私、新しい作戦を決行する
翌日、朝の9時半。
北川先輩と私は町で一番大きなデパートへ向かっていた。
理由は、待ち合わせをしているからである。
彼女が寝坊することはほぼ100%なのだが、ちゃんと起きれたという1%に満たない可能性を考慮して待ち合わせ時間は10時ということになっている。
『決算大バーゲン』の広告塔が見え、広場に待っていた者は…!
「すやすや」
「……熊谷……」
ベンチに横になって寝ている秋ちゃんがそこにはいた。
洋服は胸元にリボンのついた春色ボレロと、フリルのついた桃色スカート。持ってる物も今日はカメラではなく可愛い淡いピンクのトートバックだ。
結論、全体的にピンクだった。
先輩は一度ため息をつくと近くによって肩を揺すった。
「起きろー熊谷ー」
「あう~うあ~い」
しかし、頭をグワングワンさせて理解不可能な言葉を溢すだけで起きる気配はない。
「駄目ですよ先輩、それじゃ起きません」
「じゃあどうすりゃいい?」
「頬っぺたの両側を思いっきり引っ張ってみてください」
これは私が秋ちゃんを起こす時に編み出した必勝法だ。
「こ、こんなもんか?」
「もっとです。もっと」
「こうか?」
「……いはい…いはいいはい~!リンはんやへて~~!」
ようやく体を起こしたが、目がトロ~んとして瞼が重そうだ。
「ほら、熊谷。起きろ」
「ほへ?」
再度肩を揺すると、瞼がゆっくり開いて、そして…。
「ななな、なんで先輩がここに!?」
腕で頬の涎を拭きつつ、座ったまま高速後ずさり。
顔は……もう説明しなくてもわかるでしょう。
「待ち合わせ場所がここだからだ。というか熊谷。お前、何時に来た?」
「え、えっと確か10時ですが…」
「…今、9時30分なんだが……午前と午後を間違えたわけじゃないよな?」
「北川先輩。さすがに秋ちゃんでもそれはないですよ」
秋ちゃんは天然だが、決してバカというわけではない。
さすがに午前と午後ぐらいは……。
期待を抱きつつ秋ちゃんを見やると横に目線を反らしながら。
「そそそ、そんなわけ、ななな、ないじゃないですか。べべべ、別に、夜の町に期待してなんていませんですから……」
…訂正。私の親友はバカでした。私の知らないところで天然化が進んでました。
新しいツンデレのパイオニアになっているとは知らなかったんです。
先輩も嘘だと気づいたようで。
「はぁ~。そんな夜中に呼ぶかよ。危ないから今度は気を付けろよ」
「ご、ごめんな…ありがとうございます?」
「いや、それは謝るであってる」
二人が和やかに話しているのを見て、私は作戦が順調であることを察する。
名は……『秋ちゃんと北川先輩ラブラブ大作戦!!』
体育祭の時から気づいてたけど、秋ちゃんは北川先輩が好きなんだろう。
ずっと見つめてたし、何より乙女の顔だ。
まぁ北川先輩はオマケですけど、一応お世話になっているわけですし。
ここらで私がキューピットになろう!そして感謝する北川先輩はより私を盲信し、私の恋への協力もより良いものにしよう!と思うはず。
そのためにデパートの話を持ち出したり、わざわざ2ヶ月前に先輩が言っていた言葉を口実に秋ちゃんを呼んだわけだ。
我ながら今回の作戦において抜かりはない。…さて。
「ほら、そろそろ行きますよ先輩!」
「おい、ちょっと!い、行くぞ熊谷!」
「え、あ、は、はいぃぃぃぃ!!」
私は先輩の手を引く。
先輩は秋ちゃんの手を引く。
二人(と幽霊の私)のデートが幕を開けた。




