第75話 状況整理
翌朝。三雲の部屋にはオカルト同好会の面々とみゅ~の3人が押し寄せており、ぎゅうぎゅうになっていた。三雲がこれまでの経緯、自分たちが平行世界の住人であること、ゲーム内には本物の怪異がいること、そしてカーミラの正体を説明していく。
「――というわけだ。要は俺と紅葉、カーミラはこの世界の住人じゃなくて平行世界の住人ってわけだ」
「あたし、頭悪いから平行世界とか言われてもよくわかんないけど、ミクミクはミクミクってことでしょ」
「そりゃあそうだけど。特に俺、元男だろ。もっとこう……嫌悪感みたいなのはねえのか?」
「なに、私たちの裸を見たことを言っているの?」
「別に~今、女だしね~」
「……うん。男のミクミクを知らないからセーフ」
「うっ、なんか、それはそれで傷ついたぞ」
「ミクミクって男っぽいというより、雑って感じだもん」
「どういうことだよ!」
「おしゃれに気を使ってないし~」
「……うん。あの寝る子は育つとデカデカ書かれてあるTシャツはない」
「動きやすくていいじゃねえか。ってか、そのTシャツ買ったのこの身体の子だし、俺のセンスじゃねえよ」
「それにたまにすっぴんで外に出ているでしょ」
「……めんどくさがっている説」
「えっ、なんでバレているの?」
「美香って一目見ただけでそういうのわかっちゃうから」
「こわ……」
「これからはめんどくさがらずにやろうね、みっちゃん」
「そうそう。年取ってから気づいても手遅れだよ~」
「あら、吸血鬼に老いは無いわよ」
「いや、それはゲームの中だけだから。見た目はそれっぽいけど、人間だからな」
「うんうん。ヨーコちゃんにも見間違えられたくらいだからね~」
カーミラの勘違いに指摘すると、ミクに顔を近づかせて瞳の中を覗き込むかのようにじっと見つめる。それが数秒ほど続いたのち、納得しないような表情で元の位置へと戻っていく。
「一つ確認しておくけど、貴方と両親。容姿は似ているかしら?」
「なんだよ、急に……まあ、両親はこっちに来る前と同じ……ってあれ?」
「おかしいよ!似てないじゃん!!なんで、今まで気づいてなかったの!?」
「認識阻害の呪いね。その様子だと、今、解けた感じなのかしら?」
「……そうなるな」
「うん。カーミラに聞かれて気づいたって感じ」
「私もよ。明らかに周りとは浮いている容姿なのに、今、気づいたもの」
「では、その呪いが解けた理由は何ですの?」
麗華が至極当然の疑問を口にする。解けるにしても、お祓いなどで解呪をした覚えはないし、時間経過で消えるのであればなぜ、今なのかという問題もある。
「……ボスを倒したからとか」
「恵、それ、ゲーム脳だって~」
「あり得る話ね。Secret OSを破壊したことで、ゲーム内の私が元の自分のことを思い返せた。つまり、認識阻害の呪いをなくすことができるってのはどう?」
「それだと時系列に矛盾が生じますわ。目や髪の色が異なるのは幼少期でも明らか。つまり、認識阻害は三雲が生まれた時点でかけられた可能性が高い。でも、WCOが発売されたのは2年半前。関係ないとみるのが普通ですわ」
「でも、今のお袋は俺のことを自分の子としてみてない可能もあるのか……」
「電話かけてみる?」
「すげー怖いけどな」
三雲がおそるおそる自分のスマホから自宅へと電話を掛ける。電話に出たのは自分の母親だった。
「もしもし、お袋」
『あら、三雲。どうしたの?』
「……私のこと、おかしいとか思ったことない?」
『おかしいって?』
「ほら、私とお袋って全然似てないでしょ。髪の色も目の色も違うし、体も弱くて薬も一杯飲んでいるしさ」
『そんなことないわよ。ママも小さい頃は病気がちだったし、大きくなれば体も強くなれるわよ。ママはこれから出かけるから、電話切るわね』
通話が終わる。考えていた最悪の事態にならなくて済んだことにほっとする三雲。
「お袋は俺のことを実の娘だと思っているようだったぜ。麗華の考えははずれっぽい」
「認識阻害が解けたのは一部の人間、おそらくは平行世界の住人だけってことね」
「もしくはWCO発売後の人間という可能性もあり得ますわ」
