第66話 vs【厄災PANDORA】(前編)
二人が情報を持ち帰った後、リンが雪山攻略に必要なアイテムを作っている間、ギルドメンバーは夜間の対決に向けて夜食をとったり、仮眠をとったりしていた。それから日をまたぎ、午前一時になったところで、SNSを通じてスマホに連絡が入る。残り三十数名しかいない中、ログインしたのは20名弱。圧倒的人数不足の中、ダイチから作戦内容が話される。
「まずは1時を過ぎたことで、運営からギルドのポイントランキングが発表された」
2日目PM12時時点のポイントランキング
1位:厄災PANDORA
2位:ENJOY!
3位:ALL FOR ONE
4位:漆黒の翼
5位:星の守護者
「まだ【ALL FOR ONE】が3位ではあるが、これ以上のポイントの増加はない。そして、【厄災PANDORA】戦で龍堂は健在とはいえ、手痛いダメージを負った【漆黒の翼】もポイントの増加は減少すると思われる」
「とはいえ、人数だけを見るなら俺たちよりも多い。本来ならば、1、2位争いを避けてポイント集めに専念すればいいはずだが、そうはいかない」
「なんでだ?」
「向こうに残っている【漆黒の翼】のギルメンはPK行為に賛同したいわば戦闘職ばかり。吸収した【神撃の虎人】も似たようなもんだ。つまり、探索向けの人員がほとんどいない」
「アタシのフレも見切り付けてやめたからね。まともな生産職も居ないと思う」
「つまり、【漆黒の翼】がのし上がるには人数の多いところと戦うしかないってわけだ。つまり――」
「【漆黒の翼】が動き始めました」
「やはりか。向かったのは山岳エリアか?」
「いえ、海岸エリアです!」
「【ENJOY!】か!?」
ダイチは驚きの声を上げる。事前の予想ではプライドが高く、負けず嫌いな龍堂が反対意見を押し切って【厄災PANDORA】にリベンジ戦を申し込むと考えていたからだ。だが、ここで選んだのは2位の【ENJOY!】。つまり、彼らは【厄災PANDORA】には勝てないと思わせるほどの何かがあったということだ。
「まさか、そう来るとはな。そうなると、【厄災PANDORA】は2位の【ENJOY!】を確実につぶすために居住区エリアを通じて海岸エリアに攻めてくるはず」
「ならば、私たちは【厄災PANDORA】の主力が三つ巴で戦っている最中の隙をつき、草原エリアから本陣に奇襲を仕掛けるしかあるまい」
「ああ。この戦いがギルド対抗戦、最後の戦いになる。守りの人員はいらない。この場にいる全員で奇襲を仕掛ける!」
「最後の音頭は私がとろう。良いだろ?」
「別に構わないが、珍しいな」
「私もたまにははしたない言葉を言いたいこともある。すぅー……オマエラ!ビビってねえよな!」
「「「ねええええええええええええ!!」」」
深夜にもかかわらず、元気よく答える【星の守護者】のギルドメンバーたち。人数が少なかろうと最後までジャイアントキリングを起こそうとする士気の高さはどのギルドにも負けていなかった。
氷原エリアを突き進んでいく【星の守護者】を式紙を通じてヨーコは監視していた。こちらもギルマスが率いて100名以上の大軍を動かせばワンチャンを狙って彼らが動くの明白。だからこそ、ギルマス自らが囮となって主力メンバーを含む40名ほど本陣に残したのだ。
「確か、ホーム支援できる距離まで引き付けて……じゃな」
「そうじゃ。儂ら抜きで出張ると聞いたときは驚いたわい。それにしても、このギルドの夜中のIN率は高いのう。今の時間帯でも8割以上のプレイヤーがINしているのは異常じゃて」
「妖は夜行性じゃからな」
「ロールプレイは良いが、廃人の考えじゃよ、それ……」
