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転生未遂から始まる恋色開花  作者: にぃ


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第35話 書き手 ②

 いつから好きになっていたのだろう。

 一目惚れ……の類ではないと思う。

 第一印象は『小説家として憧れの人。だけど思ったよりも変な人』。

 恋愛的な意味で『好き』と感じたのは別のことがキッカケだと思う。


 じゃあやはりアレだろうか。

 黒滝さんの件で彼が格好良く私を守ってくれたから?


 ――違う。


 確信して言えるけど、あの時にはもう私は彼のことを『好き』になっていた。

 とっくに恋をしていた自覚はある。


「なら、本当にいつなのでしょう?」


 初対面から文化祭までの間。

 範囲が広すぎる。

 でも確実にその間にあった『何か』がこの気持ちを生み出していた。

 それをじっくり考えてみる。

 ……カーディガンに残る彼の匂いに包まれながら。


 文化祭までの間にあった出来事といえば――


「あっ――」


 あった。

 大きすぎる出来事が。



『転生未遂』



 初対面の時に雪野さんが行おうとした転生未遂じゃない。

 私が自らの意思を持って転生未遂を匂わせた事件。


「くすっ……」


 思わず笑みが漏れてしまう。

 今更だけど自殺未遂のことを『転生未遂』と称することがおかしく思えた。

 彼と私だけに通じる二人だけの合言葉。


「間違いない。私が好きになったのは……私がこの気持ちに芽生えたのは――」


 地の文の無い会話のみの小説対決。

 私が持ち掛けた7000文字制限の小話の見せあい。

 『黒マスターと白ドールちゃん』を書き上げた今でも思う。

 この自信作でさえも雪野さんが書き上げた7000文字小説の足元にも届いていないと。


 勝敗は告げられていませんが、間違いなく私は敗者だ。

 初めて雪野さんの7000文字小説を見せつけられた時、高すぎる壁に私は絶望した。

 超えられる気がしない遥か高い壁。

それを易々と作り上げてしまった弓野ゆき先生。



 その壁は――



 私に絶望を与えた壁は――



 とにかく眩しかったんだ。



 壁の高さに項垂れながら。

 壁の絶望感に包まれながら。

 私はその壁を生み出した人に強く強く惹かれていた。


 こんなに凄い壁を生み出した弓野先生に私を見てもらいたい。

 遥か高みに居る雪野さんに私を引っ張り上げてもらいたい。


 こんなにも凄い人が私の近くにいることが――


 嬉しくて嬉しくて仕方なかった。


 彼と私の距離は遠い。

 目を離すと彼は勝手に高みへ上っていってしまう気がして。

 だから私は『転生未遂』を行って、彼を無理やり自分の方へ振り向かせてみせた。


 つまりは子供のわがままみたいなもの。

 好きな人を自分の近くに呼び止めたい地団太と同じ。


 あの日、私は眺めの良い学校の渡橋にて、鉄柵に座り足をユラユラ揺らしながら彼を待っていた。

 もし来なかったらどうしよう。

 胸中不安だらけではありましたけど、それは完全なる杞憂で。

 優しすぎる彼は息を切らしながら私を探し出してくれた。



 あの瞬間だ。



 あの瞬間に。




 私の恋色開花が始まったのだ。







 初恋を自覚し、自分が茹でタコのように真っ赤になっているのがわかる。

 気持ちを認め、想いが溢れて収まらない情熱的な感覚。

 これが恋なのだ。


 真っ先に思ったのはこれを文章化できるか?というものだった。

いや、やるんだ。私は小説家なのだから。

 でも今は執筆作業の前に考えなければいけないことがある。


 ――この気持ちを伝えるか、否か――


 雪野さんはモテる。

 彼の周りには私以外にも女の子が2人居る。


 一人は瑠璃川楓さん。

 この方はたぶん雪野さんには恋愛感情は抱いていないように見える……けど、将来的に気持ちがどう揺れ動くかなんて誰にもわからない。

 だけど間違いなく雪野さんと思考が似ており、不思議な同調感覚でつながっているように見えた。油断はできない。


 そしてもう一人――

 水河雫さん。


 見ていてわかる。この人が一番のライバルであると。

 雪野さんと同作品を出版作に持つ彼女は、底知れぬほど彼と強い繋がりを持っている。

 正直どうやってあの雪野さんと『親友』という羨ましいことこの上ない関係にまでなれたのか、そのエピソードが気になって仕方ない自分が居る。

 親友という立場のまま停滞するのであれば悩んだりなんかしていない。

 でも水河さんが雪野さんに向ける視線や言動に他の感情はないのだろうか。

 今後も観察していく必要がある。


 つまり何を言いたいのかというと、ぐずぐずしていると二人に雪野さんを取られてしまうということ。

 気持ちを伝えるのなら手遅れになる前にやってしまうべきだ。


 だけど――


 気持ちを伝えても関係が進展する可能性は現時点でかなり低いのだろうと容易に想定できた。


 だって――



   ――『早々に主人公と相手を恋人同士にさせること。それが僕の思う恋愛小説のタブーだと思う』



 彼が思う恋愛小説のタブー。

 この言葉が脳裏にしみついて離れない。


 もし彼の思うタブーが現実恋愛にも結び付いている考えだとしたら?

 恋人同士になった瞬間、彼の恋が一気に冷めてしまうような気がして……

 彼はそれを自分で自覚しているような気がするから……

 焦って告白をしてしまうことだけはしてはいけないのだと思いとどまってしまう。


 だから告白はまだしない。だけどアプローチは続ける。

 ならばいつ告白する?


 そんなの決まっている。


「恋人関係になった後にも、楽しい物語があるのだということを雪野さんに知ってもらった時――」


 それを伝える方法は一つだけ。

 私は書くことでしか前進する手段がないのだ。

 見ていてください雪野さん。

 私は今から自分が告白する舞台を整えるために物語を完成させてみせます。


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