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第83話 配信実況3

「――というわけで、大罪の悪魔を倒すクエストを受けることになって、さっきスロウスを倒してきたところだ」


「まあ、よくその悪魔を二人で倒せたよな」


「必死だったけどな。ダイチさんなら、どうやって倒すんだ?」


「俺たちか。そうだな……最初の弱いうちは俺がタンクをやって、やばそうならジークに後退。最後は2、3人はやられることを想定して、捨て身で戦う感じか。二人でも削れたあたり、おそらく運営もそれを想定したHPの調整をしているとは思う」


「やっぱり6人想定の難易度だよね」


「話を聞く限りは少なくともソロやペアでやるような調整じゃないな」


「で、せっかくだから新スキルの試し撃ちをしたいからちょっと手伝ってくれない?」


「おう、いいぞ。バフの倍率を測定したいなら、防御は下げてダメージを増やしたほうが良いか。盾を外して……いつでもOKだ」


 ホームにある闘技場にいき、ダイチを模擬戦を行うことにした。ただ模擬戦と言っても、倍率を知りたいだけなので棒立ちしているダイチにミクがパンチし、受けたダメージをカエデが記録して計算を行っていく。


「多少、乱数あるけど開始時にだいたい30%くらいダウンかな」


「時間経過の倍率アップをみよう。今度は1分後に攻撃をしてくれ」


「私が合図したら殴って」


「わかった」


 タイマー機能を使い、カエデが時間を観測。1分ごとに殴り、そのダメージを計測していく。


「5分くらいで元に戻って、その後、10分くらいかけて30%アップが上限っぽい?」


「15分もかけていたら戦闘が終わりそうだ」


「長期戦をするレイド向けのスキルじゃないか。出だしは多少遅れても、ノーコスト30%アップは破格だ」


「死んだらまた1からのスタートだけどね。まあ、5分過ぎればプラスにはなると割り切るのもアリかも」


「【自己再生】と相性悪いし、とりあえずOFFにしておくか」


 普段は使いづらい【SLOTH】をOFFにした後、大罪の悪魔の情報を知らないかダイチに尋ねることにした。


「情報と言われてもなぁ……残るは嫉妬、憤怒、暴食。名前からして暴食はどこかで食べていそうな感じはするが……」


「どこかの飲食店で食べているなら目撃情報はあってもおかしくはないはず」


「だが、これまでにそういった情報はない。だから、通常のプレイでは達成できない条件があるとは思う」


「飲食店すべて回ってみたとか?」


「あー、ありそう。特定のレストランのメニュー全種制覇とか、そういった感じの」


「そういったことをしているプレイヤーがいないか、知り合いに聞いてみるよ。手あたり次第よりかはマシだろ」


「サンキュー、ダイチさん」


 色々と手伝ってくれたダイチに礼を言った後、二人はログアウトするのであった。



 後日、ミクのもとにとあるプレイヤーから連絡が届く。それはみゅ~のメンバーと一緒に配信をしないかというものだ。ミクの参加でチャンネルの登録者数が増えたみゅ~ではあるが、ここ最近は落ち着きを取り戻している。悪く言えば停滞しているともいえる。そのため、新しい風を取り入れるという意味では大歓迎であった。


「というわけで僕の春風のまんぷくごはんチャンネルと2年A組みゅ~チャンネルの食い倒れコラボ配信始めるよ~」


『僕っ娘と俺っ娘が出会ってしまったか』


「ってか、SORAってチューバ―だったのか。知らなかったぜ」


「といっても、最近始めたんだけどね。幽霊の僕がネットで買い物するにはこれくらいしか金稼ぐ方法がないよ」


『まだその設定生きているんかwww』


『死に設定乙』


『買い物(課金)』


「死んでないから!死んでいるけど!マジものだから」


『はいはい。いつものいつもの』


『いつもの反応ありがとうございます』


「信用されてねえな。俺もそうだったけど」


『幽霊なんていないからな』


『証拠出してもらわないと(笑)』


「うう、現実世界に干渉できないのが憎い」


『半端者じゃのう』


『ぜひ、人外の魔境【厄災PANDORA】へ』


『勧誘禁止!』


「このままだとコメントが荒れそうだから、さっそくみんなでご飯食べに行こう」


「今日は食い倒れ旅にゃん」


「SORAが行ってないところとかあるか?」


「魔界は行ってないところ多いけど、魔界の料理って美味しくなさそうなんだよね」


『ああ、わかる。全体的に黒いよな』


『黒いラーメンは美味しかったぞ。ほぼ富山ラーメンだけど』


『黒以外の料理なら青色のカレーとかもあるぞ。視覚効果で食欲を失うけど』


『大丈夫? ピンクのカレーと混ぜたら、爆発しない?』


『ロケット燃料に使われそう』


『どこのカードゲームアニメだよ』


「でも、普通に美味しそうな料理を普通に食べるってのも味気ないから……あそこに決めた!」


「どこだ?」


「砂漠のところ。僕が案内するよ」


 冒険者ギルドからアハトマ大神殿に飛んだミクたちは、SORAに招かれてうす暗い路地を歩いていく。外れかかった看板が掲げてある店に入って、SORAが適当に注文をし始める。何を頼んだのかとかと思いながら、待ってみるとターバンを巻いた男性が料理を運んでくる。


