第67話 vs【厄災PANDORA】(後編)
「そういや、【闇迷彩】とか言っていたよな。だったら、光で照らし出せれば……」
超人的な反射神経で敵の刃を見切りながら、閃光玉を手に取り放り投げる。すると、それを防ぐかのように閃光玉に血の短剣が突き刺さり、不発に終わる。だが、わざわざ防いだということはその戦法が通じるという裏返しでもある。
「ちっ、そう甘くは無いか。だったら、ブラッディレイン!」
血の雨が降り注ぐと、何もないはずの場所に人型に濡れたところがある。そこにすかさず、手に持っていた剣を投げるも、かわされてしまう。
「ブラッディウェポン、ソード!」
「ちっ、【闇迷彩】をこうもたやすく破るとはね!だけど、今度は私のカワイ子ちゃんの出番だよ。【一斉召喚】」
隷属したモンスターをタイムラグ無しですべて召喚してきたネネ。その中にはミクが隷属したサイクロプスたちのほかに、吸血鬼や蝙蝠、昆虫や狼型の敵キャラも混じっている。一体一体はそこまでではないが、数は桁違いだ。
(こっちもサイクロプスを召喚したところで、タコ殴りされるだけか)
「どう? 始めたばかりのアナタにこれだけの戦力を覆すだけのモンスターを召喚できるのかしら?」
「こうなったら、【鮮血の世界】だ!」
積もっていた雪が無くなり、辺り一面が血の吹き出る真っ暗闇の世界に変わる。情報が少ないせいか、ネネは何が起きても対処できるように後方へと下がり、戦闘をモンスターたちに任せる。そして、ミクが血のムチでモンスターを倒していく。
(どんな効果かと思ったけど、ステアップとブラッディウェポンを使いやすくするための魔法のようね。となれば、現状一番厄介なのは状態異常が効かないこと)
ネネのいくつかの状態異常が付与される魔法の効き目が弱いことを頭の中を入れながら、迫りくるモンスターへの対処に当たっているミクの背後を陣取り、羽を大きく広げる。
「ミク、後ろだ!」
「ブラッディウェポン、シールド」
「クラッシュノイズ!」
「【加速】」
放射線状に広がる貫通効果持ちの音波が血の壁をあっさりと砕くもも、シールドは壊されること前提で出した【加速】で寸のところを躱す。だが、後ろにはネネ、前方にはモンスターの群れ。【超加速】と比べてクールタイムが短いとはいえ【加速】は使ったばかり。2度目はない。
「もう逃げ道は無いわ。眷属たちよ、行きなさい」
ネネが数匹の蝙蝠を召喚し、ミクの周りに展開させる。そして、蝙蝠1体1体が先ほどと同じ音波攻撃を放っていく。多数放つことから先ほどのビームよりも威力は小さいのかもしれないが、防御力を捨てていくスタイルの【吸血姫】にとって、逃げ場のない攻撃は致命的に悪い。
「蝙蝠の攻撃だけなら、【霧化】で逃げられるけど……」
前方に紛れて存在しているアクアクラブなどの弱点属性を放つモンスターを睨め付ける。仮に【霧化】を使って音波攻撃をしのいだとしても、移動速度が遅い霧状態ではモンスターの格好の的になるだけだ。また、ネネが吸血鬼ミラーを意識して弱点属性の魔法を持っていないとも限らない。ミクに執念を燃やしているなら、なおさらであろう。
「万事休すか……」
ミクがやられるざまをダイチは見届けるしかできず、悔しさがにじみ出ている。状態異常が解けるまであと数秒ではあるが、間に合わない。
ミクに攻撃が届こうとしたその瞬間、黒い影が立ちはだかり、蝙蝠からのビームをその身で受ける。
「その程度の攻撃……効かぬ!」
「ダクロ!」
「あれだけのモンスターの群れを突破してきたというの」
「少々強引ではあったがな」
「よし、幻覚が解けたぞ」
ダイチも戦線に復帰し、形勢逆転。いかにモンスターの数をそろえたとしても、上位プレイヤーから見たそれらはすでに戦い、カモにしている烏合の衆でしかない。
