第17話:責任
美香へ子供ができたことを告げる太郎。
「俺はお前と結婚したかった」
あまりにも遅すぎる言葉だった。
翌日。
太郎は美香を呼び出した。
葬儀社の近くの小さな公園。
夜。
街灯の光。
美香は静かに来た。
黒いコート。
相変わらず落ち着いた顔。
「どうしたの?」
太郎は言った。
「話がある」
美香は少し笑う。
「またプロポーズ?」
太郎は首を振った。
「違う」
そして言った。
「真美」
「妊娠してる」
美香の表情が止まった。
それはほんの一瞬だった。
でも確かに驚いていた。
「……そう」
それだけだった。
怒りも、泣きもない。
ただ受け止めただけ。
太郎は言う。
「俺」
「どうすればいい」
美香はしばらく空を見ていた。
冬の夜空。
冷たい空気。
そして言った。
「太郎」
「うん」
「あなた」
「まだ分かってない」
太郎は戸惑う。
「何が」
美香は太郎を見た。
その目は優しかった。
でも。
もう恋人を見る目ではなかった。
「これは」
「選択じゃない」
太郎は眉をひそめる。
「え?」
美香は言った。
「もう決まってる」
太郎の胸が締め付けられる。
「子供できたんでしょ?」
「……うん」
「じゃあ」
美香は静かに言う。
「父親になるしかない」
その言葉は、まっすぐだった。
太郎は俯く。
「でも俺」
「真美を愛してない」
美香は答える。
「愛は後からでもできる」
「でも」
「責任は」
「最初からある」
太郎の目に涙が浮かんだ。
「美香」
「なに」
「俺」
声が震える。
「お前と結婚したかった」
その言葉。
それは本音だった。
ずっと。
心の奥では。
でも。
美香はゆっくり首を振る。
「遅い」
その一言で終わった。