「なんだこれ? 水風船? なんか縫い付けてあるけど」


「羊の胃袋の中にひき肉とか野菜と入れた奴」


『うわあ……』


『ゲテモノ注意』


『おせーよ』


「美味しい……のか」


「これをフォークで破ると……」


「あっ、良い匂い」


「食べてみるにゃん」


 スプーンですくい、パクリと食べる。胃袋と聞いて臭みがあるのかと思っていたが、香辛料でかき消されており、スパイシーな感じだ。一緒に出されているパンと一緒に食べ合わせるのにちょうどいい味付けだろう。


「カレーっぽい?」


「ああ、確かにそんな感じだ」


「次はラクダとワニ肉の串焼き」


『ワニは鶏肉っぽいと聞いたことはあるが、ラクダって何味だ?』


『さあ?』


「……牛肉だ、これ」


『マジ?』


『そうなの?』


「格付けみたいに目隠しされて赤身の牛肉って言われたら分からないって」


「いいお肉みたいに柔らかいのも罠だよね~」


「シンプルな味付けなのに臭みもないにゃん」


「良い店でしょう。僕のお気に入りの一つ」


 次から次へと運ばれてくる料理に舌鼓を打ちながら、ミクはさっそく要件を伝えることにした。


「ところで、暴食の悪魔が居そうなレストランとか知らね?」


「暴食ってことはたくさん食べるってことでしょう。だったら食べ放題専門店とか大食いとか早食いチャレンジの店を回った方が良いんじゃない」


「俺、この身体になってからあまり食べられないんだよなぁ」


『現実だと大食漢だったりするの?』


『ちょっと意外』


「(もとは男だとか言えねえしな)まあ、そんな感じ」


「あ、あたしも量は……」


「ダウト」


『ウチ、知っているよ。駅前のケーキバイキングで一緒に――』


「それ知っているってことは京子だろ、てめえ!」


『リアフレ乙』


『話聞かせて』


「みっちー、キックしろ」


『まあ、今更減るものじゃないし良いんじゃない byみっちー』


「裏切者おおおおおおお!」


『ケーキ取りすぎて出禁になっただけやん。あの量は連れて行ったウチも引いたで~』


『あっ、その話、私も知っている。その後、スカートがきついからジャージで登下校したときの話でしょう』


『そう、それそれ。あの当時はゆっちーも部活していたからね~今はどうなっているかは知らんけど』


「うわああああああああ!」


『これは罰ゲームかね』


『黒歴史が発掘されとる』


「ドンマイにゃん」


「慰めになってねえよ」


「ゲーム内なら太らないから安心だな」


「太ってねえし!ちょっと……だけだし」


「昔の口調に戻っているにゃん」


「あっ……」


「僕もチャレンジはやってみたかったし、失敗してもそっちの驕りなら連れて行っても良いよ」


『たかりに来たな』


「それくらいは情報量だと思って払うよ」


『太っ腹』


『これはできる彼氏系彼女』


『こういうことがサラリとできないからオマエラはモテない』


『ぐうの音もでねえ』


 出てきた料理を食べ終えたミクたちはお金を支払った後、はじまりの街にある中華レストランへと入っていく。そこにはでかでかと超激辛ラーメンへの挑戦、巨大餃子への挑戦といった張り紙が張られており、食べきれたら無料、失敗すれば倍額を支払うシステムになっている。成功者には張り紙の下に名前が書かれるみたいだが、まだ片手で数えられる程度しかおらず、難易度の高いクエストとなっている。


「超激辛ラーメン、4人分ください」


「あたし、ライスも。大盛で」


「おいおい、別注文しても大丈夫かよ」


「味変しないと食べられないし~」


 ゆっちーがのんきに応えながら、注文をとる。しばらくすると、4人の前にマグマのようにぐつぐつと煮だっている真っ赤なスープに、太い面とチャーシューが最後の希望と言わんばかりに浮かんでいる。


「超激辛ラーメン、完食条件は20分以内にスープまで飲み干すことアル。では、よ~い、スタートアル」


 ミクが麺数本をすすってみる。最初に来たのは熱さや辛さよりも痛み。スープは刺激物というより薬品の領域。これは1口食べる毎にお冷をごくごくと飲まないと舌が持たない。そして、この速度では20分でしかもスープも飲み干すのは到底不可能だ。


