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駄エルフ忍者  作者: S.U.Y
第四章 上忍 聖王国編
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忍務59 かこんで忍法でなぐる!

 聖王国と魔界の国境近くには、険しい崖や岩場が存在する。人族と魔族の争いによって生まれたものもあれば、天然自然のものもある。人族の領域ではあるが、魔界からの侵攻の最前線であるため、ドワーフ達でさえ住みつくことは無かった。

 魔物を狩り素材をはぎ取ることを仕事とする冒険者たちは、ここを訪れることはよくあった。人の手の入らない、しかも魔界にほど近いこの区域には珍しい魔物の姿が見られたと言われている。

 だが、ある意味平和であったこの地の生態系に、多大なるダメージが入る事件が発生する。聖王と魔族、そして忍者も交えた大決戦が行われたのだ。決戦の行方はともあれ、ここに住まう魔物やそれを狩る冒険者たちが、一斉に路頭に迷うこととなったのである。

 げに恐ろしき、人外魔境の争いが、罪もない一般冒険者と一般魔物を蹂躙する。それは、世界の理なのかも知れない。



 横殴りに振りぬかれる槍の柄の一閃を、ダクはぎりぎりのところで躱した。髪をかすめる圧力に身が縮む思いであったが、足を止めるわけにはいかない。よくは解らないが、なんだか酷いことをされてしまいそうなのだ。

「ちょこまかとすばしっこい奴め……楽しませてくれる!」

 背中にそんな声が浴びせられるのを、ダクは必死に駆けながら聞いた。

「ダク、こちらへ逃げ込め!」

 右手にある崖の上から、少女の声が聞こえた。見上げると、魔王ユラがぐっと拳を握りながら身を乗り出している。

「ほえ、ユラさま!」

 ダクは崖に足をかけて、一足飛びにほとんど垂直の岩壁を登る。

「逃がさぬ!」

 ぶん、とやってくる槍の穂先に、ダクは足裏に風圧を感じた。本気のダクのスピードに、聖王の槍は追いつきそうなほどだった。全身に冷や汗を流しながら、ダクはなんとか崖上のユラの元へとたどり着く。

