第二十七話 虚骸兵との激突
南方国境に広がる荒野を震わせるように、帝国軍の大軍勢が進軍してきた。
その最前線に立つのは、漆黒の結晶に覆われた異形の兵――虚骸兵〈ネクロイド〉。
人型に似てはいるが、その体はひび割れた黒水晶のようで、眼窩には赤い光が宿る。
兵士たちはその異様な姿に息を呑み、足を竦ませていた。
「……来たな」
蓮は剣を構え、虚骸兵を鋭く見据える。
◆ ◆ ◆
帝国軍本陣では、宰相シェルドンが高台から戦場を見下ろしていた。
「さあ、“異世界の勇者”とやらの力……見せてもらおうではないか」
虚骸兵は五体。
いずれも人の数倍の大きさを誇り、結晶の身体からは低い唸り声のような振動音が響いていた。
「彼らは魂なき兵……だがその分、恐怖も痛みも知らぬ。破壊あるのみ」
シェルドンは冷笑を浮かべる。
◆ ◆ ◆
黎明国軍の陣地では、ミストが解析を続けていた。
「やはり通常の攻撃はほとんど通じない。奴らは因果の外で動いている。攻撃を受けても“記録”が書き換えられ、無効化されてしまうの」
「じゃあどうすりゃいいんだよ!」
カイエンが苛立ち混じりに叫ぶ。
「方法はある」
蓮が落ち着いた声で答えた。
「星詠の神殿で手に入れたアカシック・リゾナンスを使う。奴らの“因果の結び目”を見つければ、そこが弱点になるはずだ」
リーナが剣を掲げる。
「つまり、弱点を突くしかないってことね。分かりやすいじゃない!」
ネフェリスがにっこり笑い、竪琴を抱える。
「じゃあ私の歌で士気を高めてあげる。負けない気持ちが、力になるから!」
ノアも頷き、魔導陣を展開した。
「僕が防御を担当する。虚骸兵の一撃は強力だ。仲間が倒れないように支えるよ」
◆ ◆ ◆
そして――戦端が開かれた。
虚骸兵の一体が腕を振り下ろすと、黒い結晶の波が荒野を薙ぎ払った。
地面は裂け、兵士たちが悲鳴を上げる。
「防御陣、展開!」
ノアが声を張り上げ、半透明の結界を広げた。
しかし結界は容易く砕け、衝撃波が襲いかかる。
「ぐっ……! だが、まだ保てる!」
蓮はその隙に前へと駆け出した。
「ミスト、弱点は見えたか!」
「まだ……でも、確かに一瞬、因果が揺らいだ! 左胸の辺りよ!」
「了解!」
蓮は無限アイテムボックスから神銀製の槍を取り出し、虚骸兵の胸へ突き立てた。
だが――槍は砕け散る。
「……効かないだと!」
虚骸兵は反撃とばかりに蓮を叩き潰そうと拳を振り下ろす。
リーナが飛び込んで剣で受け止めたが、その衝撃に膝をついた。
「うっ……重すぎる!」
カイエンが後方から雷撃を放つ。
「なら、こっちで焼き尽くす!」
雷撃が直撃し、虚骸兵の結晶が一瞬ひび割れる。
しかしすぐに元通りに修復されてしまった。
「再生まで備えてやがるのかよ!」
カイエンが歯ぎしりする。
◆ ◆ ◆
その時――ネフェリスの歌声が戦場に響き渡った。
澄んだ旋律は兵士たちの恐怖を払拭し、仲間たちの力を引き出す。
「これは……力が漲る……!」
リーナが息を整え、再び剣を構えた。
蓮は剣に光を纏わせる。
「みんな、奴らを囲んで弱点を一斉に叩く! 絶対に突破口はある!」
「おうよ!」
「任せて!」
仲間たちの声が重なり、黎明国軍は虚骸兵へ総攻撃を開始した。
剣と魔法、歌と解析――全てを重ねて放たれる一撃。
その刹那、虚骸兵の胸の赤い光が揺らいだ。
「今だ――!」
蓮の剣が閃き、光の奔流となって虚骸兵の核心を貫いた。
轟音と共に、結晶の巨体が崩れ落ちる。
黒い霧となって消えゆく虚骸兵。
「やった……!」
兵士たちが歓声を上げる。
だが、残りはまだ四体。
そして、その背後には帝国軍本隊が控えている。
戦いは、始まったばかりだった――。