「でも、装備を切り替えている暇はなかったはず。もう一度、【幻惑の眼】で――」
「させるか!」
「ギャーー!目があああああ!!」
ミクが血のダガーを投げ、モンスターの陰に隠れている一つ目小僧の弱点である瞳にぶち刺さり、クリティカルも相まって倒すことに成功する。数の上ではまだ不利ではあるが、窮地を脱したことで戦場の流れはこちらに傾きつつあった。
「これは少々まずいのう」
「ダクロとの相性が致命的じゃな」
「では、【フェンリル】の時と同じように行くとするかのう。【巨大化】【凶暴化】」
ゴブ蔵がゴブリンキングと張り合える程度の巨人になり、ドスンドスンと音を立てながら、ダクロたちの方に向かっていく。さらに、【繁殖】で同等の個体を生み出すことで、彼らのもとに着く頃には団体さんと呼ぶべき量が生まれていた。
「中々骨があるような連中が来たようだ。すまないが、吸血鬼は貴公らに任せる」
「助かったぜ、ダクロ」
ダクロがゴブ蔵たちの集団に飛び込み、大剣で切り払っていく。増加個体の方だとはいえ、巨大な個体を一撃で葬るあたり、相当なバフがかかっていることが目に見えてわかる。ならば、自分たちは任された相手をしようとネネに集中する。
「2vs1で悪いが、倒させてもらうぞ」
「なら、ワシが入れば2vs2じゃな」
ミクたちの前にヨーコが立ちふさがり、白虎を召喚する。白虎は光属性を操る聖獣。ミクもダイチも闇属性のキャラのため、手痛いダメージなるのは必至だ。
「ビャッコ、八つ裂きにするのじゃ!」
「ミク、こいつの相手は俺に任せろ!」
ダイチが前に出てヘイトを稼ぐスキルを使い、白虎の攻撃を自身に誘導させる。こちらに向かって鋭い爪を振り下ろそうとしたとき、シールドの先端から電撃がビリビリと帯電し白虎を麻痺らせる。さらに地面から生えてきた鎖で雁字搦めにしていく。
「一丁あがり!」
「ぐぬぬ、ワシの切り札の一体がこうもいともたやすく……」
(陰陽師だと召喚獣の耐性は上げられないから、スタンショック→バインドで簡単に処理できるんだが、教える必要はないよな)
「さすれば、もう一体――!」
「させるか!」
背後に回ったミクが切りかかろうとするも、ネネがミクと同じく血の剣で対抗する。
「ちょろまかと!」
「スピードだけが取り柄なんでね」
「それだけじゃあなかろうに!」
圧倒的に有利に進めていたはずの戦況は互角の雰囲気を醸し出していた。ミクの強さはレアな吸血姫であることでもなく、未知のスキルを所有していることでもない。その場の流れを変えるような天性の勝負運だ。
「だからこそ、ここで沈める!ブラッディバインド」
「しまった、拘束系の魔法か!」
「とらえたぞ、鬼ごっこはこれで終わりだ!ダークネス――」
「……ダクロがこっちに来れるってことは手は空いているよな、ウラガル!」
「承知である。すでにチャージは済ませておいたぞ」
「しまっ――」
不覚。ミクの未知のスキルの発動。ダクロの乱入。集中しなければならないと見逃してしまいそうなミクのスピード。勝利を確信した時の心の隙。いくつかの要素が組み合わさって、ウラガルの存在を忘れていた。そして、最後の一撃を放たれる前に放たれた極大の火はミクごと焼いていくのであった。
「……味方はノーダメージだけど、やりすぎじゃね」
「生半可な火力では倒し損ねると判断したからだ」
「ならいいか。さてと、次はヨーコ、お前だ!」
「ひいい~、なんでじゃ。ワシの式神も聖獣も悉く打ち破られとる」
「このゲームで一番モンスターと手合いしているのはタンクだ!」
ゆえに対モンスターであれば一番対処できるのが己であるとダイチは言い放つ。ゴブ蔵もダクロを抑えるのでいっぱいという状況。もはやここまでかとヨーコがあきらめかけていた時、背筋が寒くなる。
