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神様に元の世界に帰りたいと願ったら身体を要求された  作者: 仲津山遙
第1章 幼少期編

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012話 回復魔法はラブソングの調べ[後半]

 冒険者ギルドで1時間くらいかけて二十人も治療すると、お腹が減って来たので昼食にする事にした。モフモフ率は半分くらいだったけど、皆が笑顔になったので気分は上々(じょうじょう)だ。それから初めて知ったが、こちらの風習では昼に食事は滅多(めった)にしないそうで、食生活が貧しすぎて俺は内心で食事事情を改善したいと心に(ちか)った。

 持参した食事を食べたいとギルド長に言うと、4階にある職員が食事や休憩をする場所に案内された。グリとグラが戻って来て、父に乾いたマントを返してくれた。窓際のテーブルに5人で座る。

 俺は収納から今朝にマレ婆から持たされたバスケットを2個出すと、中身を確かめる。今回はワインがないが、豚肉(ぶたにく)のような肉を塩だけで焼いた大きな肉の塊があり、前と同じスープ缶が2個あって、別に玉葱(たまねぎ)のような野菜をスライスした物を塩漬けした(びん)も入っていた。パンの個数が増えていたので、5人くらいで丁度良さそうなので安堵する。


「ギルドの皆も食べる? 量は問題ないけど、食器が足りない」


 そう言うとグラが急いでどこかに飛んでいき、食器を3人分用意して戻って来た。ご相伴(しょうばん)に預かる気があり過ぎて、父と一緒に笑った。

 俺はパンを魔法で蒸してふっくらとさせると、父に渡してナイフで横に半分に切ってもらう。切ってもらったパンの断面を火魔法で炙って()()を付けた。そして塩漬けの玉葱のような野菜をパンの下側に乗せてもらう。先ほど熊獣人の男に貰った樽を出して、その上に少し蜂蜜を垂らした。

 パンの下準備が終わると、肉を魔法で宙に浮かせて魔法の調味料を全体に(まぶ)した。更に蜂蜜を肉に()りたくると、内側に反射するように結界で肉を覆って火魔法で炙った。そこまでするとパンの香ばしい匂いと、肉が焼ける良い匂いで室内が満たされ、他の職員にも注目された。

 ナイフで肉を切ってパンに乗せ、パンの上側で(はさ)んだら肉サンドイッチの完成だ。俺はスープ缶2個に魔法の調味料を入れて、魔法で加熱しながらお玉でかき混ぜた後にお椀に盛った。


「このパンは、こうやって手に持って食べると良いよ」


 俺はお手本とばかりに肉サンドイッチにかじりついた。蜂蜜と塩が良い塩梅(あんばい)で、魔法の調味料が味に深みを与えて旨い。ギルド長は1口目を食べると、口に手を当てて驚いた。


「美味しい!」


 グリとグラは一心不乱(いっしんふらん)に食べつくし、息もぴったりと声を合わせた。


「「兄貴、番になって下さい!」」

「俺、妻が居るから無理」


 世界樹の枝が弾け飛んだ時と同じ表情を二人共にする。双子なのでそっくりだ。

 父も「美味しい」とパク付いてくれていたので良かった。落ち着いたら食材探しとか行きたい。特に胡椒とか胡椒とか……。


「加入試験で魔法を使ったと聞きましたし、治療であれだけ魔法を使った後に、料理にも魔法を使っていましたけど、【魔素症(まそしょう)】は平気なのですか?」

「魔素症って何?」


 俺が食事の後片付けをし終わると、ギルド長に心配される。魔素症が何か分からなかったが、上とか後ろを探すが、四神が誰も居ないので聞けない。錬金窯の件で忙しくなったのだろうか?


