の理論は完璧だったはずですし、彼の能力を持ってすれば成功確率はかなり高いと考えていたんですがねぇ」


「何か引っかかることがあるということか?」


「いえ、実験は失敗したということで間違いないと思います。報告によれば、リダン・ブラックヘローにも変化は見られなかったようですし。ただ、彼がただ失敗するとも思えないんですよねぇ。もしかしたら彼の精神はどこかにまだ残っているのかもしれません」


 その言葉にゼルは一筋の希望を見出した。ゼルは『ディーエル』を取り戻すためならば何でもするつもりでいる。ゼルにとって『ディーエル』はそれだけ重要な存在なのだ。


「エルを実験に使ったことは許すつもりはない。だが、情報提供には感謝する」


 そう言ってゼルはテッドの研究室を後にした。


「まずはリダン・ブラックヘローから探ってみるべきか」


 ゼルは歩きながらそう呟く。ゼルは何人かの研究員に声をかけた。自分よりも立場の低い研究員に協力させ、リダン・ブラックヘローについて調べさせるつもりだ。


 数時間後、ゼルが声をかけた研究員たちは集まり、情報共有を行っていた。


「クルトさんの報告によると、実験後のリダン・ブラックヘローには変化は見られなかったようです。クルトさんの接触の後にブラックヘロー領外に行くことが確認されたようですが、これもリダンの普段の行動の範囲内らしいです」


「なるほど、やはりテッドの言う通りリダン自体には変化は確認できないか。だが、今後もそうだとは限らない。しばらくは探りを入れてみるべきだ」


「リダンは今月からレスト領の学園に入学するようです。探りを入れるならそこになるでしょう」


「レスト領の学園か。確か学園にはあいつがいたか。奴に探らせるのはどうだ?」


「良いかと思います。あとは、末端の者ですが学園に入学予定の者がいるようです。その者も使えるかもしれません」


「ではそいつにも指示を出しておくとしよう。ひとまずはこの二人にリダンを探らせてみるか」


「そのようにしておきます。それと、ギルスさんのお子様も今年学園に入学するようなのですが、そちらにも指示を出しておきますか?」


「ふむ。その子供は施設の関係者ではないのだろう?では、余計な話はしないでおくべきだ。一応、ギルスの方にだけ話を伝えておけ」


「承知しました」


「報告は以上か?では、今決めたように頼む」


「すぐに指示を出してきます。では、私たちはこれで失礼しますね」


 そうしてゼルが集めた研究員たちは去っていった。ゼルがそれを見送り、今後の戦略を練りながら歩いていると前方からゼルに声をかける者がいた。


「あら?ゼルじゃないの。どうしたの?そんなに怖い顔をして」


「ん?ああ、ネルか。少し考え事をしていただけだ」


「考え事って?」


「リダン・ブラックヘローについて探っていてな。その戦略を練っていたところだ」


「へぇ?リダン・ブラックヘローねぇ?」


「何か知っているのか?それならば教えてくれ」


「別に詳しいってわけじゃないけど、私も最近彼に興味津々なの」


「何かあったのか?」


「私って魔物の研究してるじゃない?この前もシュトラール王国にゲートを開いて、かわいい子供たちを送り出していたんだけど、どうやらゲートが消されて、子供たちもほとんどやられちゃったみたいなの。それで誰がやったのか調べてみたら、リダン・ブラックヘローだったってわけ」


「なるほど。リダンが魔物狩りをしているというのは報告にあった。一見するとおかしなことはないように思えるが、時期が時期だしな。一応調べてみるか。情報提供感謝する」


「役に立ったなら良かったわ。それで?あなたは何故リダンを探っているの?」


「テッドの転生魔法の実験が失敗して、エルが消えてしまった。だが、私はエルがただ失敗するとは思えない。エルは必ずどこかで生きていると考えている。それで、この実験の対象者だったリダンを探っている」


「そうだったのね。私も何かわかったら教えてあげるわ。そっちも何かわかったら教えてね」


「そうしよう」


 ゼルとネルはそれから他に会話をすることなく別れる。ゼルはその後もずっと『ディーエル』を探し出す戦略を考えていた。


 *


 ディクトやイヴと話をした翌日、リダンは予定通りにリグレクト領からブラックヘローの屋敷に帰ってきた。それから2晩が明け、今日はリダンが学園に入学する前々日だ。今はブラックヘローの屋敷のある町から少し離れた場所でゲートを構築している。ちなみに今日の所有権はリダンにある。


(前々日から向かうなんて、気合が入ってるな。もしかして、リダンは意外と学園を楽しみにしていたのか?)


(そんなわけがないだろう。明日の貴様に委ねるのが嫌なだけだ)


(そろそろ、少しは信用してくれてもいいんじゃないか?)


(貴様のような怪しいやつを信用できるわけがないだろう)


(オレだって自分が損をするような事はしないさ。つまり、今はリダンの中にいるからリダンが損をするような事はしない)


(だといいがな。信用して欲しければ信用されるだけのことをしてみせろ)


(まあ今後に期待していてくれ)


 オレとしては、今のところ自分を全て見せる予定はない。リダンができないはずの事をしたり、オレや施設の人間しか知らない情報を話してしまうと施設の人間に目を付けられる可能性があるからだ。

 以前の接触で完全にシロだと判断されたとは考えにくい。目を付けられた状態でも疑われないくらい慎重に動く必要がある。

 そういう面から言うと、リグレクトの一件は少し軽率だったかもしれない。リダンには人助けをするようなイメージはないから、そこから疑われる可能性もある。とはいえ、リダンは普段から魔物狩りをしていたみたいだから、その延長上と考えればそこまで問題はないだろう。このまま問題がないようならば、この一件が今後の行動を考える上での指針にもなる。

 だがリダンの信用を得るためなら、ある程度は力を見せたり、事情を話すことも悪くないと、今は思い始めている。


 色々と思考を巡らせていると、ゲートの構築が終わったようで、リダンはその中に入ろうとしていた。


(このゲート、どこに繋がってるんだ?)