「このままやられるつもりはありませんよね」
「ひぃ!ゆ、雪見……」
「ふふふ、ここの熱気が本拠地の中まで伝わってきましたよ。だいじょうぶ、すぐに鎮火させてあげますから」
「(目が笑っておらんな)そ、そうか。なら、ワシは下がらせてもらうぞ……」
「あっ、逃げやがった」
「追わなくていいぞ。話を聞く限り、雪見を倒せば、相手のモチベーションは大きく下がるはずだ」
「雪女である私を倒せるとでも?」
理性が外れた雪見は巨大な雪の結晶を丸ノコのように回転させ、ミクたちにぶつけさせようとする。
「うぉっ、追尾性能もあるのか!」
「こいつは見た目以上に厄介だな。攻撃直前で軌道を変えてくるから、ジャスガができん」
「まだまだ」
今度は手のひらから氷柱を弾丸のように発射するも、ダイチがそれらを盾で防ぐ。すると、被弾個所から凍っていくのを見て、凍結個所を火のブレスで溶かしていく。
「暑いのは苦手だと言いますのに」
「おかわりならいくらでもあるぜ!」
背後に回ったミクが火属性を付与した鉄球を投げつけるも、雪見が作り出した氷壁に阻まれてしまう。
「その程度の熱、私には届きません。そして、邪魔な悪魔は封印です」
雪見が氷の息吹を放つとウラガルがたちまち凍り付き、戦闘不能状態に陥る。さっきとは打って変わって数では有利なこちらが劣勢に追い込まれる。
(たった一人で場の雰囲気を変えやがった……!やべえな)
退場したネネがミクの心中を知ったのであれば、お前が言うなと突っ込んでいただろう。それほどまでに一人の影響とは大きいものである。そして、ビュンビュンと飛び回る結晶丸ノコがフライヤーの関節部を切り落とし、破壊していく。
「まずいな、このままだと」
「ヂチさん、何か奥の手とかない?」
「あいにくネタを切らしていてな。仕入れ中だ!」
「入荷出来たら教えてくれ!」
「といっても、いつ入荷になるかは分からないけどな」
「希望など与えません」
さらに寒くなっていき、リンが用意した防寒装備の上限を超え、MPがじわりじわりと減っていく。耐え忍んでの長期戦は不可能となり、短期決戦しかミクたちに残された道がない。
「どうする? どうですればいいんだ?」
「動きが鈍くなりましたね、今です」
丸ノコの起動を変更させ、ミクを死角外から狙い撃つ。絶対に避けられないそれは、ミクを両断しようとしたとき、わら人形にぶち当たり消滅していく。
「私たちを忘れたら困るにゃん。錬成:警備ロボット」
「サラマン、ゴー!」
「お前たちのような雑魚などいくら集まっても無意味だ」
宣言通り、雪見は虫を追い払うかのようにゆっちーのサラマンダーと警備ロボットを凍らせるほどの息吹に氷柱が混じり、ゆっちーと猫にゃんをあっという間に撃破する。だが、彼女たちが敵わないとしても、雪見に攻撃したことで意識を一瞬だけ向けさせることができたのだ。それは時間にすれば数秒にも満たない出来事だ。だが、その時間は彼らにとって値千金であった。
「【加速】のクールタイムはとっくに終わっているぜ!」
「くっ……」
「次は俺だな!【ポジションチェンジ】!」
雪見を切り付けたミクと位置を入れ替えて雪見の目の前に現れるダイチ。その手には盾ではなく、サブウェポンである閃光の剣が握られている。ミクが持っているものよりも強化され、鍛え上げられている剣は雪見に大きなダメージを与える。
「まだ、負けたわけでは……」
「悪いが、ここで決めさせてもらう。【連撃】!」
雪見が技を出すよりも早く、繰り出された一筋の閃光は雪見のHPを0にするのであった。居残り組の総大将を討ち取られたことで士気がダダ下がりする【厄災PANDORA】に対し、盛り上がる【星の守護者】は果敢に攻め、ギルマスが戻るまでにコアの破壊に成功するのであった。