ただの人間であるゴブ蔵はあきれながらも、自身のスキルでゴブリン軍団を作っておく。低レアゆえにステータスの伸びが悪いゴブリンで戦うには多くのSPをステータスに振らざるを得ず、それゆえに他のプレイヤーよりも覚えられるスキルは少なくなる。しかも、装備できる武器の種類まで限られているおまけつきだ。だからこそ、固有スキルである【集団戦闘】や【繁殖】、【仲間を呼ぶ】が生命線となる。
「さてと準備はできた。幻覚対策のアクセサリーをつけてばっちりじゃ。レアアイテムじゃが、お嬢ちゃんはどうじゃい?」
「だーかーらー、ワシはお嬢ちゃんではない。数百年は生きとる妖狐であるぞ。幻覚に引っかかるわけが無かろう。それにレイカの幻覚は男性だけだろうに」
「そうじゃったのう。70歳になるともの忘れがひどくなるわい」
「70歳なぞ、まだ子供のようなもの。ボケるにはまだ早いぞ」
「それもそうじゃのう。しかし、この年でゲームにまた嵌るとは思わなかったわい」
ゴブ蔵が若いころに思いをはせていると、雪見が本拠地から出てくる。雪山と化した山岳エリアは雪女である彼女に過ごしやすい環境らしく、ご満悦な顔をしている。
「現実世界は駄目ですわね。やはり、この世界が避暑地としてふさわしいですわ」
「儂が子供の頃とは違って、この頃は熱帯夜が続くからのう。それにしても、ステージギミックで雪山になるとは思いもしなかったわい。おかげで、耐寒用装備を付けないとMPがじわじわ減って厄介じゃわい」
ゴブ蔵はまさか目の前にいる美女が本物の雪女であり、超常的な力で山岳を雪山に変えているなどと思っていない。それゆえ、ゴブ蔵はこの怪現象をゲームのギミックだと勘違いしていた。そして、【星の守護者】が山岳エリアに足を踏み入れたことを知り、ギルド内の空気が一変、少しばかりの緊張感が生まれてくる。
前が見えなくなるほどの雪煙による視界不良はリンが急遽作った防塵ゴーグル、寒さ対策もリン特製のカイロでカバーしている【星の守護者】たち。この2つのアクセサリーに枠が圧迫されたミクはパラソルを捨て、朝日が昇る前にケリをつけようと考えた。
「ドローンが撃たれたにゃん」
「敵の射程距離範囲か……ここから先は慎重に進むぞ」
偵察で地雷はないが、足元から召喚獣が出てくる可能性があることを知った【星の守護者】は囲まれないように少し距離をとり、召喚獣が出ても他のメンバーがすぐさまカバーに入れるようにしている。そして、前方からわらわらとやってくる妖怪とゴブリンたち。
「正攻法ではあるが……少し匂うな」
「俺もだ。猫にゃんは後ろを警戒。アルゴ、カバーに入ってくれ。前の敵はダクロの突破力に賭ける」
「承知!まずは雑魚を一掃する、黒龍炎斬剣!」
黒い龍を象った炎が眼前の妖怪たちを消し炭にしていく。さすがにダクロにバフを乗せるのはマズイと考えたのか、雪の中に隠れていたプレイヤーたちが襲い掛かる。
「やはり待ち伏せしていたか!」
「ダイチ、お前が司令塔なのは知っているぞ、フランケンスパーク!」
(まずいな、カウンター不可で喰らえば麻痺の技か。普段は対策しているが、耐寒装備のせいでスタン対策が……)
状態異常対策は一部のスキル・装備を除けば、アクセサリーでしか対応できないため、耐寒装備を付ければ必然的に状態異常への耐性は落ちる。それが【厄災PANDORA】の狙いであったことに気づく。そして、麻痺している間に高火力技の多いフランケンシュタインの攻撃が待ち構えているこの状況。一か八か防御を上げて受けてみるかと思った時、ミクが割り込み、その攻撃を受ける。
「ぐっ……【自己再生】」
