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【書籍化】毒親育ちの俺、異世界で優しい家族を得る~不運な男爵家ですが、錬金魔法で辺境領地を発展させます~  作者: 夢・風魔
3章

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83/210

83:これは由々しき事態だぞ。

 山からの水の流れを変え、ゼナスの大地を潤すようになって約二年。

 この日、ついにそれはやってきた。


「あれ? なんか……」


 空が怪しい。

 そう思って西の空を見ていると。


「たたたたたた、た、大変、大変だよディルの兄貴ぃぃぃー!」


 チクが慌てて走って来た。

 彼は西の空を指さして、真っ青な顔をしている。


「兄貴っ。空が……空が禍々しい気に包まれてるよ!」

「なんで厨二病みたいなこと言ってるんだ、チク」

「ちゅーに? あれちゅーにっていうのか!?」

「いや、そうじゃなくって……はぁ。あれは雨雲だよ。禍々しくもないし、気、でもないから」


 辺境に越してきて二年。ただの一度も雨が降っていない。

 そうか。ここで生まれ育った子供たちは、雨雲すら見たことがないんだな。

 まぁここって、雲一つない晴天がしょっちゅうだしな。


 あ、ってことはもしかして。


 チクを伴って村の中心部へと向かう。

 足元には水路が通る、村の人たちが涼めるようにと大きなガゼボを設置してある。貴族が庭園で休息するときに使われる、屋根付きベンチだ。

 足湯ならぬ足水もできる構造にしてあるから、ここは村の人でいつも賑わっていた。

 そして今も、別の意味で賑わっている。いや、騒ぎになっている、かな。


「ば、蛮族の魔法攻撃だ!?」

「いや、あれは呪いだ! 蛮族の呪いだぁ!」

「黒い大量の羽虫かもしれない!」

「人食い羽虫だ。く、食われるぞぉぉぉぉ!!」


 なにこのディストピア……。俺はいつから暗黒時代の異世界に転生したんだ。


「ちょっとちょっと。みなさん落ち着いてください! あれは雨雲です。雨を降らせる普通の雲ですから!」


 と大声を言っても、パニックになった人たちは聞いてくれない。

 だからみんなが俺を見てくれる状況を作り出す。


「錬・金・魔・法! みんな俺を見んなあぁぁー! じゃなくて見ろぉー!!」


 べ、別にやってみたかったわけじゃないんだからね!

 ガボゼの素材をそのまま使って、超カッコいいロボットを錬金する。

 今回はロボアクションゲームの記憶を漁って、四脚タイプにした。

 すると。


「ひ、ひいいいぃぃぃぃぃ。巨大羽虫だあぁぁぁ」

「違う違う違う。そうじゃない! 僕です、ディルムットです!」

「え……ぼ、坊ちゃん?」


 危うく混沌(カオス)になるところだった。


「みなさん、聞いてください。あの雲は雨雲です。ゼナスで生まれ育ったみたさんは見たことなかったのかもしれませんが、雨が降る場所なら当たり前のように見る雲です! 魔法でも呪いでも、まして虫でもありませんから安心してください!」

「あ、あま、ぐも?」

「雨? 雨が降る、のですか?」

「えっと……たぶん?」


 そう、話した時だ。

 ぽつんっと、頭のてっぺんに何かが当たった。

 空を見上げ、そのまましばらく待つと……落ちてきた。


「あ……」


 小さな、とても小さな雨粒だ。

 けど確かに降っている。小雨、いや、それよりももっと少量の雨だ。

 それでも、ここで暮らす人にとって初めて見る雨なのかもしれない。


 村の人たちを見ると、みんなぽかんと口を開けている。


「雨ですよ、みなさん」


 そう言うと、ひとりが「これが雨」と漏らす。

 あれだけ大騒ぎしていたのに、今はみんな、空を見上げて静かだ。

 こういうときって、大歓声が上がったりするんじゃないのか?


 なんて思っていたら、かなり間が空いて。


「雨だ」

「雨だあぁぁぁぁぁぁ!!」

「ゼ、ゼナスに恵みの雨だあぁぁぁ」

「雨だわ。雨なのよ!」

「すっげー! まるでシャワーだ。あっ。これで今日の畑の水やり、しなくてすむぞ!!」


 と驚きと歓声があがる。

 あとチク。ちゃんと水やりはしような。このぐらいの雨量じゃ、畑の水は足りないだろうし。

 実際、もう雨雲が薄くなり、陽光が差し始めている。

 あぁ、止んでしまったな。

 僅か数分の雨だった。


 でも、雨は雨だ。


「坊ちゃん!」

「凄い。凄いですよ! 雨です!」

「うん。そうですね。僕もここに来て初めて見ました」

「母から話には聞いていました。雨……本当にあったんですね」


 みんな大喜びだ。

 でもなんで雨が降ったんだろう?

 水がきたから、その水が蒸発して雲に?

 そんな程度で、雨が降るなら水不足は簡単に解決したはずだけど。


「雨が降ったのぉ~。そろそろだとは思っておったのじゃ」

「あ、リディアレーゼ。この雨について何か知っているのですか?」

「うむ。教えてやってもよいがのぉ。その代わり、婚約破棄をするのじゃ!」

「フェルミオさぁん」


 間髪入れず、リディアレーゼの世話役である大人なエルフ、フェルミオさんの名前を呼ぶ。

 リディアレーゼの後ろにいた彼女は、会釈をして真顔で淡々と答えてくれた。

 

「水を引き入れたことで、水の精霊たちがこの地に戻ってきました。二年かけ、水の精霊の力が増したため、風の精霊の力を借りて雨が降るようになったのですよ」

「ふぬあぁぁー! フェル!! 何故答えるのじゃ!」

「聞かれましたから」

「むきぃぃぃー!!」


 ふぅん。この世界の天気って、精霊の力が影響しているのか。

 まぁ異世界だしね。地球の常識がここでも常識とは限らない。


 その後も数日に一度、短い雨が降るようになって……そしてある日。

 竹林に大変なものを見つけた。


「坊ちゃん。こっちにも生えてるぜ。こいつぁ食えるやつだ」

「いやぁ、これを見るのも二年ぶりですなぁ」

「そう……だね……」


 大変だ。これは由々しき事態だぞ。


 竹林に……。


「立派なきのこですぜ」

「うんまそうだなぁ」


 竹林に……たけのこの聖地に……きのこが生えた!?


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