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第1話:天才ギャルエースのドライブを、地味系カットマンが全弾無効化するまで

初めまして!

本作を開いていただき、本当にありがとうございます。

※本作は、「第5回ドリコムメディア大賞」への応募作品となります。

――「地味で最弱だと思われていたカットマンが、実は世界レベルの化け物だったら……?」

卓球の熱い「実は最強」系の物語です。

ルールがあまり分からない方でも、スピード感とカタルシス(見返し要素)を楽しめるエンタメ小説として執筆しております!

これから【不定期】に更新していく予定ですので、もしよろしければブックマークやポイント評価などで応援していただけますと幸いです。

それでは、第1話をお楽しみください!

「ッパン! ッパン! ッパン!」

放課後の第2体育館。

冷たいコンクリートの床に、規則正しく、かつ鼓膜を激しく震わせるほどのピンポンの音が響いていた。

私立翠ヶ丘(みどりがおか)高校の卓球部。

その部員数は30人を超えるが、今は練習の手を止め、全員が静まり返っていた。

誰もがその『異常なラリー』に目を奪われ、言葉を失い、ただただ息を呑んで見つめることしかできない。

「ハァッ……ハァッ……! なんで……なんで抜けないのよ……っ!!」

鋭い悲鳴のような声を上げたのは、一ノ瀬凛(いちのせ りん)。

高校1年にしてインターハイ出場を決めた、誰もが認める『天才・超攻撃型サウスポー』だ。

金髪混じりの派手なウェーブヘアに、規定ギリギリまで短くしたユニフォームのスカート。

一見すれば今どきの派手なギャルそのものだが、その右腕から放たれるドライブは男子顔負けのスピードを誇る。

バウンドした瞬間に鋭く沈み込み、コートを文字通りぶち抜くような圧倒的な威力を秘めていた。

そんな天才が、額に大粒の汗を浮かべ、形相を変えて絶叫している。

しかし――。

「……ふぅ」

コートの反対側。

地味な黒髪を一本のゴムで無造作に結んだ少女――星野紬(ほしの つむぎ)は、至って冷静だった。

前髪の間から覗く瞳には焦りの色など微塵もなく、ただ淡々と、機械のように正確に白い球を見つめている。

凛がどんなに弾丸のような超高速スマッシュを叩き込もうが、

どんなにエグいコースへ急激に曲がるドライブを打とうが。

紬は、まるで未来を予知しているかのように、その球が落ちる場所に先回りしている。

そして、ラケットを胸の高さから膝の下へと、鋭く斜めに振り下ろす。

――絶対防御。

それが、彼女のプレーを表す唯一の言葉だった。

「これで……っ! 終わりにするッ!!」

凛が吠えながら、腰を深く落としてラケットを大きく一閃した。

バックサイドから放たれた、この日一番の威力を持つクロスへの決定打。

凄まじい風切り音を立てて迫る白い球に、誰もが「今度こそ決まった」と確信した。

その瞬間。

紬の身体が、音もなく横へとスライドした。

まるで重力を無視したかのような滑らかなフットワーク。

迫り来る弾丸に対し、紬はラケットを優しく、かつ完璧な角度で添えた。

カツン、という小さな音が響く。

その刹那、凛の放った猛烈な前回転(トップスピン)の勢いが、一瞬で完全に死んだ。

それどころか、紬の特殊なラケット面との強烈な摩擦によって、白い球が『ギュルルルル』と体育館の空気を引き裂くような、不気味な異音を立てて回転を始めたのだ。

放たれた球は、ネット際ギリギリをかすめるように低く飛び、凛のコートの隅へと力なく落ちる。

