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第65話 厄災

 2日目の夜。ゲーム内では日が昇っているため、時間感覚がずれそうだが、【星の守護者】は本拠地で作戦会議を開いていた。


「俺たちが【ALL FOR ONE】の要であるスナイパーを落としたことで、戦力が大幅に低下した【ALL FOR ONE】はつい先ほど【ENJOY!】の手によって本拠地が落ちた。これで、【ALL FOR ONE】のポイントの増加はほぼなくなると見ていい」


「ってことは、次は【ENJOY!】と対決か?」


「話は最後まで聞け」


「俺たちがドンパチしている間に行われていた【厄災PANDORA】と【漆黒の翼】の対決は【漆黒の翼】が敗走。これにより、【厄災PANDORA】が1位に躍り出る可能性が高くなってきた」


「そこで、我々は居住区エリアの探索をしつつ、山岳エリアへ侵攻。【厄災PANDORA】を倒し、ポイントを獲得する。【漆黒の翼】との戦いに勝利したとはいえ、相手も無事ではない。我々が勝つ見込みはある」


「怖じ気づいたものは居ないよなああああ!!」


「「「イエエエェェェェイ!!」」」


 全員の意見が一致したところで、ギルメンに作戦内容を伝えていく。と言っても、ネットに転がっている【厄災PANDORA】の情報の真偽をつかむためにミクとフリードに偵察を頼むだけではあるが……



「うひゃあ!」


「なんだこりゃあ!」


 草原エリアを抜けて山岳エリアに向かっていくと、まだ草原エリアにもかかわらず一面銀世界が広がっていた。ミクが地面を触ってみると、冷たさ、感触からそれが紛れもなく雪であることを伝えてくる。


「いつから草原エリアは氷原エリアになったんだ?」


「それは俺も知りてえよ。それに、この雪だとトラップ躱しながらってのは無理だ」


「埋もれているもんな……」


「仕方ねえ。俺のナイトで踏み抜きながら進むか」


 防御力の高いナイトの陰に隠れて進む二人。だが、あるであろう地雷などのトラップはなくすいすいと進み、少し拍子抜けしながら山岳エリアに立ち入る。


「すげー吹雪」


「視界悪いな。ゴーグル持っているか?」


「いや、持ってない。そもそも雪山とか行ってないし」


「俺もだ。必要になる場面が少ないからな。リンに人数分、作ってもらったほうがよさそうだ」


 これ以上の探索は敵に不意打ちで遭遇するリスクが大きいと判断したフリードたちは退却しようとしたとき、ナイトが爆発する。ナイトを一撃で粉砕できるプレイヤーとなると、かなり上位のプレイヤーに限られてくる。


「今度はおぬしらか」


「ヨーコ!」


「ミク、久しぶりじゃな。知り合いとはいえ、本気で戦わせてもらうぞ」


 ヨーコが手に持ったお札に念を入れ、ピンと張った札をカード手裏剣のようにミクたちに投げつける。あまりにも単調な攻撃だが、何が起こるか分からない以上、受ける必要もなく、あっさりと躱す。


「それくら――」


 後ろから振り下ろされた巨大なこぶしがミクを襲うも、間一髪のところで躱すことに成功する。


「あぶねえ、どこから湧いたんだ!」


「ってか、囲まれているぞ!」


「ワシの妖術と陰陽道を混ぜた奥義、名付けるなら式神トラップと言ったところかのう」


「そんなスキル聞いたことがねえ!」


「おぬしらも未知のスキル持っているじゃろ。なら、ワシらが持っていてもおかしくなかろうて」


「一理あるのがむかつく……」


「フリード、ムカついている暇があるなら切り抜けねえと」


「そうだな。といっても、暗殺者の俺に大火力はねえぞ。そっちは?」


「覚えている魔法はほとんどが初級、しかも今は昼!」


「日が暮れるまで粘らせてくれる相手じゃないよな……」


「もちろんじゃ!さあ、ワシらを楽しませてもらおうぞ」


 ヨーコがにひっと笑うと、彼女の背後に5つの人魂が現れ、星形の魔法陣を描いていく。その魔法陣からはぬっと赤鬼が召喚され、その巨大なこん棒を振り回してくる。


「まずいな、鬼の方はアイスゴーレムよりも動きが早い!このままだと全滅するぞ」


「ほれほれ~」


 続いて一反木綿や一つ目小僧といった日本の有名な妖怪たちがわらわらと現れてくる。物量で押してくるならと、ミクが血の雨を降らすも妖怪たちはまだ倒れる気配はない。やはり、吸血姫の本領が発揮できていない今、火力要因としては見劣る。