「駄目だ、これ……」


「熱くて食べられにゃい。ギブにゃん……」


 完食をあきらめた二人はゆっくりと食べながら、SORAとゆっちーの方を見ることにする。SORAが汗を流しながら一心不乱に食べているのに対し、ゆっちーはラーメンをおかずにご飯を食べているといった感じだ。ご飯を食べている分、ラーメンを食べる速度自体は遅いが、SORAと比べると余力があるように見える。


「いっけー、ゆっちー」


「頑張るにゃん」


 二人がゆっちーを応援している中、SORAが一足先に麺や具材を食べ終える。残すは最後の関門、真っ赤なスープ。一息入れた後、どんぶりを持ち上げてゴクゴクと飲み、バタンと倒れる。その手からは空になったどんぶりがからんと転がり落ちる。それに遅れてゆっちーもレンゲでスープをすくいながら、ライスと交互に食べ、飲み干していく。


「二人完食アルね」


「SORA、大丈夫か」


「これ、キツイ……まだしたがひりひりする」


「ラッシーみたいなのあるかニャン?」


「ウチにラッシーはおいてないアルよ」


「次、巨大餃子いっちゃう~?」


「俺たちはゆっくりとこのラーメン食べておくから、ゆっちーだけな」


「僕も……したが回復するまでパス」


「すみません。巨大餃子下さい。あとライスのお代わりも」


 ラーメンをゆっくりと食べている二人をよそに、ゆっちーの前に出されたのは50個分の巨大餃子。その大きさに他の3人が思わず言葉を失いながらも、ゆっちーはパクパクと食べ始める。濃い目に味付けされている餃子はご飯とベストマッチしているらしく、みるみるうちにご飯も減っていく。


「どこに入っているんだ、あの量……」


「あのお腹……」


 視線を下に落とすと、心なしかお腹が出ているようにも見える。あまりじろじろと見るのは悪いと思い、ミクはこの冷めたラーメンを頑張って食べ終えようとするであった。




「久しぶりに食べた、食べた」


「結局、スープは無理だったな」


「……あれは人間が飲むものじゃない」


「さてと、次は……巨大パフェいっちゃう?」


「俺たちは普通で良いよな、猫にゃん」


「うん。そうするにゃん」


「ゆっちーも巨大餃子を食べたんだから、無理するなよ」


「大丈夫だって。デザートは別腹」


『妊婦見てえに膨らんでいるのに?』


『丸いピンクの悪魔』


『あれだけ食べる人、初めて見た』


 今度は海を一望できるカフェのテラス席で総重量6kgのジャンボパフェがお出しされる。それを見た周りのプレイヤーが物珍しそうに写真を撮る中、今回は2名まで挑戦可能ということでSORAとゆっちーが温かい紅茶を片手に挑む態勢だ。

 まずは頂上付近に置かれているマンゴーやイチゴが置かれているデザートゾーン、ワッフルやクッキー、ケーキが刺さっているお菓子ゾーンの解体作業に当たっている。


『ワッフルの上に生クリームやデザートを乗せて食べて飽きさせないようにしているのか』


『無糖の紅茶で口の中をリセット、なるほど』


『なお、胃の大きさは真似できない模様』


『それな』


 着実に制限時間が減っていく中、生クリームの中から現れた大福がにらみを利かせてくる。腹持ちがよく、最後のボーダーラインとなっている白い悪魔。中のあんこは邪悪そのものといって差し支えないだろう。さすがの二人もここでブレーキがかかる。


「がんばれー!」


「負けるんじゃねえぞ!」


 周りの声援を受けて、必死に食らいつく二人。店主が冷や汗を流しながら見守る中、残り十数秒ほど残し、完食するのであった。


「よっしゃー!」


「僕、もう一生分のクリーム食べた気がする……死にそう」


「死んでるじゃん、お前」


『それな』


『設定守れよ』


「君たち、ひどくない!?」


 項垂れる店主に飲み物代だけを払い、店を出ると小太りの男性から声をかけられる。こんなイベント初めてだと視聴者がざわめく。


「誰だ、お前?」


「おいら、暴食のグラトニー。さっきの食いっぷりすごかった。特にそこのオンナ」


「あたし? いや~、それほどでも」


「おいら、気に入った。ここでお前と大食いバトルしたい」


 グラトニーがゆっちーにチケットを渡して、ひょこひょことどこかへと去っていく。チケットの裏には最大4人までのチーム戦と書かれており、ちょうど人数もそろっていた。


『こんなイベント知らん』


『出現条件はレストランのチャレンジクエストを3つクリアってところか』


『誰ができるんだ?』


『目の前におるじゃろ』


『これガチプレイヤー涙目な奴www』


『一般ピーポーも無理だけどな』


「さすがに今はきつそうだから、時間空けてから行くか」


「僕も賛成。明日、行こう」


 今日の配信は終わり、ミクたちがログアウトするも、この情報を聞いたプレイヤーたちが続々とレストランに並び、玉砕されていくのは別の話である。

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