「じゃあ、私たちがミクミクとお母さんの写真を見ても似た者同士に見えるかもってこと?」
「そうなるな」
三雲がスマホを操作して、自分の母親と映っている写真をにゅ~のメンバーに見せる。その写真には帽子を深くかぶっている少女のとなりで微笑んでいる黒髪の女性が映っていた。
「へえ~、ミクミクのお母さん、美人じゃん」
「ミクミクがガサツなのにキレイなのも納得だよね」
「……うん」
「「「って、あれ~」」」
みゅ~の三人が互いに顔を合わせて、もう一度写真を見る。目の前にいる少女とその母親。全くにつかないはずなのに、それがごく自然である錯覚してしまう。
「疑問に思わないのすごくない~」
「なんでなんで~」
「……全く違うのに」
「ワタクシにもお見せなさい」
麗華が写真に写っている母親と三雲を見比べる。似てないのに似ていると言わされるような感覚に頭がおかしくなりそうで、軽く頭を押さえ始める。
「これは……気分が悪くなりますわね」
「ひでえ言われよう」
「答えを知っていれば、多少の違和感は感じるようね」
「と言っても、混乱を招くだけだろうからむやみやたらに教える必要はないな」
「うん、そうだね」
「問題はこの認識阻害が誰によってかけられたかよ」
「やっぱり黒幕の仕業かな」
「そう考えるのが妥当ね」
「複雑になってきたので、これまでの状況をまとめましょう」
麗華が自分のメモ帳にこれまでの推測や情報をさらりさらりとまとめていく。そして、書き終えたメモをみんなに見せる。
①平行世界について
・カーミラのいる錬金世界A、エリザベートがいた錬金世界B、三雲・紅葉がいた科学世界Cが観測されている
・私たちの住む科学世界Dに錬金世界Bのものだと思われる遺物、三雲・紅葉の存在がある→BとCを吸収した
・錬金世界Aも錬金世界Bと同じ吸収される予兆がある
⇒これらの状況から、科学世界Dに原因があると思われる
②WCO内の異変について
・ノイズが発生→平行世界関連で何かある?(発生要因は不明)
・Secret OSを倒すことで、現実の異変を解くことができる
③三雲について
・吸血鬼っぽい容姿と体質ではなく、本物の吸血鬼?(未確定)
・認識阻害のおかげで両親との矛盾に疑念を抱かれていない(他にあるかも?)
「おい、最後は関係ないだろ」
「証言が集まっているから書いているだけで、あくまでも推測ですわよ」
「こうしてみるとみっちゃんのところだけ浮いている気がするね」
「ええ、その通り。WCOの異変は平行世界関連と壮大なモノにも関わらず、三雲の異変は明らかに個人を狙ったもの。つまり、この吸血鬼疑惑はゲーム内に潜んで平行世界を追いやっている黒幕とは別の黒幕がいる可能性が高いということですわ」
「黒幕が二人か……厄介にもほどがあるぜ」
「どこから手を付けたら分からないよね」
う~んと悩んでいると、何を決したかのように麗華が立ち上がる。
「ゲーム内に犯人がいるのであれば、お父様が何か知っているかもしれませんわ」
「麗華ちゃんの家って、運営会社の元締めだもんね」
「それって、黒幕の有力候補じゃない!」
「ですから、身の潔白を払しょくするためにも皆様をお連れしますわ。冥」
「こちらに」
音もなく現れた冥に三雲たちが驚きながらも、冥は淡々とした様子でどこかに電話をする。おそらくは三雲たちを呼んでもよいのかという許可をとっているのだろう。
「お待たせしました。この度、皆さまをWCOの運営会社である鈴星デジタルエンタテインメントご案内させることになりました冥と申します」
「本物のメイドさん?」
「……本当にいたんだ」
みゅ~の面々がパシャパシャと写真を撮っていると、冥がスマホを取り上げる。
「ただし、訪問するにあたってスマートフォンによる撮影や録音機器の使用は固く断らせていただきます」
「了解~」
「……わかった」
「だから返してくれない?」
「もし、破るようでしたらデータを初期化しますのでご了承を」
といって冥が取り上げたスマホを三人に返した後、三雲たちはメイがいつの間にか用意したリムジンに乗って事件の元凶がいるかもしれなゲームの運営会社へと向かうのであった。