「その程度の小雨、ワシの妖怪たちに通用はせんぞ」


「だったら、魅了してやるよ。【魅惑の魔眼】」


 召喚された妖怪に魅了をかけて、動きを止めさせる。今のうちにと、ミクはウラガルを召喚し、メロメロになった鬼やゴーレム、妖怪たちを倒していく。


「妖怪たちがオス扱いで助かった~」


「複数のモンスターの同時使役は召喚士の専売特許って聞いているんだがな」


「それはワシの妖術がなせる技だからのう」


「もしかして、ゲームのスキルじゃなくて実際に妖術か何かで呼び出しているとかいうオチはねえだろうな」


「大当たりじゃ。そうしないと雪見に怒られてしまう」


「どういうことだよ!」


「おぬしらが耐えている間にすこ~し、話をしよう。それは6月のできごとだった」



 時がさかのぼり、6月のある日。誰も来ないダムの水底でやることが無いヨーコは今日もゲームにログインしていた。ただ一つ、その日が他の日と違ったのは雪女の雪見がギルドホームの食堂でぐったりとしていたことだ。


「暑いですわ~」


「どうしたんじゃ。具合が悪いなら、ログアウトしたほうが良いぞ」


「あ・つ・い!」


「そんなに暑くなかろう。涼しいくらいじゃ」


「ゲームの中ではなく、リアルの方ですわ!!」


 まだ6月というのに連日35度超え、一部地域では40度を記録したことは記憶に新しい。彼女が若いころと比べたら、10度以上気温が違うのだから本物の雪女である彼女には地獄のような日々が続いているといって過言ではないだろう。


「地球温暖化とかいう奴じゃのう。夏には冷えた麦茶が一番じゃ」


「まだ6月ですわよ!こうなれば、私の妖術で元の夏に戻してあげますわ」


(恐れられていた昔ならいざ知らず、気候を操るほどワシらの妖力が強くなかろうに)


 そのときは無駄だと考えて聞き流していたヨーコだったが、7月初頭に日本のある地域で夏にひょうが降ってきたことで少ないながらも被害が出たことがニュースに流れてきた。その地域が雪見の住んでいる地域であったため、嫌な予感がしながらも雪見と話すことにした。


「ええ、そうですわよ。これで人々が雪女伝説を思い出し、畏怖の念を抱けば私の力も取り戻せるというもの。これで今年の夏は30度未満の日が続く冷夏ですわ!そしてゆくゆくは――」


「ならあああああん!いいか、ワシらは神ではなく妖。勝手に気候を変えるなど――」


「ですが、気温40度の日が続くのはお嫌いでしょ」


「そ、それは……」


「でしたら、私に協力してくださいませ」


「な、ならん。さすがに迷惑をかけるような真似をするわけには……そ、そうじゃ。このゲームで暴れるのはどうじゃ?」


「と言いますと?」


「もうじき行われるギルド対抗戦。そこで雪女が恐れられるほどの活躍をみせれば、もしくは、あるいは妖力が戻るかもしれん」


「……なるほど。現実世界でなくとも、仮想的なこの世界で畏怖の念を集めれば同じという理屈ですわね。それではヨーコにも協力してもらいましょう」


「なんでワシが!?」


「発案者なのだから協力するのは当たり前でしょう?」


「それはそうじゃが……」


「それに(妖怪として)先輩の私が後輩の手柄を横取りするような真似はしませんわ」


(こやつ……あまりの暑さで大昔の雪女に戻っておる!?)


「それにしても、私たちが霊体として潜り込んでも、妖術を使っても、きちんと処理・反映されるこのゲーム。夏場の避暑地やストレス発散の場として最適ですわね」


「潜り込むだけなら、他のオンラインゲームでも同じことができるが、妖術が使えるのはこのゲームだけじゃからのう」


 だからこそ、このゲームの異常性が際立つ。自分たちの使っている妖術は科学では再現できない神秘とも言えるもの。

 野球で例えるのであればプレイヤーが160キロのボールを投げられるかと言われれば、プロ野球選手やメジャーリーガーならばできるだろうと答えられる。だが、200キロはと問われば満場一致でノー。本格野球ゲームで200キロを投げられるキャラはいないだろうし、想定もされていない。

 そのはずなのだが、このゲームでは200、300キロも想定されており、明らかに人外のものがプレイヤーとなる可能性も考慮されているのだ。

 なぜ、人外のものを想定しているのかも問題ではあるが、一番の問題は秘匿されて表には出ていないはずの妖術が使えるのかだ。ゲーム世界で再現できるということは秘匿を暴いた者がいるということ。無論、自分ら妖怪は人の想像より生まれし者。創造主たる人間が共通イメージを持ち、たまたま妖術と酷似しただけの可能性もある。


