98:もっとねちねちとした仕返しができたのに。
「辺境伯様。このグリューネス・フォクシミリアン、確かに見届けさせていただきました」
「今回の件、ありのままを陛下へお伝えください。理由はどうであれ、わたしは兄殺しの罪を甘んじて受けるつもりです」
え……兄殺しの罪って……父上殿、そいつは甥殺しも弟殺しも平気な顔してやろうとした男だぞ?
そんなの、死んで当然じゃないか!
「承知しました。全て包み隠さず、陛下へお伝えいたします」
ちょっとちょっと、グリューネス卿まで何を!
「心配いりません、ディルムット様。グリューネス卿は全てと言いました。全てですよ。オズワルズが犯した罪、全てです」
「で、でも……親族殺しは重罪に」
「侯爵家から盗まれたネックレスをディルムット様のお部屋に隠し、罪を着せたこと。子爵を追って、ゼナス領で襲い殺そうとしたこと。その際にディルムット様も同様に殺めようとしたこと。決闘といいながら騙し討ちを行ったこと。それらのことを考えればこそ、血縁者としての責任を果たした。そう、国王陛下はお考えになるでしょう」
血縁者だからこそ、やらなければならない時がある。
本当にそれで、父上殿が罪に問われないで済むのだろうか。
「ディルムット様!? おけ、お怪我はございませんかっ」
「エリン嬢!? いらっしゃったのですかっ」
「だって……だって……ディルムット様に、もしものことが、あった、ら……」
あわわわわわ。な、泣き出してしまった。
ど、どうすればいいんだ、こんな時は。
えっと……ティファニーが夜中にひとりでトイレに行くのが怖いって泣いてきたときは、背中に手を回してポンポンしてやってたけど。
トイレとは違うし。
で、でも、落ち着かせるという意味なら同じでいいんだよな?
えぇっと、ポンポンっと。
ポンポンしてあげたら、今度は抱き着かれてしまった。
これは……浮気ではない! 断じてない!
ま、まだ九歳の女の子なんだ。きっと怖かったのだろう。
いや怖い目には合ってないと思うけど。
ん? エーリヒ様がこっちを見ている。彼も来ていたのか。
なんでニコニコ顔なんだ?
あ。
エヴァンゼリン嬢のお兄様!
お、お兄様が婿候補の俺を見て笑っている。妹のエヴァンゼリン嬢ではなく、従妹とはいえ他の女の子を泣かせている俺を見ている!?
ガクガクブルブルガクガクブルブル。
「いや、あの、エーリヒ様、これはその」
「心配はいらないよ。わたしの方からもちゃんと、お伝えしておくから」
エーリヒ様から伝える!? なな、何を伝えるんですか!?
俺が他の子を抱いていたって、そんなことをエヴァンゼリン嬢に伝えるつもりですか!?
あ、抱くっていうのは誤解を招くな。
いやそうじゃなくって!
「子爵の証言があれば、特に問題もなく片付くのだろうけど……彼の傷の具合はどうだろうか?」
「あ……伝えるっていうのは、向こうの件なのですね」
「ん? 何の件だと思ったんだい?」
「いえ、なんでも。子爵はどうかなぁ~」
すっとぼけてみた。
だが子爵の容態は気になる。こんな所で死んだんじゃ、グスタフがかわいそうだ。
せっかく父親が心を入れ替えてくれたんだ。きっとこれからいい親子関係を築けるだろう。
今世の俺ほどでなくても、これから幸せが待っているんだ。それをオズワルズ程度の人間に、奪われるのはあんまりだ。
ただ、俺やエーリヒ様の心配は無用だった。
「カティア様の神聖魔法は素晴らしいとは聞いておりましたが、これほどまでとは」
「パパ! パパよかった。よがっだよぉぉぉ。ガディアじゃま、ありがどうございまずぅ」
母上の治癒魔法は素晴らしかった。
元々才能があって司祭の資格も有していた母上だが、辺境に来てその力はますます磨きがかかっていた。
まぁ、開拓作業では怪我人が出るのはつきもの。その度に母上が治癒をしていたからな。
怪我の治療だけじゃなく、病気の治療もやっていたし。
もちろん、我が家には医者もいるし、薬師もいる。
それでも、母上の出番は多かった。
「子爵様。怪我は治癒できましたが、出血が多いのでしばらくゼナスで休まれた方がよいですよ」
「そうです。怪我をした冒険者や従者の方も、休ませないと」
「それは……かたじけない。そうさせていただきます」
ということで、子爵一行はゼナスへと引き返すことになった。
そして。
「ディルムット、頼めるかい?」
「はい。でもいいんですか? こいつもここに埋めてしまって」
「ゼナスに墓を立てるというのは反対だけれど、そうも言っていられないだろう?」
こいつ、とはオズワルズだ。
死んでも厄介者になるとはな。
野ざらしにしておけば、モンスターが寄ってきてしまう。だからって墓も立てたくない。
傭兵どもと一緒に埋めるしかないか。
あぁ、嫌だなぁ。こいつがゼナスの地で眠るなんて。
どうせならランドファスに引き取って欲しいところだが……そうだ!
「エリン嬢、ちょっと失礼しますね」
「は、はいっ。す、すみましぇん」
顔を真っ赤にして、でもようやく落ち着いたエリン嬢をそっと放し、オズワルズの元へ行く。
「錬金!」
遺体の側で両手を付き、土を奴に纏わりつかせ、そして。
「土の棺の完成です。土で押し固めたので、これならそのまま地面に埋めればいいでしょう。中身を見たいのなら、土を崩せばいいですし」
水にでも浸しておけば、少しずつ崩れるだろうしな。
「ディルムット、どうするつもりなんだい?」
「どうするって。返すんですよ、伯爵家に」
罪に罪を重ね、他家の貴族を暗殺までしようとした男。
オズワルズが死んだとて、きっかけを作ったのは息子のランドファスだ。
爵位ははく奪されるだろうな。
「フィッチャーのところの商隊に、これの輸送を頼みましょう。報酬を弾んで、ね」
長年続いたオズワルズ家とのことも、ようやく片付いたか。
他人の命を狙おうとまでしなければ、もっとねちねちとした仕返しができたのに。
他の傭兵たちの遺体は、深く深く穴を掘って埋めた。
子爵の馬車は燃えていない部分の木材だけ利用して、即興でふたり乗りサイズの小さな馬車に錬金。
生き残った傭兵たちをどうするか。
グリューネス隊長と話し合って決めないとな。
まぁ、強制労働といったところかなぁ。