(王都の近くの小路だ。俺がゲートを開ける場所で、レスト領に一番近いのがここだ)


 どうやらリダンはレスト領には行ったことがないらしい。ゲートを開くには2つの条件が存在する。1つは、ゲートを開く場所のマナが濃いこと。2つ目はゲートを開く場所を知っているということだ。この知っているというのは、単純に行ったことがあれば条件を満たすことができる。

 一応、行ったことがない場所でも、その場所の座標と情景を鮮明かつ明確に把握していればゲートを開くことができる。だが、これは普通にゲートを開くよりも圧倒的にマナの制御が難しいし、色々と情報も必要になってくる。

 リダンにはその制御はまだできないだろうし、情報も足りないだろう。そもそも、この前読ませてもらったゲートに関する文献にはその内容は載っていなかった。


(そういえば、ゲートを構築するのが速くなったんじゃないか?)


(当然だ。俺はその辺の雑魚共とは違うからな。慣れるのも速い)


 ゲートに限らず、魔法を発動する速度はその人間のマナを操作する練度によって変わる。リダンはゲートを構築するのに以前は5分ほどかかっていたが、今回は4分ほどで完成させた。十分に速いほうらしいが、まだまだ先はある。極めたものならば、ゲートの構築には30秒もかからない。


 リダンがゲートの中に入ると、そこにはオレの知らない景色が広がっていた。とはいえ、オレにとってはほとんどの場所が知らない景色なんだが。


(ここからレスト領まではどれくらいなんだ?)


(貴様、昨日俺が教えてやったことを忘れたのか?)


(もちろん覚えているさ。昨日はいろいろと叩き込まれたからな)


 オレは昨日の空いた時間を使って、この世界の常識を頭に叩き込んでいた。元々、時間ができたらいろいろと覚えていくつもりだったが、昨日リダンから「貴様の無知のせいで俺に恥をかかせる気か?」と言われ、急遽覚えることになった。

 そして、昨日覚えたのはこの大陸の地理と歴史が中心だ。どんな国があるのか、どういう背景で今の情勢になったのかを教えてもらった。昨日1日ではとても全てを網羅することはできないため、重点のみしかまだ知らないが。


(ならば自分で考えろ)


(確か、直線距離で500kmくらいだったか?だけど、紙の上と実際とじゃ全然違うだろ)


(それも含めて自分で考えろということだ)


 なるほど。まあなんでもかんでも教えてもらってたら今後が大変だからな。リダンにそういった意図があるのかは分からないが。

 オレが黙ったのを確認してか、リダンは身体強化をして走り出す。しばらくして、オレはふと疑問に思ったことを問いかけてみる。


(そういえば、学園側からの迎えとかはないのか?誰もがリダンみたいにゲートを使ったり、高速で走ることはできないだろうから、レスト領に行くのも大変だろう)


 家によっては送迎なんかもあるだろうが、それも全員じゃない。レスト領にたどり着くのが困難な生徒だっているはずだ。


(迎えは断った。迎えの人間から刺さってくる感情が煩わしいからな。それに自分で行ったほうが速い)


(まあそれもそうか)


 オレはそれで納得する。確かに、リダンの能力や境遇を考えたら気ままに一人で向かったほうが色々と都合がいい。


 リダンが10分ほど走ったところで、大きな町が見えた。


(あれが王都か?想像以上にでかいな)


(そうだ。一応言っておくが、王都には寄らないぞ)


(わかってるって。人が多くて大変そうだしな。少しだけ興味はあるが)


 リダンは王都の方角とは少しずれたほうに走っていく。どうやら、人が少ないであろう道を通るつもりのようだ。あるいは、レスト領への近道なのかもしれない。


 リダンが走ること更に20分ほど。前方に森が見えてきた。ここを通るのだろうか。


(また森か。もしかして、通り道で魔物狩りでもするつもりか?)


(まあ、魔物がいたならそうしたがな。残念ながら、ここのマナは大したことはない)


(まあ王都周辺だしな。魔物がいたら大事になりそうだし、いたとしても退治されてるか)


 リダンはそのまま森の中に入っていく。


(もしかしたら、また変なトラブルに遭遇したりしてな)


(もしそうなったら、貴様という疫病神を連れているせいだろうな)


(どちらかというと、トラブルを引き寄せそうなのはリダンのほうだけどな)


(貴様は人を苛立たせることに関しては天才のようだな。どんな雑魚でも1つくらいは秀でた点があるものだ)


(ひどい言われようだな)


 以前と比べるとリダンとの会話が増えた、気がする。オレが少しだけ踏み込んだことで、リダンも少しだけ心を許してくれたということだろうか。まあ信用とはまだ程遠いようだが。


 リダンがしばらく森の中を走っていると、少し離れた所から大きな破裂音が聞こえた。

 これは小説で呼んだことがある。どうやら、フラグというやつを立ててしまったらしい。

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