(妖力を感じる時点で黒じゃろうがな。じゃが、本体が水底にあるがゆえにインターネット越しでしか行けないとはいえ、ゲームを開発している人間を調べても怪しい形跡がないのはなぜじゃ……結局、手掛かりはこのゲームの中しかないのが歯がゆいのう)


「話、聞いてます?」


「少し考えごとしとったわい。なんじゃのう?」


「ですから、どうすれば、雪女を脅威とみなされると思います? ただ勝つだけでは強いプレイヤー止まりだと思います」


「そうじゃのう。雪女らしさ……あたり一面を雪景色にしながら攻撃すればそれっぽくなりそうじゃ」


「それはいい考えですわね。それまで妖力をためておかねば!」


(やれやれ。これで夏場にひょうが降るなどという異常気象は無くなるじゃろう)


 その場を切り抜け、現実世界の異常気象はこれ以降、起こることはなかった。だが、ギルド対抗戦が始まるや否や、ストレスの限界に達していた雪見ははじけた。




「まあ、こんなことがあったんじゃよ」


「まずは雪見さんを止めろよ!仲間なんだろ!」


「よくわかんねえけど、脅されてやるくらいならゲームするなよ」


「年上には……勝てないのじゃ!」


「年功序列って大切だもんな。ウラガル。活路を切り開け!」


 ウラガルがゴーレムを一掃した後、殿を任せたミクとフリードは急いで包囲網から離脱していく。


「追わなくても良いのか?」


「今、二人倒したところで、たいしてポイントにならんじゃろ。なら、引きこもられるより情報を持ち帰って全員で攻めてきてくれた方が都合が良い」


「たいそうな自信だな」


 対峙するウラガルとヨーコ。だが、いくら強力な悪魔であるウラガルと言えどもミクの支援も無しにヨーコに勝つことは不可能。主の姿が視認できなくなったあたりでウラガルは消滅するのであった。

 そして、ミクたちが氷原エリアをまもなく抜けようとしたとき、1匹のゴブリンが立ちふさがる。


「なんでゴブリンがここに?」


「ゴブ蔵じゃねえか!」


「誰?」


「このゲーム最低レアリティ、見た目も最悪なゴブリンの唯一の使い手。前は俺たちと同じ【漆黒の翼】にいたけど、解散時にどこかのギルドに行ったとは聞いていた。まさか【厄災PANDORA】に流れ着いていたとはな」


「ヨーコから逃げるとはやりおるわい。【仲間を呼ぶ】」


 ゴブ蔵が持っている棍棒をぶんぶんと振り回すと、自身と同じ姿のゴブリンがボコボコと地中から現れる。1体1体の強さはゴブ蔵よりも弱くなっているが、その数は分身を作り出す【幻影の血】の比ではない。


「さらに【集団戦闘】(周りにいる味方の数だけ能力がアップする)、【突撃命令】(防御力が大きく下がる代わりに攻撃力と敏捷を大幅に上昇させる+最も近い敵にしか攻撃できない)」


 スキルで強化された分身体のゴブリンがミクたちに襲い掛かる。これをまともにやりあうわけにはいかないと考えたミクはフリードの手を引っ張り、フライヤーを呼び出す。時間稼ぎにと思って出したフライヤーに【突撃命令】のデメリットで攻撃対象が移されたゴブリンたちがボコスカと殴って破壊する。


「【飛行】!」


「空を飛びおったか。だが儂が何の対策もしていないと大間違いじゃ」


 ゴブ蔵が手持ちの武器を棍棒からパチンコに切り替え、空高く飛んでいるミクを狙っていく。狙撃の腕はレッドアイほどではないが、追尾性能を持つ特殊弾頭によって放たれるゴブ蔵の1射はミクを撃ち抜き、その姿を消す。


「分身か!」


 ゴブ蔵が空中に目をそらしたすきに、その横を【加速】でスピードを上げ、地面スレスレの低空飛行で通り去っていくミク。慌ててゴブ蔵がパチンコで狙いをつけようとしたとき、サイクロプスが頭上から降り立ち、巻き上げられた雪煙で自分らの姿を消す。


(フリードを抱きかかえていないことで偽物とばれないように空高く飛ばせた分身で目を引きつけることで、儂に対飛行系のスキルがないか確認。無いなら偽物の後を追い、あったとしても、陽動につながる。さらに地形を利用した逃走手段も用意)


 ゲームを始めた初心者とは聞いていたが、対峙してみるとなかなかどうしてと思うほどの強敵。油断ならぬ相手が出たと思いながら、自身の射程外に出たミクを見送るのであった。

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