↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
初心者ダンジョンを掃除してたら、ドローンが親になりました  作者: ギズモ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
2/2

第2話 俺じゃなくてドローンですよ?

 探索者協会。


 いつもの会議室。


 いつもの椅子。


 いつもの男性職員。


 ここまでは、もう慣れた。


 問題は。


「キィ」


 俺の隣に浮いている中継ドローン。


 その上に。


 小さな蝙蝠男が座っていることだった。


「…………」


 昨日。


 突然できたダンジョンのコアルームで生まれた。


 黒っぽい翼。


 大きな耳。


 小さな手足。


 大きさは、中継ドローンの上にちょうど座れるくらい。


 今も。


 すっかり自分の席みたいな顔で乗っている。


「まず確認なんですけど」


「はい」


「俺に懐いてるわけじゃないですよね?」


「はい」


 即答だった。


「もう少し考えてくれても」


「昨日から今朝まで、中継ドローンを通して行動観察を行いました」


「俺も何回か歩かされましたね」


「ご協力ありがとうございます」


「俺が右に行ったり、ドローンが左に行ったり」


「非常に分かりやすい結果が出ました」


 そうですか。


「結果は?」


「追従対象は佐倉さんではありません」


「知ってます」


「中継ドローンです」


「そこまでハッキリ言わなくてもいいですよ」


 昨日から。


 何度試しても同じだった。


 俺が離れる。


 気にしない。


 ドローンが離れる。


 ついていく。


 俺が右へ歩く。


 無反応。


 ドローンが右へ飛ぶ。


 ついていく。


「刷り込みみたいなものですか?」


「断定はできませんが、行動としては近いと考えています」


「やっぱり」


「生成直後、最初に強く認識した対象が中継ドローンだった可能性が高い」


「俺じゃなくて?」


「ドローンです」


「そこはもう分かってます」


 自分から聞いたのが悪かった。


「既知のモンスター種との完全一致も確認されていません」


「新種?」


「その可能性はあります。ただし、既知種の幼体や変異個体である可能性も残っています」


「危険性は?」


「現時点では低いと判断しています」


「現時点では」


「はい」


「そこ強調しなくていいです」


 職員が資料をめくる。


「少なくとも、人間への攻撃行動は確認されていません」


「ドローンには?」


「乗っています」


「それは攻撃じゃなくて?」


「おそらく」


「おそらくなんだ」


「キィ?」


 話題にされていることに気づいたのか。


 蝙蝠男がこっちを見る。


「お前の話だよ」


 ニィッ。


「怖いって」


 笑っている。


 たぶん。


     ◇


「よう、久しぶり」


 会議室の扉が開いた。


「どうも」


 相田さん。


 その後ろに。


 真壁さん。


 森川さん。


「またやらかしたんだって?」


「俺がやったみたいに言わないでください」


「祠を掃除したんだろ?」


「掃除はしました」


「そしたらダンジョンができた」


「因果関係はまだ不明です」


「そのダンジョンも掃除した」


「依頼されたからです」


「そしたらモンスターが生まれた」


「…………」


 並べないでほしい。


 俺が悪いみたいになる。


「あら」


 森川さんが俺の横を見る。


「ホントになんかいるわね」


「なんかって言わないでください」


「キィ」


 蝙蝠男が森川さんを見る。


「こんにちは」


「キィ!」


 ニィッ。


「…………」


 森川さんが少し止まった。


「今の、笑ったの?」


「らしいです」


「怖いわね」


「ですよね」


 相田さんも近づいてくる。


「ちっちゃいな」


「ドローンの上にちょうど乗れるくらいです」


「キィ」


「顔はそんな怖くないけど」


「笑うと怖いですよ」


「もう見た」


「じゃあ分かるでしょ」


 相田さんがぐるっとドローンの周囲を回る。


 蝙蝠男は目で追う。


 でも。


 ドローンからは離れない。


「ところで、そいつの名前は?」


「名前?」


「ずっと蝙蝠男じゃ呼びにくいだろ」


「まあ……」


「俺が付けてやるよ」


「嫌な予感するなあ」


 相田さんが腕を組む。


 少し考えて。


「シュナイダー」


「却下」


「早っ」


「なんでそんな強そうなんですか」


「カッコいいだろ」


「こいつですよ?」


「キィ?」


 本人が首を傾げる。


「似合うじゃん」


「似合いません」


