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異世界召喚され英雄となった私は、元の世界に戻った後異世界を滅ぼすことを決意した  作者: 白い彗星
英雄の復讐 ~マルゴニア王国編~

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反逆



 コルマの次なる攻撃に対して、警戒を解くことなく緊張の糸を張り巡らせる中……どこか気の抜けたような、いや無理やり自分に気合いを入れたかのような声が響く。同時に、鈍い音も。


 鈍い音の正体……それは、奴隷の動きを拘束していた首輪によるものだ。それが、コルマの後頭部に振り下ろされ、打ち付けられた。


 奴隷の首輪は、言うまでもなく奴隷の首に付けられていて、それを外す術はない。手段はひとつだけ……首輪を外す鍵を、使うことだ。そしてそれは、商人か買い手しか手にできない。奴隷本人が持つことはない。


 商人が奴隷の首輪を外すことはない。となると、奴隷を買った……私。つまり、私が買った奴隷であるユーデリアが、事に及んだのか。


 しかしユーデリアは、後ろにいる。だから彼は除外だ。他に候補は……一人だけ。



「お、お前……キャロル・ニーヤ!」



 コルマを殴り倒した人物、その姿を確認したロッシーニが叫ぶ。その人物は、そう……先ほどコルマ自身が買った、絶世の美女と謳われる人物だ。


 その人物が、いつの間にかコルマの背後に回り……コルマの頭に、外されていた首輪を叩きつけていた。


 コルマの奴、彼女の奴隷の首輪を外していたのか……もっとも、キャロル・ニーヤに同情して、なんて理由とかではないだろうけど。


 ともかく、コルマがキャロル・ニーヤの首輪を外したことで、彼女が反撃の手にうって出たのは紛れもない事実だ。


 首輪は、重く、固い……紛れもなく凶器となる鈍器だ。それをぶつけられたコルマは、地に伏したままピクリとも動かない。



「き、貴様ぁ! なにをしたか、わかってるのか!」



 鬼の形相で、ロッシーニが叫ぶ。その迫力に、キャロル・ニーヤは体を震わせるが、先ほどまで死んでいた目はそこにはない。



「ふ、ふざ、けないで! わた、しは、奴隷、なんかじゃ……ない! 私は、ちゃんと、生きてる、人間で……奴隷なんかじゃ、ない!」



 それは、確かな反逆。ふぅん、見た目に反して、肝の据わった人物であるらしい。


 これまで奴隷として自由を奪われてきた人間が、この日初めて、自ら反逆の意思を示して……



「へー……そうなんだ」



 ゾワッ……



 その瞬間、不意に悪寒というものを感じた。背筋を寒気が走るような……いや、そんな甘い感覚ではない。背筋をねっとりとなめられているような、そんな感覚。


 頭から出血し、倒れていたはずのコルマは……ゆっくりと、立ち上がる。確実に痛みはあるはず……なのに、痛みを気にすることもなく、まるでゾンビのように。



「ひぃいいい!」


「奴隷じゃない、か……そうかもね。お前はただの……奴隷以下の、雌豚だったようだ」



 たった今、鈍器を後頭部にぶつけられたにも関わらず……あれだけの出血をしているにも関わらず、あの男は、痛みどころか隙すらも一切見せない。


 それどころか、怪しく目を光らせ……キャロル・ニーヤの首を、素早い動きで掴み上げる。いつの間に、距離を詰めたのか……



「がっ……ぁ」


「いやぁ、はは……俺としたことがまさか、こんな不意打ちを避けられないなんて。アンとの遊びに興じていたとはいえ、油断したよ」



 遊び……遊び、か。あの男、先ほどまでの死闘を、遊びと言うのか。


 どんなからくりか知らないが、コルマはダメージを感じていないようだ。まったく……こんな奴、初めてだ。魔族にだって、こんな奴はいなかった。


 このまま黙って観察するのも悪くはないけど……せっかくあの変態に一矢報いたあの女が、あの変態に殺されるとこは、あまり見たくはないな。


 その勇気に、一種の敬意を払うよ。



「せっかく、俺の物に染め上げてやるつもりだったのになぁ……けど仕方ないよ。ご主人様に逆らう物なんて、いらないからさ。あはは、死……!」


「ぜぇい!」



 コルマがキャロル・ニーヤに夢中のうちに、横っ腹に一撃与えられれば……そう思った私の一撃は、横っ腹に届くことなく止められてしまう。


 しかも、キャロル・ニーヤを掴み上げるのとは逆の手でだ。



「まったくせっかちだなぁアン。そんなに俺と遊びたいのかい?」


「くっ……!」



 素手で私の拳を受けて、なんともないなんて! 別に身体強化の魔法を使ってる訳じゃない……というか、そんなもので私の拳が防がれるわけがない。


 片手で人一人持ち上げ、片手で私の拳を受け止めて……なんて、奴だ!


 今のこいつは、得物を失い、ただ耐久力が高いだけだ。多分、魔法は使えない……それなのに、なんだこの違和感は?


 そう、こいつは素手だ。素手同士なら、私が後れをとることなんてないはず……



「……っ、ぐっ……!?」



 刹那の思考の最中……痛みが、思考を中断させる。突如として、左脇腹に走る痛み……なんだ? まさか、先ほどのキャロル・ニーヤのように、私も自分が買った奴隷(ユーデリア)にやられたのか?


 いや、コルマを相手にしながらも、ちゃんと周りに気配を配っていたはず。近づいてくる人の気配はない。それに、あれだけビビらせたんだから簡単には動けないはず。


 なら、いったい誰が……?



「!? なっ……」



 痛みのある部分……左脇腹に視線を落としたことで、ようやくその正体がわかる。誰が痛みを生み出したのか。


 ……いや、正確には誰が、ではない。



「け、ん……!?」



 先ほど、確かに私の拳で砕いたはずのあの『へんな剣』が、元の形に戻り、私の体を突き刺していた。しかも、剣を持つ人間はいない。


 つまりだ……状況だけ見ると、『破壊した剣が再生し、その上でひとりでに動いて』私を刺したということになる。そんなこと、あるわけが……!



「ま、さか……魔法!?」



 可能性として考えられるのは、魔法により破壊された剣を復元し、さらに触れずに動かすことで、あたかも剣がひとりでに再生して動き出す、を演出するというもの。一種のポルターガイスト現象だ。


 多分魔法を使えないコルマは除外して、それができるのは、今この戦いを見物しているリーブスかロッシーニ、もしくは奴隷しかいないが……



「はは、考えても無駄さ……」


「?」



 そこへ、またも私の心を読んだかのようにコルマが、笑いだす。



「誰が動かしたとか、そんなことじゃない……そんな必要すらないのさ、その剣は」


「必要、ない……? なにそれ。それじゃまるで、ホントに剣がひとりでに動いたみたいな……」


「そうさ、動く……いや生きてるのさ! あぁ、その剣は呪われてる……『呪剣(じゅけん)』なんだからな!」



 ひどく歪んだ笑みを浮かべて、コルマは叫んだ。

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