表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】毒親育ちの俺、異世界で優しい家族を得る~不運な男爵家ですが、錬金魔法で辺境領地を発展させます~  作者: 夢・風魔
3章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
97/210

97:天は二物を与える。

「そこだ! グリューネス隊長、行け!! やれ!!」


 ドームに覗き穴を作って、外の様子を見た。

 王国騎士団とうちの騎士団、合わせると四十人ぐらいが駆けつけ、傭兵たちを蹂躙していく。

 さっきまで多勢に無勢の「無勢」はこっちだったんだけど、完全に逆転している。

 そのうえ、個々の技能も完全に騎士たちの方が上だ。


 当然だ。


 蛮族が襲ってくるかもしれない国境なんだから、精鋭の騎士たちで部隊編成されているだろうしね。

 蛮族が来なくても、モンスターは襲ってくる。

 何にしても、名ばかり騎士はひとりもいない。


 くくくく。最強じゃん、ゼナス騎士団!


「ディルムット様。お出になっていただいて結構ですよ」

「ロバート卿」

「怪我人がいらっしゃるようで。奥様がすぐに到着されます」


 グスタフはちゃんと状況説明をしたようだな。感心だ。


 錬金魔法でドームを崩し、外へ出る。

 傭兵はもちろん、オズワルズと魔術師も既にお縄になっていた。といっても、傭兵の七割ぐらいは地面に倒れて動いていない。死んでいるんだろう。


 やるからには、やられる覚悟もしとけってことだ。


「クソ! てめぇ、オズワルズ伯爵。話が違うじゃねえか!」

「王国騎士団がいるなんて、聞いてねぇぞっ」

「だだ、だ、黙れ! この無能どもめがっ」


 まぁ王国騎士団が到着したのは、つい最近だしな。

 というか、そのつい最近を知らなかったってことは、こいつらも一日二日前にここへ来たのか。

 もしかして子爵を追って?


 おっと。子爵の様子を見ないとな。

 馬車の所でグスタフが泣きじゃくっている。

 もしかして手遅れだったのか?


「ディル。子爵様はどちらに?」

「母上! 馬車の脇にいらっしゃいます」


 果たして母上は間に合ったのか。


「兄上……またあなたですか!」


 父上殿も一緒か。

 さて、あのバカをどうしてくれようか。まぁとりあえず殴っておくかな。前回、そう宣言してやったんだし。

 はぁーっ。


 拳骨に息を吐きかけ、それから縄で縛られたオズワルズの顔面を殴った。


「んぐわっ」

「ディ、ディルムット殿!?」

「すみません、グリューネス隊長。以前この男が来た時に、言ったんです。次、また来たらぶっ飛ばすって。有言実行なんです」

「……気は晴れましたかな?」

「んー、あんまりですね」


 そう答えると、グリューネス隊長が苦笑いを浮かべた。


「ク、クソッ。俺様をバカにしやがって」

「え? 何当たり前のことを言っているんですか? もしかして自分は賢くて高貴だとか思ってます? ぷふ」

「くぬああぁぁぁっ。サウル! 貴様の躾が悪いからこうなるのだぞ!」

「兄上。そっくりそのままお返しします」


 うんうん。躾の悪さならランドファスの方が上だろう。


「き、貴様までバカにするのか! こうなったら決闘だ! 貴様を倒し、どちらが格上か教えてやる! そのうえで、勝った者がゼナスの領主となるのだ!!」


 何を言っているんだ、この男は。

 ゼナスの領地は国王陛下から与えられた土地だぞ。それを賭けの対象にしようなんて……あ、グリューネス隊長の顔が怖い……。

 まぁもちろん、そんなバカな勝負を父上殿が受けるわけもなく。


「では、あなたが負けた場合は、国王陛下の前で大人しく真実を話すと誓いますか?」

「ち、父上?」

「ふんっ。真実だと? ディルムットが侯爵のネックレスを盗んだこと以外に、何の真実があるというのだ。あ?」


 ダメだこりゃ。


「……兄上。教えてください」

「ふんっ」

「あなたは、ディルムットも殺めるつもりだったのですか?」


 ふぉ……な、なんだ、この背中がぞくぞくする感じは。


「ディルムット様。少しお下がりください」

「ロ、ロバート卿?」


 見上げると、ロバート卿の額に汗が。

 ロバート卿だけじゃない。うちの、そして王国騎士団の面々も一歩、また一歩と下がっている。

 な、何が起ころうとしている?


