第二十六話 禁忌兵器の影
帝国軍の進軍を告げる急報は、黎明国全土に緊張を走らせた。
王都の会議室には、蓮を中心に主要メンバーが集められていた。
「帝国軍の兵力は約五万。南方の国境を越えて、こちらに迫っています」
報告を終えたのは斥候部隊の隊長だ。顔は疲労で青ざめている。
「五万……大軍だな」
カイエンが腕を組んで唸る。
「けれど、ただの兵力差だけじゃない」
ミストが資料を広げ、淡々と告げた。
「偵察の結果、帝国軍の中には“未知の魔導兵器”が確認されたの。通常のゴーレムや魔導機械とは明らかに違う、異質な存在よ」
「禁忌兵器か……」
蓮は静かに目を細めた。
◆ ◆ ◆
帝国軍の野営地。
巨大な黒鉄の檻のような施設の中で、不気味な鼓動が響いていた。
「……まだ制御は不安定ですが、出撃は可能です」
研究員の一人が報告する。
「ふむ、構わぬ」
帝国宰相シェルドンが冷ややかに笑う。
「これはただの兵器ではない。“神代の残骸”を再現したものだ。我らの手で完全に操れるようになれば、異世界の勇者ごとき容易に屠れる」
檻の奥には、異形の兵が眠っていた。
人の姿に似てはいるが、身体は黒い結晶に覆われ、眼窩には赤い光が灯る。
「名付けて……“虚骸兵〈ネクロイド〉”。魂なき兵士にして、神の否定を具現化した存在だ」
シェルドンの言葉に将軍たちは息を呑む。
◆ ◆ ◆
一方、黎明国の王都。
蓮は無限アイテムボックスを開き、戦備を整えていた。
「……これを使うときが来たか」
取り出したのは、かつて星詠の神殿で手に入れた“星命共鳴装置〈アカシック・リゾナンス〉”。
本来は因果の揺らぎを観測するためのものだが、応用すれば敵の魔導構造を解析することができる。
「ミスト、こいつを連携できるか?」
「可能よ。私の解析機構と組み合わせれば、帝国の兵器がどんな原理で動いているか割り出せるはず」
リーナが剣を握りしめる。
「未知の兵器……厄介そうだけど、これまでだって乗り越えてきた。今さら恐れることはないよ」
ネフェリスは両手を広げ、仲間に微笑む。
「そうそう! 私たちには音楽もあるんだから! 戦場を明るく照らしてやるよ!」
ノアが少し苦笑しつつも頷く。
「彼女の歌は確かに士気を高める。……僕も支援を怠らないさ」
仲間たちの決意を見て、蓮は力強く言った。
「よし。帝国が何を出してきても、俺たちは止める。この国を守るために」
◆ ◆ ◆
数日後――南方国境。
ついに帝国軍の大軍勢と黎明国軍が対峙した。
敵陣の奥で、黒い結晶に覆われた巨兵が姿を現す。
地響きと共に歩み出たその姿に、兵たちは戦慄した。
「あれが……禁忌兵器……!」
「人の形をしてるけど……まるで死者の軍勢だ……」
蓮は冷静に観察する。
「……虚骸兵。魂を持たない存在か。まるで“虚神”の残滓だな」
ミストがアカシック・リゾナンスを起動させ、解析を始めた。
「これは……因果そのものを切り離して動く存在……! 通常の魔法も武器も、ほとんど通用しないわ」
「だが、弱点は必ずある」
蓮が剣を構える。
「みんな、気を引き締めろ! これが帝国の切り札だ!」
虚骸兵が咆哮を上げ、戦場が揺れた。
黎明国と帝国の新たな戦いが、今、幕を開けようとしていた。