「邪魔が入ったか。だが――」
「タンクをなめるな!【ポジションチェンジ】」
目の前にいるミクと位置を入れ替えたダイチが大振りのフランケンシュタインの攻撃をいなし、バランスが崩れたところを投げ飛ばして地面にたたきつける。身動きが取れなくなったフランケンシュタインに向けて、口から炎のブレスを吐いてフランケンシュタインを焼き尽くす。
「大丈夫か、ミク?」
「ああ、助かったぜ」
「それはこっちの台詞だ。あまり無茶するなよ」
「わかっているって」
「だったらいいんだがな!」
周りの妖怪やそれらに紛れている怪異系のキャラを使っているプレイヤーを倒していく。そんなダイチの視界の端にチラリと一つ目小僧が映る。それを見たダイチがとっさにミクの視界を遮るように動く。
「【幻惑の眼】だよ~ん」
「ダイチさん、大丈夫!」
「大丈夫じゃないな。幻覚にかかったことで、時間が経つまで俺の支援系スキルが敵にかかる。下手に攻撃もできないから、これまでってところか」
幻覚を解除できるハクエンは他のメンバーの支援もあるため、離れた位置にいる。相手が状態異常を仕掛けてくるのであれば、それらを防ぐホーリーサンクチュアリを張りたいところではあるが、発動時に隙も多く、乱戦状態の今、張るわけにはいかない。つまり、ダイチの死はほぼ確定したことになる。
「そんなことさせるか!行くぞ、ウラガル!」
自分をかばったことでピンチを招いたのであれば、その尻は自分で拭こうとウラガルと共に怪異の中に突っ込む。
「ダークスラッシュ!」
「こいつ、思ったより火力高いぞ」
「あの悪魔もうぜえ」
幻覚にかかって身動きが取れないダイチを仕留めたいが、無視できない火力ですばしっこいミクがそれを邪魔してくる。足の速いワーウルフが抜けるも、ウラガルがそれをカバーしてくるのもウザがる理由である。こうなると、ミクを無視することができず、ひとまずミクを排斥しようとするのは自然な流れである。
(あとどれくらい時間を稼げばいいか分からないけど、このままやり過ごせば――)
行けると思った瞬間、殺気を感じたミクはとっさに剣で赤い閃光を防ぐ。それはミクが良く知る技のエフェクトであった。
「ブラッディネイル!?ってことは――」
「【闇迷彩】で姿を消したのに攻撃を防ぐなんて、どれだけ勘が良いのよ」
「吸血鬼か!」
周りの爆炎で照らし出される漆黒のドレスに深紅のマントを羽織った女性がミクの前に立ちふさがる。その口元から見え隠れする鋭い牙は、彼女が吸血鬼である何よりの証拠だ。
「そうよ!この時をどれだけ待ち望んでいたか、思い知らせてやるわ!」
「俺、人に恨まれるようなことしてないはずなんだけどなぁ!」
「アナタになくともワタシにはあるの!」
2人がぶつかり合い、火花を散らす。始めた時期によるステータス差はあれど、ミクは単純なパワーとスピードは【GREED】と吸血姫の補正の高さで補っている。つまり、両者の戦いを分けるとしたら、それ以外の部分だ。
「ウラガル、フライヤー貸してやるから、持ちこたえてくれ!」
「良かろう」
不確定要素になりうる周りにいるプレイヤーはウラガルたちに任せて、ミクは吸血鬼のトッププレイヤー、ネネに切りかかるも、その姿を忽然と消す。
「逃げた? いや、違う!」
持ち前の勘と動体視力で、何もないはずの空間から出てきたムチを切り払う。
(こっちは【自己再生】もなくなって、受けたら即死だっていうのに、厄介な相手だぜ)
動けないダイチを守りながら、自分と互角以上の見えない相手に切り札たるウラガルも機械兵なしという圧倒的な不利な状況をどう覆すか、ミクは耐えながら考えるのであった。