「魔法を使い続けると獣化したり魔物化したり、最悪として肉体が崩壊(ほうかい)してしまう病気です」

「何それ怖い」

「伝説の高位聖水と言う薬があれば回復できますが、ソータさんは使ってないですよね?」

「その薬の存在も知らなかった。何か初期症状とかあるの?」

「多いのは疲れから始まって頭痛とか吐き気ですかね」

「疲れてもいないし、食べた後も吐き気はないし、どこも痛くも(かゆ)くもない」


 まあ後で四神の誰かに聞いてみようと思っていたら、受付のお姉さんが誰かを案内しつつ、こちらに向かって来た。


貴方(あなた)がソータ殿でしょうか?」


 父の方を向いて、受付のお姉さんと一緒に来た男が声をかける。その男は騎士のような鎧を着た牛獣人の男で、黒毛和牛(くろげわぎゅう)のような耳と尻尾を持っていて、黒眼の細目が特徴的だ。

 父は訝しげな視線を牛獣人の男にする。もしかして知り合いなのか? 俺は小声で父に確かめた。


「もしかして知り合い?」

「前に話した友人だ」

「ああ、怪我の治療を譲った人か。認識阻害が効いているのでホリゾンと認識できていないみたい。今、この人だけ解除対象にするね」

「なるほど。よろしく頼みます」

「ノープログレム」


 俺は牛獣人の男を指さして父のマントの刺繍に触れると、英語で解除対象の言葉を口にした。解除対象の言葉は、ここでは話されていない英語にしている。

 牛獣人の男は父を認識すると、驚いたように父に詰め寄った。


「ホリゾンじゃないか! 心配していたんだぞ」

「ソータ殿のお(かげ)で、この通り怪我を治してもらって元気になりました」

「それでは隣の方がソータ殿か」

「その通りです」

「失礼しました。私はマギウスジェム領の騎士をしておりますミーティスと申します。こちらのホリゾンとは貴族院時代の同期で親友です。今日伺ったのは、領主である伯爵よりソータ殿をお呼びするようにと(めい)を受けた次第です」


 牛獣人の男ミーティスは(かかと)(そろ)えて俺に向き直り、気をつけの姿勢をして伯爵からの招集(しょうしゅう)願いを伝えた。伯爵って母が言っていた魔石伯だよね? 偉い人だから実質上の命令な気がする。何か気が乗らない俺は隣の父を見るが、父も突然の事で驚いていた。


「ソータさん、伯爵は犬獣人でモフモフですよ。あと伯爵の騎士団は獣人が多いのでモフモフ率が高いのです」


 ギルド長が近寄って来て耳打(みみう)ちをしてくれた。そうじゃん! クリスの父親なんだから絶対にモフモフじゃないか! 俺は俄然(がぜん)と会いたくなって、椅子から立ち上がって宣言した。


「行きます。行かせてください! とその前にホリゾン、この人の鎧を脱がせて」


 俺は父にお願いするが、事情が分からずとも父はミーティスを(なだ)めて鎧を脱がしてくれた。俺が座っていた椅子を示してミーティスを座らせる。頬が少し赤かったのもあり(ひたい)に手を当てると、やはり熱いので熱がありそうだ。


「怪我をしていたのは、どこだ?」

「確か下腹だったはずです」


 父が答えてくれたので断って鎧下(よろいした)(めく)った。問題の下腹は右側に傷跡(きずあと)があって、その周辺が盛り上がって()れていた。


「これ傷だけ回復魔法で治療して塞いだけど、汚いままに塞いだから中で()んでいるね。痛いでしょ?」


 俺が優しく傷跡の盛り上がりに触ると、ミーティスは顔を顰めた。膿んでいるのが腹膜の外側なので(さいわ)いだった。俺が針と奇麗な布を要求すると、グラが急いで取りに行って戻って来てくれた。


「これから針を刺してお腹の表面の膿を出すね。その後に浄化魔法と回復魔法で完治させる」

「浄化の報酬など払えません!」

「ホリゾンの親友からお金は取れないし、そもそも俺は神殿の人間じゃないからお金を貰えないから安心して」


 俺は針を浄化魔法で消毒して、ミーティスの盛り上がった傷跡に何ヵ所か刺した。傷跡の周りを指で圧迫(あっぱく)して膿を出しきって布で(ぬぐ)った。傷跡の盛り上がりがなくなったので、浄化で念のために全身を消毒してから、回復魔法で針穴を塞いで周囲の炎症(えんしょう)も回復させる。