「レ、レシーブ……っ!」

凛は咄嗟に前に飛び出そうとした。

しかし、その身体は一歩も動かせなかった。

台の上でバウンドした瞬間、白い球は前へ進むのをやめ、まるで生き物のように『真横』へと急激に鋭く直角に変化し、そのままコートの外へと逃げていったからだ。

「……そこまで。21対12。星野の勝ち」

静まり返った体育館に、審判をしていた副部長の、かすれた声が響く。

「嘘……でしょ……。私、一本も、まともに打ち抜けなかった……?」

天才・一ノ瀬凛が、その場に膝からへたり込んだ。

ラケットを握る右腕は、屈辱と、そして生まれて初めて味わう圧倒的な『恐怖』で、小さくガタガタと震えていた。

そう。

地味で目立たない、部内ランク最下位のカットマン、星野紬。

彼女の本当の正体は、相手の攻撃をすべて『無効化』し、触れただけで対戦相手を絶望の底へと叩き落とす――【絶対防御の超回転(バックスピン)】を操る怪物だった。

◇

時計の針を、ほんの2時間ほど巻き戻す。

「おい星野ー。お前、今日の練習試合、また他校の男子にストレートで負けたんだって?」

放課後の体育館。

そう言って、勝ち誇ったようなニヤニヤ顔で声をかけてきたのは、遠征にやってきていた他校の男子生徒だった。

ここ私立翠ヶ丘高校には、男子卓球部が存在しない。

学校の予算や方針の都合で、学内にあるのは部員わずか数名の『女子卓球部』だけなのだ。

そのため、まともな練習相手を求めて、近隣の高校の男子部員がよく遠征や合同練習にやってくる。

だが、彼らはいつも「どうせ女子だけの弱小部だろ」と、翠ヶ丘高校を、そして何よりカットマンの紬を舐めきっていた。

「あ、うん。ちょっと相手のドライブが強くてさー。全然拾いきれなくて、ボロ負けしちゃった」

紬は使い古したラケットをケースに片付けながら、いつものように力のない苦笑いを返す。

いかにも「運動の苦手な、やる気のない部員」の演技だ。

「だよなー。だいたいお前みたいなカットマンなんて、今どき世界じゃ流行らないって。トップ選手を見てみろよ、みんな前陣での高速ラリーじゃん。後ろに下がって守ってばかりの戦型なんて、もう今の時代じゃオワコンなんだよ」

男子生徒はフンと鼻で笑い、優越感に浸りながらそのまま荷物をまとめて去っていった。

遠ざかる彼の背中を見送る紬の瞳は、先ほどまでの気の抜けたものとは打って変わって、驚くほど冷ややかに、そして深く澄み切っていた。

(まあ、そう思われてるなら、私にとっては都合がいいんだけどね……)

紬は小さくため息をつき、自分のラケットを見つめた。

男子卓球部がなく、女子部員しかいないから、周囲の目も緩い。

それこそが、紬が「過去を隠し、実力を隠して、静かに普通の高校生活を送る」ために選んだ、最高の隠れみのだった。

実は、紬の祖父はかつて世界選手権でメダルを獲得し、世界を震撼させた伝説のカット主戦型プレーヤーだった。

幼少期から、その祖父によって狂気的とも言える地獄の英才教育を叩き込まれて育った紬の技術は、もはや同世代の高校生レベルを遥かに超越している。

本気を出せば、さっきの男子生徒のドライブなど、目を瞑ったままでも100回連続でネット際数ミリに返球することなど造作もない。

(高校では、絶対に目立たず、大人しく、のんびりと卓球を楽しむ。それでいいはずだったのに……)

そんな紬には、この翠ヶ丘高校で実力を隠し続けなければならない、もう一つだけの重い理由があった。

(……蒼ヶ溪(あおがだに)高校)

