74:最高にカッコいいけど、最高に燃費は悪い。
王都を出発し、馬車に揺られること一時間。
突然、馬車が停止した。
「どうしましたか?」
と前方の小窓を開け、御者のセダストンに声をかける。
「それがですね、ディルムット坊ちゃん……」
振り返ったセダストンは、困ったような表情を浮かべていた。
何かあったのかな?
扉の窓を開けて顔を出すと、街道を塞ぐ一台の馬車と、その前に仁王立ちした二人の人物がいた。
大人と子供。見覚えのある顔だ。
「どないしましたん?」
「はぁ……顔を合わせずに帰れると思ったのに」
「あぁ、出はったんですか」
そう。出たんだよ。あの親子が。
「ディルムット! よくも伯父であるこの俺を騙してくれたな!」
「あれれ~? 僕に伯父なんていたっけかなぁ」
と、とぼけながら馬車を降りる。
街道のど真ん中で仁王立ちしていたのはオズワルズと、その息子のランドファスだ。
「と、とぼけるな! 俺は! お前の! 正真正銘伯父だ!」
「え……そんな強調して言うことでもないんじゃ……伯父はいないって言われて、そんなに寂しかったんですか? うわぁ、ドン引きだなぁ」
「だ、黙れクソガキ! いや、そんなことはどうでもいい! 岩塩で儲けているんだろう。分け前を寄越せ。お前もシュパンベルク家の者なら、伯爵家を支援しろ!」
「そんな家訓ありました? 僕はおじい様からも聞いたことありませんし、そもそも我が家は伯爵家から完全に別家しているんです。これ、二年前に父上も言っていたでしょう? もう忘れたんですか?」
「そ、それが血の繋がった家族に言う言葉か!」
家族? あいつ、今家族って言ったか?
どの面下げて家族なんて言っているんだ。バカじゃねーの。いや、バカなのか。
「おい、ディルムット。パパがこう言ってやっているんだぞ。金を寄越せ」
……これが九歳児のセリフなんだから、驚きものだね。
「はぁ……わかりやすく言ってさしあげます。誰がてめぇらなんかに金をやるもんか、バーカ」
と言ってやると、二人はしばらく口を閉じて、それから、俺が言った言葉の意味を理解したらしく、顔を真っ赤にして喚きだした。
「バ、ババ、バカ、バカとはなんだバカとは!」
「オ、オレ様のことを、バカって言ったのか? バカって言ったのかぁ!?」
「あぁ、言ったよ。バーカバーカ。ランドファスのバーカ」
うん。我ながら子供じみているな。反省しよう。
よし、反省した。
そうだ。どうせ子供じみた嫌がらせをするのなら、アレを錬金しよう。
「みんな、馬車から降りてください。あ、セダストン。馬車のポールを馬から外してくださいね」
「え……ま、まさか坊ちゃん。アレをやるんですか?」
「あわわわわわ。首都で購入した土産を下ろしますさかい、ちょっと待ってぇな。ロバート卿、手伝ってぇ」
「アレか。ディルムット様。角は一本。一本のユニコーンを希望いたします」
「はぁ……どうして殿方は、アレがお好きなんですかねぇ?」
ロバート卿は少年のような瞳を俺に向け、それからフィッチャーに突かれ馬車から荷物を下ろし始めた。
その間に俺も仕込みをしておく。
この馬車にはあるモノをはめ込んだ、俺が錬金した馬車だ。
本物の馬車をじっくりしっかり観察して、セダストンに何度も何度もダメだしをされて錬金した傑作だ。
セダストンが馬車の本体と馬とをつなぐポールを外したら、馬車にはめ込んだアレ、浮遊石に魔力を流し込んで浮かせる。
「うう、う、浮いた!?」
「うわぁ、パパ、オレあれが欲しい! おいディルムット。その馬車を寄越せ!」
というランドの声を無視。
そして、壊れる危険のあるような荷物が全部下ろされると「坊ちゃん、いいですよ~」とマーガレットが教えてくれた。
クク。クククククク。
この二年で俺が錬金に錬金を重ねて作り上げた最高傑作。
とくと見よ!
「錬金――うおりゃあぁぁぁ!」
気合の声と共に両手を付き、馬車を包む魔法陣を出現させる。
光の中、馬車の形が変わっていった。
腕が生え、足が生え、頭には一本の角。
鎧を着た人間っぽく見えなくもないそれは、全高三メートル弱。
それぞれの関節部分はジョイント式で、パーツは直線的に錬成してある。
これを見ても誰も思うまい。
これが、剣と魔法のファンタジーに不釣り合いな存在だということを。
そう。これは……。
「見よ! これが僕の二年間の集大成。ロボット・ゴーレムだ!!!」
そう。俺が子供の頃にあこがれた、ロボットプラモデル。
あれを錬金魔法で再現したものだ!
