私があなたを守る!
静かな手
そっと差し出し
風を止め
君の世界を
影で守ろう
俺は荷物をまとめ始めた。
「歯ブラシ、下着、着替え、そしてお金……これでいいな」
レイカと俺は、それぞれバックパックに荷物を詰めていた。この街から逃げるためだ。俺たちは、この大会に巻き込まれてしまった。いや――参加者にされてしまったと言った方が正しい。日本政府を操り、俺を殺すことを目的とした大会を開催させるなんて……考えただけでも狂っている。
「準備は全部できた? 坂本ゆうき」
レイカが俺に聞いた。
俺は黙って頷いた。
「よし。大会が始まる前に、この街を離れないといけないわ」
その時、彼女のスマホが再び鳴り始めた。
レイカは電話に出て、スピーカーに切り替えた。
「もしもし」
「よ! 横浜さん! 正宗だ!」
また正宗さんだ。
ということは……新しい情報か。
「何か新しい情報?」
レイカが短く聞いた。
「逃げようとしても無駄だ、ということを伝えたくてね。君たちの名前はれっきに載っている。つまり――参加する以外に選択肢はない」
「……は?」
俺は思わず声を出した。
レイカは手で合図して、落ち着けと言った。
「どういう意味? 正宗」
「まあ……これは俺の計算ミスでもある。謝りたいんだが……れっきには神誓がかけられている」
「神誓?!」
俺は思い出した。神誓――二人の間で等価交換を成立させる契約の呪術だ。
「そんな……ありえない」
レイカが言った。
彼女の説明によれば、この呪術は神の立ち会いのもとでしか成立しない。近くに神社がない場合は、血を供物として神に誓うことで契約が成立する。
「正宗さん。俺は神社で誰かと誓いを立てた覚えなんてありません。それに献血だってしたことないです」
「坂本くん……それで俺の疑いが確信に変わった」
正宗の声が少し低くなる。
「血より上のレベルがある。たぶん……君の御霊を使われた」
「御霊……?」
「全部、昨日の出来事だ。もし俺の言葉で説明するなら……」
彼は続けた。
「昨日、夜以外で何か異常な出来事を見なかったか?」
「異常?」
俺は思い出そうとした。
俺の人生は、昨夜ですべて変わった。
あの夜がすべてを壊した。
「……思い出した。あの巨大な虫だ。レイカに助けられた時の」
俺はそう答えた。
「その時……近くに魂はいたか?」
「いた。小さな女の子の魂が。鎖で柱につながれていた」
俺はレイカを見た。
「レイカ……あの虫と女の子はどうなったんだ? お前は全部知っていたはずだろ?」
レイカは俺を見つめた。
「あの虫は、私があなたの所に到着した時に逃げた。
でも――女の子の魂は見ていない。あなたを家に運んだ時も、周りにはいなかった」
その時だった。
電話の向こうから正宗の声が聞こえた。
「……分かったかもしれない」
通話はまだ続いている。
「これは俺の推測だが……」
正宗は静かに言った。
「その少女の魂は――夜の間に、あの虫に殺された」
俺の目が見開かれた。
「どうしてそう思うんですか?」
俺はすぐに聞いた。
あの虫を見てから、すべてが狂い始めたんだ。
正宗は答えた。
「あれは虫じゃない。変装した陰陽師だ」
「変装?」
「陰陽道の術だ。君の言葉で言えば……魔法みたいなものだな」
そして彼は続けた。
「君の御霊が漏れていた。その影響が少女に及んだ。
少女の魂には、君の霊力の粒子が付着していた」
俺は息を呑んだ。
「つまり……」
「そうだ。奴らはその少女を君の代わりの媒介として使った」
正宗の声は静かだった。
「簡単に言えば――少女の魂は契約の代償として使い捨てられた」
俺の視界が揺れた。
足元の地面が消えたような感覚。……無関係の魂を。罪のない少女を。俺は唇を強く噛んだ。この世界は残酷すぎる。俺を殺したいなら――俺を狙えばいい。
どうして……どうして関係ない人を巻き込むんだ。
その時、レイカが口を開いた。
「一つ質問」
「何だい?」
「もしあの巨大な虫が陰陽師だったなら……どうしてわざわざこんな契約をしたの?正直に言うけど――普通の陰陽師でも今のゆうきなら簡単に殺せる」
……地味に俺へのダメージがでかい。でも確かに、良い質問だ。謎が多すぎる。
正宗は答えた。
「さあな。俺にも分からない」
彼は少し笑った。
「面白い質問だ。答えを知るには……深く掘るしかない」
そして声の調子を変えた。
「まあ、気にするな! 笑顔を忘れるなよ!」
そして続けた。
「大会は午前0時、つまり12:00AM。その瞬間に始まる」
その時、俺の頭に疑問が浮かんだ。
「ちょっと待ってください、正宗さん」
「ん?」
「俺の名前がれっきにあるのは分かりました。でも――」
俺はレイカを見た。
「どうしてレイカの名前までれっきにあるんですか?」
「……」
「レイカは逃げようと思えば逃げられる。懸賞金がかかっているのは俺だけだ。なのに、どうして彼女まで?」
沈黙。
「……もしもし?」
返事がない。
「正宗さん?」
「……」
レイカが画面を見た。
「通話、切れてる」
「くそ……」
俺はレイカを見た。
彼女は俺を置いていくだろうか。みんなみたいに、俺を一人にするのか?それとも――いや、何考えてるんだ俺。
どうして彼女が、赤の他人のために命を懸ける必要がある?
その時だった。
「……私があなたを置いていくと思ってる?」
「え?」
俺は驚いた。
「それとも、自分の命を守るためにあなたを殺すと思った?」
「な、なんでそれを……?」
レイカは静かに言った。
「チベットの僧侶から、少しだけ技を教わったの」
俺は彼女を見つめた。
「答えが欲しいの?」
俺は頷いた。
「私に一緒に来てほしい?あなたを守ってほしい?」
「ち、違う! そういう意味じゃない!」
俺は慌てて言った。
「これはお前の人生だ。俺が決めることじゃない」
……でも。もしかしたら。俺は、ただ――もう一度、一人になりたくないだけなのかもしれない。
その時、レイカは静かに言った。
「私が守る」
そして、はっきりと続けた。
「坂本ゆうき。あなたを守る。」
私の作品を読んでくださっている皆様、ありがとうございます。皆様に楽しんでいただければ幸いです。初めてですが!SodaKun Out!◇