脳裏に浮かぶのは、同じ女子卓球部を持つ、県内絶対王者の名門校。

そこには、かつてジュニア時代に紬を裏切り、卑劣な罠によって彼女を表舞台から引きずり下ろした、因縁の相手が特待生として君臨している。

もし自分が本気で卓球を再開すれば、すぐにあの冷徹な『蒼ヶ溪』の連中に見つかってしまう。

それだけは避けたかった。だからこそ、紬は翠ヶ丘高校の片隅で「無能な最下位カットマン」を演じ続けなければならなかったのだ。

しかし、その平穏は、あの「天才ギャル」の乱入によって、音を立てて崩れ去ることになる。

◇

「ちょっと、あんた。星野紬よね」

男子部員たちが帰り、部活の全体練習も終わった居残り練習の時間。

誰もいなくなった静かな体育館に、ツカツカと激しい足音が響いた。

振り返ると、そこに仁王立ちしていたのは、部内で誰もが恐れるエースの一ノ瀬凛だった。

「え、あ、一ノ瀬さん……? どうしたの、まだ残ってたんだ」

「とぼけないでよ。私、見ちゃったんだけど」

「え? 何を……?」

凛はバチバチとした敵意を隠そうともせず、腕を組んで不機嫌そうに口を尖らせる。

「今日の昼休み。あんた誰もいないと思って、一人で奥のコートでマシン練習してたでしょ。その時、マシンの最高設定……時速120キロのプロ用ランダム首振りモードの球をさ。あんた、全部ネット際数センチにノーミスで返してた。……あれ、一体何の冗談?」

(――しまりがないところを見られた……!)

紬の背中に、嫌な冷や汗がツッと流れる。

誰もいないと思って、少しだけ日頃のストレス発散のつもりで本気を出してしまったのが完全に仇となった。

「あ、あれは、その! たまたま調子が良くて、なんか奇跡的にラケットに当たったというか……!」

「言い訳はいいから、さっさとラケット持ちなさい。私と試合するのよ」

「ええ!? 私なんかじゃ一ノ瀬さんの練習相手にならないって!」

「うるさい! あんたが本当に『ただのラッキーなド下手』なのか、それとも『実力を隠してるイカれたバケモノ』なのか――私のドライブで、その化けの皮を直接ブチ剥いで確かめてあげるわ!」

凛の瞳は、本物の獲物を見つけた肉食獣のようにギラギラと輝いていた。

こうして、絶対に目立ちたくない最強の隠れカットマンと、プライドの高い天才攻撃型ギャルの、誰にも言えない秘密の勝負の幕が上がった。

そして、その結果が――冒頭の、凛の完璧なる惨敗である。

「ハァ、ハァ……っ。あんた、本当に、一体何者なのよ……!」

床についた手に汗を滴らせながら、凛が信じられないものを見るかのような驚愕の眼差しで紬を見上げる。

紬は「あちゃー、やっぱりやりすぎちゃったかな」と心の中で頭を抱えながら、急いでラケットをケースへとしまい込んだ。

「だから言ったじゃん。ただの、部内最下位の、運が良いだけのカットマンだよ。……じゃあ、私はもうバイトの門限があるからこれで!」

「待ちなさいよ!」

逃げるように体育館の出口へと駆け出そうとする紬の細い手首を、凛が後ろからガシッと力強く掴んだ。

その顔は、プライドを粉々に砕かれた屈辱に震えつつも、どこか信じられないほど熱い歓喜の火を灯していた。

「……あんな面白いカット、私、生まれてから一度も見たことない」

「え?」

「決めたわ。あんた、明日から私に付き合いなさい」

「いや、だから私は目立ちたくないし、普通の高校生活を――」

「関係ないし! あんたが隠れてようがなんだろうが、私のドライブがあんたのカットを真っ二つにブチ抜くその日まで、私は絶対に諦めないから! 明日、あんたの家に行くから住所教えなさい!」

「ええええええええ!?」

平穏を望む最強隠れカットマンの日常が、最悪で最高の、そして誰よりも熱い天才ギャルによって、いま完全にぶち壊された瞬間だった。

第1話 了

第1話をお読みいただき、ありがとうございました!

地味系隠れ強キャラの紬(つむぎ)と、自信満々な天才ギャルエースの凛(りん)。

そして紬が過去に何かをされた、絶対王者のライバル校「蒼ヶ溪(あおがだに)高校」の存在。

私立「翠ヶ丘(みどりがおか)高校」の片隅で、最強の盾と矛の物語がいよいよ幕を開けました。

次回、プライドを粉々にされたはずの凛が、宣言通り本当に紬の家に押しかけてきて……!?

【読者の皆様へのお願い】

今後は不定期での更新となります。

「続きが気になる!」「隠れ最強カットマン、ここからどうなるの!?」と思ってくださった方は、ぜひ画面下部にある

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皆様の応援が、次の話を書き上げる何よりの原動力になります。それではまた次回お会いしましょう!

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