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転生未遂から始まる恋色開花  作者: にぃ


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第34話 書き手 ①

    【main view 雨宮花恋】



 まさか自分から男性をデートに誘う日がこようとは思いもしなかった。

 相手は同じ小説家仲間で友達で師匠で同士で、そして恩人の雪野弓さん。

 小説指南だけでなく、クラス内での個人的問題も解決に導いてくれた人。


 私はいつももらってばかりで何も返せていませんでした。

 お返しをしたくても彼は自分から何かを望んだりはしない。

 せめて楽しい一時をと思い、小説を使ってデートの申し出を行った。


 来なければ来ないで仕方ない。

 そもそも【小説で呼び出し】というわかりづらい誘い方をした私が悪いのだから。

 その場合は明日から別の方向で雪野さんへのお返しを考える。


 でももし来てくれたなら……その相手が今までの奥手の私じゃ駄目だ。

 それだとまた雪野さんにリードしてもらう形になってしまう。

 だから私は殻を破るように本性をさらけ出した。


 いつもより積極的になり、デートをリードし、いっぱいいっぱい私から話しかけた。

 無理をしてでもそうしようと昨日から決めていたのだけど……

 不思議と心地よさを感じている自分が居た。


 自分でも信じられないくらい饒舌となったり、欲望をさらけ出したり、嫉妬したり、今までにない自分をさらけ出せていることが単純に楽しかった。

 雪野さんもいつもより口数が多かった気がする。

 少なくとも私は人生で最高の日と言えるレベルで楽しかった。

雪野さんもそうだったら嬉しい。


 服を選んでもらい、軽食をとって、映画を見て、最後に食事をとりながら映画について語り合う。

 普通のデートのように見えるが色々な異質な所もあっただろう。

自分が着せ替え人形になったり、R18画像を鑑賞したり、食事を2回したり。だけどそれがたまらなく笑えてくる。

 夕方になり現地解散となったのだけど、こんなにも『名残惜しい』と感じたのは初めてだった。


 私は自宅に帰ってからこのように今日のデートを振り返っている。

 大半は笑顔になれる微笑ましいものだったのだけど――


「恥ずかしいよぉ~~っ!」


 思い返す自分の言動の数々――


『マスター、ちゃんとドールちゃんを引っ張って行ってください』


『胸とか押し付けた方が嬉しいです?』


『私にできることなんでもします! 何回でもします! エッチなことでも受け入れます!』


 欲求不満の塊ですか私は。

 この時の私は確かに本気で、そして本心で言っていました。

 雪野さんと手を繋ぐ気満々でしたし、胸とか押し付けてみたらどんな反応してくれるか見たかったし、エッチなこともそりゃあ興味ないわけじゃなかったですよ?


 なんというか恩返し云々の次元を超えてしまっているなぁ。

 『私本人がそうしたい』っていう意思が全面に出てしまっている所が減点だ。

 もっと雪野さんがしたがっていることを察して行動すべきだった。


「で、でも、雪野さんが可愛すぎるのがいけないんです。いちいち反応が可愛いもんだから、女の子なら誰だってあんなのが近くにいたら意地悪しちゃいますよ」


 反応が見たくてつい意地悪してしまう。

雪野さんは私の欲しかった反応を返してしまうものだから、ついこちらも癖になって何回も同じことをしてしまうのだ。


「でも……アレは拙かったなぁ」


 思い返す自分の最たる失敗。


『もしいつか私たち二人がすることになったらこの画像を参考にヤりましょうね』


 言葉がリフレインして頭を離れない。


「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!!」


 ベッドの上で悶えるようにバタバタ暴れまわる。

 からかいたいとか、反応が見たいとか、そういうレベルじゃない。

 自分が自然とそんな言葉を発していた事実が今になって激流のように心をかき乱す。


「うぅ~~。やっぱりこれってそういうことでしょうか」


 気持ちが溢れすぎた故の暴走。

 もし『そういう行為』をする日を想像したあの瞬間、私の相手として君臨していたのは紛れもなく雪野さんだった。

 ていうか他の人と絡んでいる自分が想像つかない。でも相手が雪野さんならば情景が瞬時に浮かび上がってしまう。


 チラッとハンガーにかけられたカーディガンに目を移す。

 私は無意識のうちにそのカーディガンに手を伸ばす。

 まだ暖かい。彼の温もりが残っているようにも思える。

 厚手のカーディガンを鼻先に持っていく。

 自分の香りと彼の香りが混ざり合っている気がした。


「(私の香り、邪魔だなぁ)」


 カーディガンに染みついた男性の香りを探るように嗅いでみる。

 それを感じられた瞬間、私の身体が瞬間的に上気する。

 このまま彼の香りに包まれて……


「――って、私は何をやっているんですか!!!!」


 跳ね上がるようにベッドの上でバウンドした。

 自分の行動に呆然としてしまう。

 彼が好意でくれた贈り物なのに私はなんという使い方を……っ!


 本当に無意識だった。ていうか意識がはっきりしていればあのようなこと即座に止めていた。

 ならば本能が彼の匂いを求めていた、ということになる。

 

「うぅぅ。まずいです。これ絶対絶対……アレじゃないですか」


 もはや致命的だった


 最初は自分と似ている人だな、と思った。

 だからこそ安心を得られた。

 そう感じ得ることができたから、あの時の私はこの言葉を繰り出すことができた。



『私に――恋愛を教えてください!』



 彼が持つ大衆小説における恋愛物の知識を教えてくれ、という意味だった。

 だけど、最近は違う意味で『恋愛』というものを知りつつある。

 今日のデート、欲望丸出しのデート中の言動、無意識に行っていた不埒な自分の行動。

 恋愛小説の資料という意味では今日の出来事ほど有意義な体験はない。

 


 ――ああ。そうか



 ――薄々は気づいてはいたんだ




 ――私、雨宮花恋は




 ――雪野弓に





「ゾッコンだぁ」

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