「これで完治した」


 ミーティスは傷跡に触って痛くないのを確認すると感謝を述べた。


「ありがとうございます! これ程の腕ならば我が軍も心強い限りです」


 ミーティスはホリゾンと一緒に魔物と戦っていた時に2人して怪我をし、ホリゾンに怪我の治療を譲られた後の状況を説明してくれた。神殿から派遣されて来たのは待祭(じさい)助祭(じょさい)で浄化魔法を使えないそうだ。やはり浄化を受けられないままに回復魔法で傷を塞がれたらしく、その後は先ほどのように熱が出て傷跡の痛みで前線を離れて伝令係に回されたそうだ。

 今、魔石伯の領都防衛隊は負傷者で(あふ)れているらしく、まもなく機能不全に(おちい)る可能性が高いようだ。そこで冒険者ギルドで浄化魔法と回復魔法が使える人物の(うわさ)を聞きつけた魔石伯の指示で、俺を連れて行きたいという事だった。噂のスピードが速いと思ったら、冒険者ギルドで回復した二十人の中に領都防衛隊に参加していた人が居たようだ。


 俺と父はミーティスと共に冒険者ギルドを後にした。地面から浮いている馬の居ない馬車もどきに乗って領都防衛隊の本拠地まで移動する。父から聞いて、この車は【レビタス車】と言うのが判明する。

 道中に俺が父の母の親戚だとミーティスに打ち明けると、父の身内認定されたようで仲間内の気軽な雰囲気になった。それで父には認識阻害の魔法がかかっていて、魔石伯に素性(すじょう)を内緒にするようにとミーティスに言ったら(こころよ)了承(りょうしょう)してくれた。ミーティスは父から逃げている経緯は知らされていたようで、この際だから求婚して玉砕(ぎょくさい)してしまえと揶揄(からか)われていたのは面白かった。


 レビタス車に2時間くらい乗って着いたのは、領都から北東に位置する樹海の手前だった。樹海は昔から魔物が多く手付かずと言う事だが、半年くらい前から領都方面に向かう魔物が増えたようだ。その魔物を討伐するために領都防衛隊は天幕を張って、結構本格的な防衛本拠地を築いていた。

 俺と父は一番豪華な天幕(てんまく)へミーティスに案内される。中には3人居たが、魔石伯はすぐに分かった。頭全体が小麦色ベースのゴールデンレトリバーなので、クリスの父親にしか見えない。魔石伯の丸い黒眼が俺達を見た瞬間、フサフサした尻尾が大きく揺れたので歓迎されているのも分かった。


「ミーティスよ、ご苦労だった。よく来てくれた! ソータ」

「ソータ殿はこちらです」

「それは失礼した」


 ホリゾンを見て魔石伯は俺と勘違いする。婆から借りていた服を父に返して着てもらっているが、俺が今着ている古着よりも質が良くマントも羽織(はお)っているので、ホリゾンの方が目上に見えるのだろう。父が訂正すると魔石伯は頭を()きながら謝ってくれた。椅子に案内されて俺は座り、父は俺の後ろに立った。魔石伯は対面に座って、ミーティス含めて部下3人は魔石伯の後ろに立って姿勢を正した。


