↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『魔法の使えない転生者、忌地の森をひらく』  作者: 森野余白
第八章「三人の居場所」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

114/114

部末閑話 同じ場所へ

第一部部末閑話です。


第100話と章末閑話「残っている匂い」の、そのあと。


雨や落ち葉で消えても、また同じ場所へ重なっていくものがあります。

 夜。


 空き地の火が、小さく揺れている。


 ぱち。


 乾いた枝が一度だけ鳴った。


 その近くに、ユウマがいる。


 少し離れたところには、白い身体。


 ハクアは前脚へ顔を乗せ、もう目を閉じていた。


 昼までここにいた銀色の人は、いない。


 森の向こう。


 自分の場所へ帰っている。


 それでも。


 空き地から、すべてがなくなったわけではなかった。


     ◇


 棚の端。


 小さな容器。


 布。


 筆記具。


 少し前にはなかったものが、そのまま置かれている。


 雨を避ける屋根も。


 以前より少しだけ広い。


 その下には。


 一人分増えても濡れずに物を置ける場所がある。


 近くには、粗い腰掛け。


 表面は平らではない。


 削った跡も残っている。


 立派なものではない。


 けれど。


 何もなかったものでもない。


     ◇


 地面にも。


 以前とは違うものが残っている。


 よく歩くところは。


 周囲より少しだけ土が固い。


 火の近く。


 水を置く場所。


 棚。


 屋根。


 そこを行き来するところ。


 何度も。


 何度も。


 同じ場所が踏まれている。


 雨が降れば。


 表面は柔らかくなる。


 足跡も崩れる。


 落ち葉が落ちれば。


 隠れる。


 それでも。


 次の日には。


 また新しい跡がつく。


     ◇


 最初。


 この空き地に残る人の跡は。


 一つだけだった。


 森から来て。


 森へ入って。


 また戻る。


 一人分の靴跡。


 水のある方へ向かう。


 戻る。


 別の方向へ歩く。


 戻る。


 石を持ってくる。


 枝を運ぶ。


 濡れた木を置く。


 乾いた木を積む。


 何度も。


 同じ場所へ戻ってくる。


 そのたび。


 空き地には。


 少しずつ違う跡が増えた。


     ◇


 火が使われた。


 灰が残った。


 雨が降った。


 水が溜まった。


 土が削られた。


 浅い溝ができた。


 次の雨では。


 前とは違うところへ水が流れた。


 枝が切られた。


 木が削られた。


 石が動いた。


 乾かすために置かれたものが。


 朝には別の場所へ移されている。


 森の中では。


 どれも小さな変化だった。


 少し離れれば。


 同じ木々が続いている。


 同じ土。


 同じ葉。


 同じ根。


 空き地を離れれば。


 人の手が入っていない場所の方が、ずっと多い。


 それでも。


 この一角だけは。


 前と同じではなかった。


     ◇


 やがて。


 一人分だった跡の近くへ。


 小さな四足の跡が加わった。


 最初は。


 遠いところにだけ。


 木々の近く。


 茂みの向こう。


 空き地の外側。


 それが。


 少しずつ近くなった。


 火の近く。


 倒木の近く。


 乾いた草の上。


 今は。


 空き地から森へ続く小さな足跡も。


 森から空き地へ戻ってくる小さな足跡も。


 珍しいものではない。


 白い身体は。


 昼にいないこともある。


 長く戻らないこともある。


 それでも。


 陽が傾いたあと。


 火の近くには。


 また小さな四足の跡が増えている。


     ◇


 もう一つ。


 違う靴跡もある。


 最初の一人とは。


 歩幅が違う。


 踏み込む場所も。


 少し違う。


 その跡は。


 毎朝つくわけではない。


 ない日もある。


 一日。


 何日か。


 新しい跡が増えない。


 雨が降れば。


 古い跡は薄くなる。


 それでも。


 しばらくすれば。


 また同じ種類の靴跡が、森から空き地へ入ってくる。


 そして。


 その跡がなくなったあとにも。


 棚には物が残る。


 腰掛けも残る。


 広げられた屋根も残る。


 来たものが。


 すべてを持って帰らなくなった。


     ◇


 夜の森で。


 枝が折れる。


 遠く。


 何かが歩いている。


 葉が擦れる。


 少しして。


 音は違う方へ消えていく。


 空き地までは来ない。


 別の小さなものが。


 木の根元を走る。


 立ち止まる。


 火の光が届かない場所から。


 少しだけ空き地を見る。


 それから。


 また森へ戻る。


 前から。


 そうだった。


 何かが近くまで来ても。


 そのまま空き地へ入ってくることは少ない。


 理由は。


 夜の中には残らない。


 ただ。


 火があり。


 人がいて。


 白いものがいて。


 時々。


 もう一人が来る。


 その状態だけが。


 何度も繰り返されていた。


     ◇


 夜が深くなる。


 火が小さくなる。


 ユウマが一度起きた。


 灰の中を見る。


 枝を足す。


 火が少し戻る。


 その音に。


 白い耳が一度動いた。


 それだけ。


 また静かになる。


 雨避け。


 棚。


 火。


 浅い溝。


 削られた木。


 置かれた道具。


 休む白い身体。


 火のそばの人間。


 どれも。


 最初からここにあったものではない。


 そして。


 どれも。


 森全体を変えるほど大きなものではない。


     ◇


 夜露が降りる。


 葉の先に。


 小さな水滴が集まる。


 土も湿る。


 昨日ついた足跡の角が。


 少しずつ崩れる。


 一人分。


 小さな四足分。


 もう一人分。


 重なっていた跡も。


 少しずつ形を失っていく。


 そのまま。


 夜が明ける。


     ◇


 鳥の声。


 薄い光。


 湿った土。


 火の残り。


 ユウマが起きる。


 灰の中へ枝を入れる。


 息を吹く。


 小さな赤が。


 また火になる。


 ハクアも顔を上げた。


「おはよう」


 声。


 白い耳が動く。


 ユウマが立ち上がる。


 水の容器を持つ。


 歩き出す。


 湿った地面へ。


 新しい靴跡が一つ。


 また一つ。


 昨日の跡が薄くなった上へ。


 新しい跡が続いていく。


 少しして。


 白い身体も立ち上がった。


 地面を踏む。


 小さな四足の跡が増える。


 今日は。


 もう一つの靴跡はない。


 けれど。


 棚の端には。


 置かれたものが残っている。


     ◇


 今日。


 どこへ歩くのか。


 まだ決まっていない。


 水へ行く。


 火を見る。


 何かを直す。


 森へ入る。


 休む。


 何もしない時間があるかもしれない。


 それを。


 朝になってから決められる。


 昨日までの跡が消えても。


 今日の跡がつく。


 今日の跡が消えても。


 また。


 同じ場所へ新しい跡が戻ってくる。


 森の中の。


 ほんの小さな空き地。


 そこには。


 戻ってくるものがいた。

第一部部末閑話を最後まで読んでいただき、ありがとうございます。


森に最初に残ったのは、ユウマ一人分の足跡でした。


そこへハクアの足跡が加わり、やがてエルネアの足跡や、本人が帰った後にも残る物が増えていきました。


雨や落ち葉で痕跡は消えても、また同じ場所へ新しい跡が戻ってくる。


第一部「森に居場所をつくる」は、ここで終了です。


第二部では、この場所を捨てるためではなく、この暮らしを続けていくために、少しずつ森の外へ目を向けていきます。


第二部は10月19日開始です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。