「じゃあグラハム」


「嫌ですよ、カッコよすぎるでしょ」


「カッコよくて何が悪いんだよ」


「名前負けします」


「さっきからこいつに失礼じゃない?」


「キィ?」


 俺はドローンの上を見る。


 大きな耳。


 小さな翼。


 笑わなければ。


 割と可愛い。


「…………」


 なんとなく。


 本当に。


 なんとなく。


「俊太郎」


「なんで!?」


 相田さんの声が響いた。


「いいじゃないですか」


「シュナイダーから俊太郎!?」


「俺はシュナイダーって言ってません」


「急に日本人じゃん」


「呼びやすいでしょ」


 森川さんが試す。


「俊太郎」


「キィ」


「あ」


 全員が見る。


「反応した」


「たまたまでしょ」


 俺も呼ぶ。


「俊太郎」


「キィ!」


 ニィッ。


「…………」


 相田さんが肩を落とす。


「シュナイダー……」


「諦めてください」


「じゃあシュンでいい?」


「キィ!」


「ほら。シュンの方が気に入ってる」


「俊太郎です」


「シュンちゃん」


 森川さん。


「キィ!」


「私はこれでいいみたい」


 真壁さんも見る。


「シュン」


「キィ」


「決まりだな」


「俺が付けた名前、誰も呼んでなくないです?」


「俺は俊太郎でもいいと思うぞ」


「真壁さんだけですよ」


「キィ!」


 本人が嫌がってないなら。


 まあ。


 俊太郎でいいだろう。


     ◇


「それでは」


 全員が席につく。


 職員が資料を開いた。


「本日、真壁さんたちにも来ていただいた理由ですが、俊太郎の能力確認に協力していただきます」


「もう俊太郎で話が進んでる」


「仮称が必要ですので」


「仮称?」


「種別が確定すれば、登録上の表記が変更される可能性はあります」


「俊太郎は俊太郎でいいじゃないですか」


 口にしてから。


 自分でも少し驚いた。


 昨日会ったばかりなのに。


 もう別の名前にされると違和感がある。


「キィ」


 本人は。


 全く気にしてなさそうだった。


「昨日からの行動観察で、一つ特殊な反応が確認されています」


「特殊な反応?」


 森川さん。


「詳細については、実際に見ていただいた方が早いでしょう」


 職員が立ち上がる。


「場所を移します」


     ◇


 探索者協会本部。


 地下二階。


《探索機器検証区画》


 扉の横に、そう書かれていた。


「こんなところあるんですね」


「探索用機器や測定装置の性能確認に使用しています」


 中は。


 細い通路。


 いくつかの部屋。


 可動式の壁。


 訓練施設に近い。


 当然。


 全部協会の施設だ。


 間取りも設備も。


 ドローン側に登録されている。


「ここで何するんです?」


「簡単な試験を三つ行います」


 俺たちは観察室へ。


 俊太郎を乗せたドローンだけが検証区画へ入る。


 壁面モニターに映像が出た。


「一つ目です」


 ドローンが通路の中央で止まる。


 俊太郎。


 特に何もしていない。


『通常走査、異常なし』


「何を探すんです?」


「待ってください」


 数秒。


 俊太郎の耳が。


 ぴくっ。


 動いた。


「キィ」


 通路の奥。


 閉じた扉を指す。


『現在の通常走査範囲内に移動体なし』


「でも反応してる」


 森川さん。


 俊太郎は同じ方向を見続けている。


 数秒後。


『前方から人型反応が接近』


 さらに数秒。


 扉が開いた。


 協会職員が一人、歩いて入ってくる。


「なるほど」


 真壁さんが頷く。


「ドローンが拾うより先に気づいたのか」


「はい」


 職員が説明する。


「間取りそのものを見つけたわけではありません。離れた区画を移動していた人間を、通常走査より早い段階で察知したと考えています」


「範囲が広い?」


 森川さん。


「その可能性があります」


「次です」


     ◇


 検証区画の床に。


 三つの箱が並べられた。


 外見は同じ。


 大きさも同じ。


「三つのうち一つだけ、内部で小型モーターを動作させています」


「どれかは?」


「こちらも知りません。別室の担当者が無作為に設定しています」


 相田さんが少し楽しそうだ。


「当てられるかな、シュン」


 ドローンが箱から少し離れたところを飛ぶ。


 俊太郎の耳が動く。


「キィ」


 一つ。


 真ん中の箱を指した。


『通常走査では三箱に有意差なし』


「そこからどうするんです?」


「ドローンの走査範囲を絞ります」


『指向性走査を実施』


 真ん中の箱へ集中。


 数秒。


『内部に周期的な微振動を確認』