「ダク、無事であったか!」

 伸ばしてくるユラの手を避けて、ダクはその側へと着地する。

「ダク……」

 残念そうにユラが呟いたが、ダクにはまだユラの手を取る勇気は無い。本性を知って、トラウマになってしまっているのだ。

「ほえ、ユラさま。いまです」

 もの悲しげなユラの顔を見ないようにして、ダクは聖王を指差した。険しい崖を見やり、聖王は馬を返して隘路の外へ出ようとしている。

「わかっておる。アースウォール!」

 ユラが右手を掲げ、魔法を発動させた。聖王の行く手の出口が、隆起した岩に塞がれた。

「おのれ、そこな少女は魔族か!」

 怒りの声を上げながら、眼下の聖王が馬首を返す。見事な反転に、ユラはほう、と息を吐いた。

「中々、やるものだ。平和の中で惰眠を貪っていた王とは思えぬな」

 凛々しいその声に、聖王の顔つきが変わる。

「その魔力……物腰、貴様、まさか!」

 聖王の上げる叫びに、ユラはふんぞり返って腕を組む。

「そうだ。余こそ、魔界を統べる王、魔王ユラだ! 聖王ジーンよ、よくも余の可愛い小姓を虐めてくれたな。服まで、剥くとは……」

 ユラが聖王から視線を外し、ダクをまじまじと見つめる。

「ほ、ほえ?」

 懐が無いために新しい服を用意できないダクは、未だに素裸のままであった。緊張にふるふる震えるダクの全身を、舐めまわすようにユラは観察する。

「グッジョブ、と言っておこう!」

 聖王に視線を戻したユラが、親指を立てて言う。

「貴様とは、趣味が合いそうだな! 魔王でなければ、良き友になれたやもしれぬ!」

 同じく親指を掲げ、聖王が言った。だが、ユラは首を横へ振る。

「いや、そなたとは趣味が合わぬ。余が喜んだのは、今ならダクにどんな服でも着せることができる、その一点のみ!」

 言うなり、ユラがダクに向けて右手を振る。ダクの身体が黒い靄に包まれ、一瞬の後にフリフリのゴスロリドレス姿になった。頭には、大きなリボンまで付いている。

「ふむ、それもまた、良し!」

 聖王は女装したダクの姿を見やり、腕組みしながら大きくうなずいた。

「なるほど……さすがは聖王。見どころが、あるようだ」

 見下ろすユラが、聖王に向かって満足そうにうなずきを返す。

「魔王よ……貴様に提案がある。その少年をこちらへ渡すならば、貴様に聖王国の半分をやっても良いぞ?」

 にやり、と笑いながら聖王が言った。

「断る。ダクは余だけのもの。誰にも渡さぬ!」

 魔王が決然と否定の言葉を上げたその瞬間、周囲がすっと暗くなった。

「いつから、お前のものになったのだ、魔王よ。ダクは身も心も私のものだ!」

 ユラの立つ反対側の崖の上から、正体不明の声が轟いた。しゅるしゅると、周囲の闇が集まり一つの影となる。影は忍者服となり、覆面の中からはぎらりと赤い眼光がのぞく。

「ほえ、とーもく!」

 ダクの声に、頭目は右手を挙げて応える。一方で崖の下の聖王は、驚きの表情であった。

「頭目……だと? なぜ貴様がここにいる! エルファンはどうした! 忍者はなぜ、魔族と停戦などをしたのだ!」

 激しい怒りの叫びを上げる聖王に、頭目はうるさそうに右手を一振りする。

「質問が多い。全てに、答えが返されるとでも思っているのか? 相変わらず、頭の中身は残念なままだな、聖王ジーン」

 頭目の言葉に聖王は胸を押さえ、唸る。

「忍者であれば、我が命に応えよ! 目の前の魔王を滅し、そこな少年を我に……」

「黙れ! 痴れ者が!」

 魔王を指差す聖王に、頭目の一喝が飛んだ。聞く者の心を凍てつかせるような、恐ろしい声である。その威圧感に、聖王さえもたじろいだ。

「全ての忍者は、私の支配下にある。そして私は、誰の命にも従わぬ! お前には、手を貸していただけに過ぎぬ」

 頭目の言葉を聞いた聖王は、愕然となった。

「我らを、聖王国を裏切る、というのか」

 わなわなと震える聖王を傲然と見下し、頭目は笑う。

「ククク……もとより、お前と手を組んだ覚えなど私には無い。そして……」

 頭目がさっと手を挙げると、頭目の左右に忍者たちが現れる。

「お前は、私の逆鱗に触れた。よくも……よくも私のダクにあのような屈辱的な恰好をさせてくれた!」

「それは魔王がやったのだ!」

 聖王の反論に、頭目がユラを見やる。どうだ、と言わんばかりにユラが胸を張っていた。

「……お前とは、後で話をしなければな、魔王ユラ。それはそうと……聖王、貴様を、今ここで亡き者にすれば聖王国は終わりだ! 覚悟せよ!」

 頭目が、右手を振り下ろす。忍者たちが一斉に九字印を切り始める。

「くっ、この場所では不利か……!」

 槍を握りしめ、聖王は馬を走らせる。

「させるか! 忍法、落石の術!」

 頭目の忍法で、聖王の進路に岩石が落とされた。

「おのれ! なれば崖を駆け登るまでよ!」

 槍を背負い、馬から降りた聖王は崖に手をかける。重鎧を身に着けているとは思えない、凄まじい登攀速度で聖王は魔王に向けて進んでいく。

「ククク……壁に張りついた羽虫のようだな、聖王! やれっ!」

 頭目がせせら笑い、聖王を指して叫んだ。たちまちに、周囲の忍者たちが術を聖王に向けて放つ。

「忍術、豪爆火炎竜!」

 凄まじい爆発が、聖王を包む。

「忍術、水流大瀑布!」

 爆炎の煙の中へ、今度は大量の水が滝のように降り注ぐ。

「忍法、シャカリキパワーで石投げる! ほれほれ!」

 霞むほどの速度で、拳大の石つぶても飛んでいく。

「忍法、お姫様抱っこ」

「もう、真面目にやってくださいまし!」

「ボクは、ミツメちゃんに対する気持ちはいつでも真面目だよ?」

 なんだかふわふわした空気が、飛んでいった。

「久しぶりだってのに、相変わらずだねあんたたちは……砂漠の国から出張だよ! 忍法、アサシン召喚!」

 赤い忍者服のカシャの周りに、レディアサシンたちが現れる。

「……それは、忍法なのか? まあいい」

 小柄なアサシンが、ナイフを投げる。

「オジィ様! お会いしたかった!」

 美女のアサシンが、一人の忍者と熱い抱擁を交わす。

「ダク、トドメを刺せ!」

 頭目の声に、ふりふりのスカートの裾をはためかせたダクが両手を構える。

「ほえ、忍法、ふーじんたつまき!」

 風の塊がダクの両手から放たれ、崖下の空間に激しく吹き付ける。爆炎やら水やら石やらもやもやした空気やらが、一挙に吹き飛ばされた。

 一拍置いて、聖王の身体が崖から剥がれ、ゆっくりと落下してゆく。ずしん、と大きな地響きを立てて、聖王は小さなクレーターを作って頭から大地に埋まった。

「……やったか」

 それを口にしたのは、ユラである。美味しいところを忍者たちに持って行かれたので、言うだけ言っておきたかったのだ。

「……ふふ、ふふふ」

 大地に埋まるように倒れ伏す白銀の重鎧の足から、かすかな声が聞こえてくる。ダクの耳に、それは確かに届いていた。

「ほえ、まだいきてる!」

 白銀の足を指して、ダクが叫ぶ。同時に、足の周囲の地面にぴしぴしとヒビが入った。

「フラグ、頂戴したぞ魔王!」

 ぼこり、と地面を盛り上げて、聖王が両手をついて頭を上げる。

「まだ、息があるのか……」

 呆然と呟くユラの言葉は、その場の誰もが思っていることだった。仁王立ちになってカラカラと笑う聖王に、一同は声を揃えて言う。

「あいつ、人間じゃない……」

 聖王はそれを聞いたのか、にやりと唇を歪ませるのであった。

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