「ふんっ。だったらなんだというのだ! 俺様を裏切ったグランシュを片付けるのに、一緒にいたのだからついでだ、ついで」

「そうですか」


 ぶわんっと風が舞う。

 いや、風じゃない。こ、これ……魔力の渦!?


 つ、つまり、今この場で、悪寒を感じているのは、魔力の流れを見れる者だけ。

 その悪寒の源が……父上殿!?

 そして、オズワルズは気づいていない。


 これほど鋭利で冷たい魔力を父上殿は放っている。そのことにオズワルズは気づいていないんだ。


「サウル。魔法はなしだ。正々堂々と剣で勝負しろ!」

「いいですよ」


 そう答える父上殿の顔に、いつもの柔和な笑みは浮かんでいなかった。


「よ、よろしいのですか、辺境伯様」

「隊長殿。ご迷惑をおかけしますが、審判をお願いします」

「そ、それはもちろん……」

「おい。勝負の決着方法だが、相手に膝をつかせて参ったと言わせるか、物言わぬ骸にした方が勝ちだ。いいな?」


 なっ。正気なのか、オズワルズ。

 それは完全に、死刑宣告を自分にするようなものだぞ?


「グリューネス隊長、わたしはそれで構いません」


 父上殿がそう言うのならと、隊長は部下に剣をオズワルズに渡すよう命じる。

 それを受け取ったオズワルズの顔には、暗い笑みが浮かんでいた。

 

「で、では……互いに正々堂々と――おい!」


 決闘の合図を待たずして、オズワルズは飛び出す。


「ロバート卿。オズワルズは知らないのだろうか」

「おそらく知らないのでしょう。あの方はどこまでも、サウル様のことを知ろうとしませんでしたから。少しでも、ほんの僅かでも弟君のことを知る努力をしていれば、お二人の関係は違ったのかもしれません」


 そうかもしれない。

 少なくとも父上殿は、あいつのことを兄として見ていた。

 奴は父上殿のことを、弟だとは思ってはいなかったようだけど。


 だから知らなかったのだろう。知ろうとしなかったのだろう。

 父上殿は……強い。

 それは魔法に限らずにだ。


 飛び出したオズワルズは、その手に握った剣をあっさり叩き落とされ、勢い余って顔から地面に倒れ込んだ。

 慌てて立ち上がろうとしたが、その眼前に剣先が突きつけられる。


「わたしの勝ちです。兄上」

「きさ、貴様!? いったい何をした! 卑怯な真似をっ」

「何もしていませんよ、兄上」

「う、嘘を言うな! 貴様が得意なのは魔術であって、剣術ではないだろうっ。魔術師は体力もなく、剣に優れているはずがない!」


 勝手な思い込みだ。天は二物を与える。

 剣にも、そして魔術にも優れた人間をお作りになるのだ。

 それが、お前の目の前にいる人物だよ。半分はお前と同じ血の流れた弟だ。


「降参なさってください。あなたがわたしに勝てる見込みは、万に一つもないのですから」

「ぐっ。くそっくそっくそっ」


 見苦しい奴だ。ここで切り捨てられないだけ、感謝しろってん……あ。

 奴が砂を掴んだ!


「くそぉぉぉ!」

「くっ」


 オズワルズは掴んだ砂を父上殿に投げつける。

 その隙に地面に落ちた剣を拾おうとしている。


「そうはさせるか!」


 十二年半。この世界に転生してきて十二年半だ。

 今日、初めて、明確に人を殺そうと思った。

 躊躇いはない。むしろ今までよく俺は我慢したなと、自分を褒めてやりたい。


 剣を抜き、奴の首を――突くその瞬間、大きな手が包んだ。

 その手は父上殿のもので。


「ありがとう、ディルムット。だけどこれは、わたしがやらねばならないことなんだよ」


 見上げた父上殿の顔は、どこか悲し気だった。


「死ね、サウルゥゥゥゥ」


 剣を拾って振り向きざま、オズワルズが叫ぶ。

 猪突猛進。そんな言葉が似あうだろうか。

 鬼気迫るオズワルズの行動は、だけど父上殿にとって何の障害にもならなかった。


 ひらりと風が舞う。

 父上殿の鋭い斬撃が一振り。たった一振りだった。

 首から鮮血をほとばらせ、どうっと倒れたのはオズワルズの方で。

 奴はうめき声ひとつあげずに絶命した。


 痛みを長引かせないようにしたのは、せめてもの父上殿の優しさだったのだろうな。

 最後まであいつは、父上殿の優しさを知らずに逝ったのか。

 それはそれで、なんだか腹立たしく感じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