「当たり?」


「確認します」


 箱を開く。


 中。


 小さなモーターが回っていた。


「おお」


 相田さん。


「シュン、すごいじゃん」


「キィ!」


 ニィッ。


「顔は怖いけど」


「それ毎回言います?」


     ◇


 三つ目。


 今度は壁。


 設備図がモニターに出る。


「この壁の内部には三本の配管があります」


「それはドローンも知ってる?」


「はい。施設情報として登録済みです」


 そこは当然だ。


「ただし現在、そのうち一本だけに水を流しています」


「どれに?」


「別室で切り替えています」


 ドローンが壁沿いを進む。


 俊太郎。


 耳を動かす。


 少し飛び上がる。


「キィ」


 右寄り。


 壁を指す。


『施設図上、該当位置に三系統の配管を確認』


 俊太郎。


「キィ! キィ!」


『指向性走査へ切り替えます』


 センサーを集中。


『中央配管内に水流を確認』


 職員が確認する。


「正解です」


「なるほどなあ」


 俺も少し分かってきた。


「俊太郎は」


「はい」


「広く探して、先に何か見つける?」


「概ねそう考えています」


「でも何なのか詳しく調べるのはドローン?」


「はい」


 職員が資料を表示する。


「現時点の検査では、俊太郎は中継ドローンの通常走査より広範囲から複数種類の情報を拾っています」


「生き物だけじゃない」


 森川さん。


「はい。移動体、水流、空間形状、材質差など、音の反響によって判別している可能性があります」


「蝙蝠だから超音波?」


「その可能性が最も高い」


 相田さんが俊太郎を見る。


「結構すごいな」


「キィ!」


「褒められたら笑うんですね」


 ニィッ。


「怖いわね」


 森川さん。


「でも、俊太郎だけで全部分かるわけではありません」


 職員が続ける。


「何かがあることは?」


「分かります」


「何なのかは?」


「本人はある程度区別している可能性があります。ただ、我々には正確に伝えられません」


「大きさは?」


「ある程度は把握しているようです」


「距離は?」


「大まかには。ただし数値では伝えられません」


「危険かどうかは?」


「そこは対象によります。例えば人間と水流の違いは理解しているようですが、構造物が安全か危険かまで判断できるかは現時点では不明です」


「だから」


 森川さんが言う。


「シュンちゃんが何かを見つける」


「はい」


「方向を教える」


「はい」


「ドローンがそこへ走査を集中させて、初めて詳細が分かる」


「その通りです」


 モニター。


 俊太郎が。


 ドローンの上から壁を指している。


「キィ!」


 さらに。


 機体をぺしぺし叩く。


『機体上部への打撃を確認』


「叩いて教えてる」


 相田さんが笑う。


「なお」


 職員が続けた。


「俊太郎と中継ドローンの間に、通信上あるいは魔力的な接続は確認されていません」


「じゃあ本当に」


 俺はモニターを見る。


「身振り手振りだけ?」


「はい」


「急に原始的ですね」


『機体上部への継続的な打撃は故障原因となる可能性があります』


「ドローンも嫌がってる」


『機器保全上の注意です』


「俊太郎」


「キィ?」


「叩くのやめような」


「キィ!」


 ニィッ。


「分かってないな」


     ◇


「それで」


 会議室へ戻る途中。


 俺は職員に聞いた。


「今日はこれで終わりですよね?」


「実地試験を予定しています」


「やっぱり」


「検証区画と実際のダンジョンでは反響条件が異なります」


「ここで十分じゃないですか」


「実環境でも能力を発揮できるか確認する必要があります」


「別の人でお願いします」


「俊太郎がそのドローンから離れません」


「別のドローンは?」


「試しました」


「駄目だった?」


「すぐ戻りました」


「…………」


「その機体は佐倉さんの清掃・探索時に随伴しているものです」


「そこですよね」


「はい」


「俺じゃなくてドローンですよね?」


「はい」


「なのになんで俺まで行くんです?」


「ドローンの運用者ですので」


「…………」


 逃げ道がなかった。


 真壁さんが笑う。


「今回は掃除しなくていいぞ」


「そこじゃないんですよ」


「通常運用中の初心者ダンジョンを使用します」


 職員。


「最近、その言葉で安心できなくなってるんですけど」


「異常記録はありません」


「本当に?」


「はい」


「最近できた祠じゃない?」


「違います」


「階層増えてない?」


「増えていません」


「コアは逃げない?」


