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鉄塔のアエネイス  作者: 民間人。
エピローグ
358/361

望む通りに

「これは驚いた……」


 どろどろと流れる溶岩流の中を、渡し守に導かれて降っていく。虫の集る鬱陶しい彼岸の川岸から、短い襤褸布だけを身に纏い、短剣を腰に下げた若い渡し守があったのである。


 運賃を渡して燃え盛る紅蓮の中を流れていくと、やがて炎の中に大きな門が現れる。苦しみに喘ぐ人々を装飾として彫り込んだ地獄の門が開かれると、黒衣を身に纏った裁判官が、冷ややかな視線で彼を見下ろしていた。


「お前は地獄の第八層、悪意の罪人には相応の罰であろう」


 アムンゼンは裁判官の下に跪き、ぎらぎらとした瞳を彼に向けた。


「いいえ。私が行くべきは第九層、裏切り者の罪人でしょう」


 裁判官は怪訝そうに眉を顰める。


「奇妙なことを言うな。貴様はより重い罪を被るというのか」


 体格も良く、威圧的で厳格な裁判官は、溶岩流の熱に衣服を焼き尽くされ、身包みを剥がされていた罪人の、異様なほど強い瞳に思わず狼狽えた。


「私が第八層に堕ちれば、私は第九層に相応しい人となり、そうでなくても世界秩序への裏切りは明白なように思われます」


 裁判官は揺らぐことのない猫のような鋭い目に睨まれ、根負けしたように軽やかに笑った。


「ふふっ。これは。随分と殊勝な忠臣も在ったものだな」


 裁判官は大きなガベルを振るい裁決の音を鳴らす。ガベルはそのまま地獄の第九の門を指し示した。


「アムンゼン・イスカリオ!世界を冒涜する裏切り者よ!凍てつく蓮華の花が咲き誇る、地獄の第九層へと向かうがいい!」


 溶岩流が荒々しく法廷に流れ込み、アムンゼンを乗せた船を第九の門へと流し込んでいく。

 門の先へ向かうと、船は無限に落ちるような滝の中へと落とされ、体を切り裂くような極寒の氷河の上に落とされる。光のない世界を覆う氷の上を、アムンゼンは素足のままで歩んでいく。


 体は悴み、体液が全て凍り付くような無明の闇の中を、彼は殆ど無作為に彷徨い歩いた。


 どれ程歩いたのか知れない。氷柱の中に人を封じ込めたものも目にしたし、川の中でのたうち回る悪魔の姿も目にした。

 やがて彼は、地獄の最果てにある、侘しく吹雪く雪原の上で、彼と同じ姿で歩く男の姿を見つけた。


「陛下」


 男は消え入りそうな小さな声に気づき、振り返る。音を奪う吹雪の中で、吊り目の中にある大きな赤い瞳が爛々と輝いた。瞳は猫背で無表情の男を認める。


 男は、明るく、屈託のない笑顔を返した。


主な出来事

 プロアニア夏革命

 プロアニア王ヴィルヘルム・フォン・ホーエンハイム崩御

 ケヒルシュタイン共和国、およびハンザ連邦共和国の建国


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