↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
2/2

グリーンスパン、高橋是清

さらに二人の経済学の重鎮が入室し、混沌はさらに深まる。

自動ドアが今度は「プシュー……利上げ……」という、どこか不穏な電子音を立てて開いた。

入ってきたのは、分厚い眼鏡の奥で一切の感情を読ませない男、アラン・グリーンスパン。そして、その後ろから「カッカッカ!」と豪快に笑いながら、着物姿に宇宙羽織を引っ掛けた、お腹のまるい老紳士、高橋是清である。

「おや、珍しい顔ぶれが揃っているね」

是清は、歪んだ空間など一向に気に留めない様子で、マルクスの隣の席にどっかりと腰掛けた。

「店主! 景気の良くなるやつを一杯くれ。何、勘定は私が後でなんとでもする!」

「是清さん、相変わらず大胆な流動性供給ですね」

ガルブレイスは苦笑しながら、特製の『ダルマ式・高札ハイレモン』を差し出した。

一方のグリーンスパンは、カウンターの端に座ると、グラスに注がれる液体を凝視しながら、極めて曖昧な、しかし重みのある声で呟いた。

「……もし、私の注文が明確に聞こえたとすれば、それはあなたが私の意図を誤解したということだ」

「おい、新入り」マルクスがグリーンスパンを睨みつける。「そんな分かりにくい市場へのシグナリング(対話)は、資本家どもを疑心暗鬼にさせるだけだ。おい、ケインズ。お前の身内(中央銀行家)だろ、なんとかしろ」

ケインズは嬉しそうにグラスを掲げた。

「いやいや、アラン! 久しぶりじゃないか。君が金利をコントロールしてくれていたおかげで、大いなる安定(グレート・モデレーション)が保たれていた時代もあった。もっとも、その後でバブルが弾けたがね。……ところで是清さん、あなたの『金解禁』からの電撃的なデフレ脱却(高橋財政)、あれは私の『一般理論』の最高の先取り(実践編)ですよ!」

「おお、ケインズ君、分かってくれるか!」

是清はハイレモンをグイッと煽り、髭を拭った。

「あの時はね、とにかく市場にお金を回さなきゃならんと思って、日銀に国債を直接引き受けさせてね。レモンが足りないなら、レモンを刷ればいいのさ! カッカッカ!」

「……不合理な熱狂(イラショナル・エグズーベランス)だ」

グリーンスパンが、ストローで『マエストロ・サワー』をピチャピチャと音を立ててすすりながら、低い声で遮った。

「是清氏の緩和策は、短期的にはマクロ経済を救うが、長期的な資産価格の歪みを見落としている。この第3宇宙のハイレモン酒場が歪んでいるのも、適切な金利誘導によるバブルの破裂を恐れ、過剰な流動性を放置し続けた結果ではないか? 影の銀行システム(シャドー・バンキング)が、このレモンの搾りカスの中に潜んでいる……」

「何が影の銀行だ!」マルクスが横から怒鳴る。「すべては資本の自己増殖が引き起こす必然の恐慌だ! グリーンスパン、お前が市場を甘やかし続けたから、労働者はさらに搾取される構造が固定化されたのだ!」

酒場の中は、ケインズと是清の「財政出動バンザイ」の乾杯の声と、グリーンスパンの「不確実性におけるリスクマネジメント」の呟き、そしてマルクスの「資本論」の怒号が入り乱れ、カオスを極めていく。

ガルブレイスは、カウボーイハットを直しながら、彼らのグラスに次々とハイレモンを注ぎ足した。

「皆さん、議論は尽きないね。だが、この店の売上が、企業の広告戦略でも、中央銀行の金利操作でもなく、ただ君たちの『強烈な喉の渇き』という、至って古典的な需要で成り立っていることだけは確実だよ」

歪み第3宇宙の夜は、5人の経済の巨頭たちを巻き込み、さらにグニャリと15度ほど傾いていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。