「そのような記録もありません」


「…………」


 真壁さんたちもいる。


 掃除もしない。


 能力を見るだけ。


「早く帰れるなら」


「可能な限り」


「その言い方怖いなあ」


     ◇


 初心者ダンジョン。


 先頭は相田さん。


 続いて真壁さん。


 俺。


 森川さん。


 そして。


 俺の頭上に中継ドローン。


 その上に俊太郎。


「キィ」


「楽しそうだな」


 相田さんが振り返る。


「多分」


「シュン」


「キィ?」


「こっち向いて」


 俊太郎が相田さんを見る。


「いい子だな」


「キィ!」


 ニィッ。


「何回見ても怖いな」


「そのうち慣れますよ」


「佐倉さんもう慣れた?」


「まだです」


 実地試験開始。


『周辺異常なし』


 俊太郎も。


 特に反応なし。


 普通に進む。


 モンスターが出れば。


 真壁さんたちが処理する。


 俺は後ろ。


 いつも通り。


「何もないね」


 森川さん。


「それが一番です」


 五分。


 十分。


 俊太郎はドローンの上で、ときどき耳を動かしているだけ。


「寝てない?」


 相田さん。


「起きてますよ」


「キィ」


「ほら」


 さらに進む。


 そのとき。


 俊太郎の耳が。


 ぴくっ。


 動いた。


「ん?」


 顔を左へ向ける。


「キィ」


 左の壁を指す。


「何か見つけた?」


「キィ」


 ドローンも壁を見る。


『通常走査では対象を捕捉していません』


 俊太郎が。


「キィ!」


 さらに左を指す。


「なんかあるって言ってません?」


 森川さんが壁を見る。


「そう見えるね」


『指向性走査へ切り替えます』


 ドローンが左の壁へ走査を集中。


 数秒。


『壁面奥三・一メートルに空洞を確認』


「おお」


 相田さん。


『内部に小型モンスター反応二』


「本当にいた」


 真壁さんが壁を見る。


「隠し空間か?」


『既存地図に登録なし』


「今日は入らないですよね?」


『能力確認が目的です。進入しません』


「よかった」


「キィ!」


 俊太郎が。


 ニィッ。


「得意そうだけど顔怖いな」


     ◇


 さらに進む。


 俊太郎が上を向いた。


「キィ」


「天井?」


 指を差す。


『通常走査では異常なし』


「キィ!」


『指向性走査を実施します』


 数秒。


『天井内部に複数の微細亀裂を確認』


「亀裂?」


『現時点で即時崩落の危険性は低いと判断します』


 真壁さんが上を見る。


「避けるか?」


「その方がいいね」


 森川さん。


「わざわざ下を通る必要もないし」


 少し迂回する。


「キィ!」


 ニィッ。


「役に立ってますね」


「かなり」


 森川さんが頷く。


「通常走査だけなら、あそこまで詳しく調べる理由がなかった」


『必要に応じて精密走査は可能です』


「やっぱり張り合ってません?」


『仕様を説明しています』


「はい」


「キィ」


 俊太郎がドローンの上に座り直す。


「仲良くしろよ」


『回答対象が不明です』


「両方です」


     ◇


 能力確認は順調だった。


 俊太郎は。


 壁の向こうのモンスター。


 地下を流れる水。


 少し先にある広い空間。


 そういったものを先に見つける。


「キィ!」


 右。


『指向性走査を実施』


『地下水流を確認』


「キィ!」


 前。


『生体反応一』


「キィ!」


 左下。


『小規模空洞を確認』


「結構いろいろ分かるんだな」


「キィ!」


 ニィッ。


「褒めると笑うんですね」


 森川さん。


「みたいです」


「余計怖くなるの不便ね」


「本人は嬉しそうなんですけどね」


 ただ。


 俊太郎だけでは。


 俺たちには、


『何かある』


くらいしか分からない。


 どこに。


 どれくらいの大きさの。


 何が。


 そこまで確定するには、ドローンが必要になる。


 確かに。


 二つで一組なら。


 かなり便利かもしれない。


     ◇


「そろそろ戻るか」


 真壁さん。


 十分なデータは取れた。


 協会からも。


『実地試験を終了します。帰還してください』


 指示が出る。


「よし」


 今日は。


 何も起きなかった。


 ダンジョンも普通。


 新しい階層もできない。


 コアにも会わない。


 ただ俊太郎の能力を確認しただけ。


「平和だなあ」


「言うなよ」


 相田さん。


「何が?」


「そういうこと言うと何か起きるだろ」


「やめてくださいよ」


 帰路。


