俺、天才も秀才もろくでもない
「わ~涼しいのですね~」
姫ヶ岳が家に来たということはやはりあの件なのだろう。
となると、面倒なのは…。
「……輪廻、ちょっと俺の部屋で待っててくれないか」
「いやに唐突ですね。何でですか」
「何でってそれは…」
どうしたもんか。ここで下手な嘘をつくとそれもそれで面倒なことになりかねん。
かといってあの事を言うわけにも…。
「北川くん~早く勉強をやるのですね~」
「え、勉強?」
「土下座してまで『勉強を教えて下さい』って頼んだのは北川くんからですよ~?」
…なるほど。さすが学年トップクラスの秀才。
ここに来た理由と輪廻が邪魔な理由の両方を示す鮮やかなスルーパス。
明らかに『土下座』というワードは要らなかったが。
「…まぁそうゆうことだ。頼むよ」
「う~ん、腑に落ちない点はありますが…。じゃあ後でアイス買って来て下さい」
「感謝する」
俺のパシり券と引き換えに、輪廻は二階へと上がっていった。
「…で?何しに来たんだよ」
「それはご自分の胸に手を置いてから考えてほしいのですね~」
「……俺の記憶では気長に待つって言ってた気がするが」
「私も正直~北川くんがここまで悩むとは思ってなかったのですね~」
「………」
体育祭から約1ヶ月。
俺は彼女から出された選択肢を決定できずにいた。
「私に協力してくれたら~北川くんは幽霊さんが成仏してハッピ~私は神崎くんと付き合えてハッピ~。互いにウィンウィンな案と思うのですね~」
「……」
姫ヶ岳と神崎は事実上相思相愛だ。ただ神崎は鈍感で全く気がついていない。
姫ヶ岳のほうは気づいてたと思っていたが、俺に協力を頼むところで違うことがわかる。
「……もう少し、もう少しだけ待っててくれないか」
「う~ん。私にもあんまり時間がないん・・・」
急に姫ヶ岳の言葉が切れる。
「?どうし」
「あぁ!いけませんわ、北川くん!そこはぁ!」
「?????」
いきなり声を荒げる隣の秀才。
「…ふぅ。やれやれですね~」
「??…何だったんだ、今の?」
「ドアの奥から気配がしたので追い払ったのですね~。ウブな幽霊さんで助かりました~」
「・・・あぁ」
そうか、あれか。後で説明の難しいヤツか。
「そういえば、どうして私が見えてることを幽霊さんに隠すのですか~?」
「今のは勝手にやっただろ」
「部屋から出したのでバレてはいけないものだと感じたのですね~」
「なるほどな。…見た目から想像できないかもしれないが、アイツはかなり狂気的なヤツなんだよ」
いったい何度殺されかけたことか。
「へ~。だから、あんなに腰が低いのですね~。けど、北川くんも男なんだから押し倒して辱しめればいいんじゃないですか~?」
え、何この子。考え方が怖い。どっかの幽霊みたいなこと言ってる。
「もうちょっと優しさってものを持てよ」
熊谷を見習え。
「それじゃあお喋りはこの辺にして、要件済ませるのですね~」
姫ヶ岳がテーブルの上に置いたのは一枚の夏祭りのチラシだった。
「今度、ウチの神社でお祭りするのですね~その時に答えを聞くのでよろしくなのですね~」
「……次の日曜か」
「はい~。出来れば神崎くんも一緒に来てくれると嬉しいですね~」
「そっちがメインだろ」
「さぁ~?それはどうか……あぁん!こ、これ以上はぁ!」
「……情緒不安定かよ」
姫ヶ岳とは知り合って間もないが、こいつもこいつで頭おかしいと思う。
今度のは少し長く叫んでるが、輪廻が覗こうとしてるのか?
そう思っていた矢先。幽霊だけでは開けないドアが開き。
「ふぁあ。……我が弟。さっき聞こえた声は私の幻聴か?」
「…幻聴だよ」
「そうか。…昨日のゲーム疲れが残ってるのかもな。寝てくる」
目元にクマがはいっていた姉さんは、あくびのような声を出しながら部屋へと戻っていった。
「…えっと。私もそろそろお暇するのですね」
珍しく発音が間延びしていない。
「そうしてくれると助かる」
「……では…。いい返事を期待しておくのですね」
彼女は玄関出て、陽炎のなかで姿を眩ました。
「……夏祭りねぇ」
残されたチラシを、俺は意味もなく照明にかざした。