細部はほとんど想像だけど。
「素晴らしいです、ディルムット様!」
「いやまぁ、今回も凝りましたねぇ」
「ははは。馬車が元に戻るのか心配ではありますが、悔しいことにカッコいいのは間違いないんですよねぇ」
「私にはわかりません……」
概ね好評なんだけど、女性には人気がない。キャロは大興奮するけど。
「ゴ、ゴーレム!? そ、そんなものを作って、ど、どうしようというのだ!?」
「パ、パパ。オレ、やっぱりアレ絶対に欲しい!」
「このロボット・ゴーレムは僕の命令にしか従いません。僕のゴーレムですから。さぁ、ゴーレム。言っても理解しない連中には、身をもってわからせてあげましょう」
そう言って俺はゴーレムの肩に飛び乗る。
このために体も鍛えたんだ。
この世界の人は、地球人の数倍、数十倍も身体能力が高い。もちろん、何もしていなければ地球人とそう変わらないけど。
でも鍛えると、二メートルの高さだってジャンプできるんだ!
ちなみにロバート卿は、三メートル以上飛んでいる。
ロボットの肩には手すりも付けてある。この手すりも、バックパックからのエネルギーを通すパイプっぽくディテールして、カッコよくした。
あぁ、最高だ。
そして何が最高かって。
こいつは……
動く!!
「う、うう、う、う、動いた!?」
ロボットが前進する。
ガション、ガションという効果音が欲しいところだけど、元は木なのでドスンドスンという音だ。
浮遊石を使わなきゃ、こんな重い物を動かすのは難しい。
「うわぁー、カッケェ!」
ランドファスはすっかりロボットの虜のようだ。
だったら、俺のロボットに踏みつぶされるのは本望だろう。
「やっつけろ!」
「「え」」
二人目掛けて、ドスンドスンドスンとロボットが駆けだす。
実を言うとこれ、ロボットの構造を高速で錬金しなおして動かしているだけ。
頭の中で動いているイメージをすることで、常にそうなるよう形を錬金し続けているんだ。
だから……もの凄く魔力の消耗が激しい!!!
そして、直進しかできない!!!!
慌てて左右に逃げた二人の間を通過し、奴らの後ろにあったボロボロの馬車の前で停止。
空手チョップで馬車のポールを破壊すると、馬が俺を見て頭を下げた……気がした。そして逃走。
御者も同じく逃走。それを確認してから後退。そして全力タックル。
護衛なのか、騎士っぽいのが二人いたけど、そっちも既に逃げている。馬が驚いちゃったからね。
魔力でコーティングされた俺のロボットは、同じ木製ならこちらの方が強い。
遥か彼方に吹っ飛んだ奴らの馬車。
うん。あの方角は山だな。大丈夫。誰にも迷惑かけないはずだ。
たぶん。
「うあああぁぁぁぁぁ。なけなしの金で用意した馬車があぁぁぁ」
そういえば、二年前にゼナスへ来た時、うちから馬車を奪っていったらしいけど。あれはどうしたんだ?
もしかして売ったんだろうか。
ロボットを頑張って回れ右させ、オズワルズに向かって突進。
「悪党退治だ。行け、ロボット・ゴーレム!」
「ぎゃあああぁぁぁぁぁぁ」
ドスンドスンとオズワルズを追いかける。
真っ直ぐ逃げてくれるから、真っ直ぐ追いかけられるぞ。
ようやく右に向きを変え、ランドファスの方へ向かって走り出した。
ゴーレムを止め、ゆっくり体の向きを変える。
そして逃げるオズワルズを再び追いかけた。その先にランドファスもいる。
「ふふ、ふははは。あぁーっはっはっはっは。そうれそうれそうれぇ。逃げろ逃げろ」
「ひぎいいぃぃぃぃっ」
「パ、パパ!? こっち来ないでよ。うわあぁぁぁぁ」
「ぎゃははははははははははは」
楽しいなぁ。楽しいなぁ。
やっぱロボットは最高だぜ!
やがて二人が蛇行しながら逃げ始めたので追うのをやめ、四人のところへと戻った。
「あぁ、疲れた。魔力も限界だ」
「ディルムット様、素晴らしい動きでした!」
「いやぁ、これが『自動』で動くようになれば、いろんな意味で大儲けするんですけどねぇ」
「兵器利用は無理だよ。錬金魔法が使える人じゃないと、できないことだし。あと今のでほとんど魔力使い切ったからね」
最高にカッコいいけど、最高に燃費は悪い。
「あぁー、ディルムット坊ちゃん……馬車、元に戻してくださいませんか?」
セダストンが苦笑いを浮かべ、そう言った。
「……わかった。ごめん」
残った魔力を絞り出し、なんとか馬車を元通りにした。
「坊ちゃま。角が残ったままですよ」
元通りじゃなかった。
でも、もう、無理……。