 あと少しで入口。


 そのとき。


 俊太郎が。


 突然。


 ドローンの上で立ち上がった。


「キィ!」


「どうした?」


 耳が大きく動く。


「キィ! キィ!」


 翼を広げる。


 上。


 天井を指す。


「また亀裂?」


『通常走査では異常なし』


 俊太郎は。


 今までより激しく。


 天井を指す。


「キィ! キィ! キィ!」


 ドローンの上まで叩き始める。


『機体上部への連続接触を確認』


「今はそれ言ってる場合じゃないでしょ」


「止まれ」


 真壁さん。


 全員が足を止める。


「森川」


「魔力反応に異常なし」


 相田さんが天井を見る。


「見た感じ何もないぞ」


 でも。


 俊太郎は止まらない。


「キィ!」


 真上。


 何度も。


「調べて」


『指向性走査を最大出力で実施します』


 ドローンが天井を向く。


 数秒。


 少し長い。


「まだ?」


『走査中』


「キィ……」


 俊太郎は。


 笑っていなかった。


 さらに数秒。


『上部岩盤内部に空洞を確認』


「空洞?」


『構造解析を継続』


 一拍。


『内部支持部に複数の破断を確認』


 真壁さんの表情が変わる。


「危険度は?」


『局所的な構造強度低下』


 さらに。


『崩落の可能性あり』


「戻るぞ!」


 即座。


 来た道を戻る。


「走っていい?」


「走れ!」


 数十メートル。


 曲がる。


 真壁さんが全員を見る。


「ここなら?」


『安全圏と判断』


 止まる。


 息を整える。


「…………」


 何も起きない。


 一秒。


 二秒。


 三秒。


 ゴゴッ。


 遠く。


 鈍い音。


 続いて。


 ガラガラガラ――!


「…………」


 さっきまでいた方向。


 小規模だが。


 確実に。


 何かが崩れる音。


 全員が黙った。


『先ほどの地点で部分崩落を確認』


「マジか」


 相田さん。


 森川さんが俊太郎を見る。


「ドローンより先に気づいた」


『通常走査では内部空洞まで検出できませんでした』


「指向性を上げて、やっとだったな」


 真壁さん。


 俺は。


 ドローンを見る。


 その上。


 俊太郎。


「…………」


「キィ?」


「お前」


 少し考える。


「助けてくれた?」


「キィ!」


 ニィッ。


「…………」


「笑顔怖いなあ」


 でも。


 今度は。


 ちょっとだけ。


 可愛く見えた。


     ◇


 数日後。


 また。


 探索者協会。


「実地試験の結果ですが」


「はい」


「俊太郎の探知能力は、探索支援に有用と判断されました」


「おお」


「ただし、俊太郎単独では探知内容を人間側が正確に把握できません」


「はい」


「意思疎通手段も限定的です」


「キィしか言いませんからね」


「本人が対象のおおよその方向、距離、規模などを把握している可能性は高いものの、それを正確な情報として共有することはできません」


「はい」


「したがって、中継ドローン等による詳細確認との併用が必要です」


 つまり。


 俊太郎が見つける。


 ドローンが調べる。


 それで初めて。


 俺たちにも何なのか分かる。


「いい組み合わせってことです?」


「現状では」


「なるほど」


「キィ」


 俺の横。


 ドローン。


 その上。


 俊太郎。


「それで」


 聞く。


「この子、これからどうするんです?」


「当面、協会管理下で経過観察を行います」


「よかった」


 これで。


 一件落着。


「ただし」


「…………」


 最近。


 この言葉を聞くと。


 嫌な予感しかしない。


「現在、俊太郎が安定して追従する対象は一機のみです」


「はい」


「佐倉さんの中継ドローンです」


「…………」


「別機体への変更も試しましたが、すぐにこの機体へ戻ります」


「…………」


「そのため」


「俺じゃないですよね?」


「はい」


「俊太郎が懐いてるのはドローンですよね?」


「はい」


「じゃあ俺、関係なくないですか?」


「そのドローンは、佐倉さんの清掃・探索時に随伴する機体です」


「…………」


「今後も俊太郎には、この機体へ同行してもらいます」


「…………」


 横を見る。


 ドローン。


 その上。


 俊太郎。


 目が合う。


「キィ!」


 ニィッ。


「笑うなって」


 どうやら。


 ドローンの上に一匹。


 余計なものが増えたらしい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。