「部隊の惨状(さんじょう)はミーティスから聞いていると思うが、治療はして頂けるのか?」

「そのために来たんだけど」

「それはありがたい! しかし治療に対して報酬をどのようにすれば良いのか困っていた所だ」

「モフモフで」

「モフモフとは?」


 俺の足りな過ぎる言葉を、父が代わって説明してくれた。


「そんなもので良いのか?」

「モフモフは心の癒やしだし」

「変わっておるの……。では報酬の先渡しに私をモフモフするが良い」


 魔石伯は俺に近づいてきて抱え上げると、俺が座っていた椅子に腰かけた。俺は魔石伯の膝の上に腰かける格好(かっこう)だ。


「「伯爵!」」

「このような行為で治療して頂けるのだ。安い物だろう?」


 ミーティス除く部下2人が声を荒げた。魔石伯は意に介さず、部下を制止するように手の平を向けた。部下にしてみれば、平民に見える俺が伯爵位を持つ人に気軽に触れて良い訳がないよね。渋々(しぶしぶ)と平静を取り戻したが、部下の2人もモフモフなので触りたいが雰囲気的に無理だろうと諦めた。俺は魔石伯の頭と尻尾のモフモフを堪能する。魔石伯は俺の匂いを嗅ぎだした。


「私の第2夫人の座が空いているのだが……ん? これは息子の匂いではないか?」

「気のせいだよ。それに俺は既婚者だ」


 クリスをモフモフしたのを忘れていた。さっきの熊獣人もそうだけど、犬獣人も匂いに敏感(びんかん)だな。


「それと、とてつもなく危険な匂いがする!」


 俺を降ろすと魔石伯は離れて行った。やっぱり白虎は臭いのか……。


 俺と父は魔石伯の元を後にすると、ミーティスに案内されて一番大きな天幕に案内された。この天幕には五十人くらいの重傷者が詰め込まれていて、それ以外は入りきらなくて個別のテントで寝ているらしい。もうこれだけ数が増えると面倒になって来たので、浄化してから回復魔法をかけて回った。回復魔法でも部位欠損(けっそん)は治らないので3人は完治が出来なかったのが残念だった。それでも出血が止まって切断部位に皮膚(ひふ)が形成されたので、痛みがなくなり感謝はされた。ほとんどが獣人でモフモフ率が高かったのもあり、俺的には来て良かったと思えた。

 最後に「ソータ殿にも、どうにもならないと思いますが…」とミーティスに断られてから案内されたのが、待祭と助祭等の神殿関係者が居る天幕だった。中には神官服を着た人が十二人居て、十人を二人が甲斐甲斐(かいがい)しく看病(かんびょう)していた。寝ている十人を見ると激しい頭痛に見舞われているようで、これが魔素症だと説明された。

 そこで玄武が姿を現す。何故か仕事をやり切った清々(すがすが)しい表情をしていた。


『ソータ。錬金窯がようやく完成したので、落ち着いたらダンジョンに行って取って来てくれ』

『やっぱり錬金窯を作ってくれていたんだ。ありがとう』

『過去最高傑作になった! 作成に半年もかかったからな!』

『半年って……こっちの時間を止めて作ってくれていたの?』

『ああ。あれだけ良い仕事ができたので大満足だ』

『お疲れ様。後でありがたく取って来るよ』

『そうしてくれ。所でそこに寝ている者共は魔素症だな』

『これ薬じゃないと治らないんでしょ?』

『ソータの神聖魔法なら治ると思うが』

『えっ? どういう状態かも分からないからイメージ出来ないんだけど。そう言えば、俺は魔素症にならないのだろうか?』


 玄武によると、俺は高みに至った者なので魔素症にはならないそうだ。高みに至ると肉体が魔素に代わるので、魔素症の原因になっている(けが)れた魔素の影響を受けにくいという事だ。元々高みに至る者は創造神から穢れた魔素の浄化の役割を頼まれる事があるので、高みに至ると自動的に穢れの浄化能力が獲得できるようだ。

 俺は魔素症で苦しんでいる十人を視界に(とら)えて、穢れを無くす浄化魔法をかけてみた。天から光が()り注ぐイメージで魔法が発動し、頭痛から解放されたのか寝ていた十人は起き上がった。


「今、猊下(げいか)にしか使えない魔法の光が見えたような?」


 俺は神殿関係者と関わり合いたくなかったので、声もかけずに天幕を出た。

次回の話は翌日の19時になります。

蒼汰君VS神殿の開幕です。 前半


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