013話 ポーションは薬品ではなく健康飲料です[前半]
領都防衛隊の本拠地から帰る前に、玄武が結界モニュメント調査用に魔物を狩りたいとの事だったので、父と父の親友ミーティスに護衛してもらって樹海に入った。玄武に身体を貸すと亀の甲羅のような模様がある黒く丸い盾を出して、向かって来た魔物に押し付ける。
バシャ! ジャバッ! コツン……
玄武が魔物に盾を振り当てると魔物が溶けるように液状化して、魔石だけ落として消えていく光景を目の当たりにした。父とミーティスは大きく口を開けて唖然としていた。俺も玄武の戦闘の仕方を聞いていなかったので驚いた。
そう言えば俺が高みに至った時の自己紹介で、今の盾を出して『盾役と回復は任せてくれ』みたいな事を言っていた気がするけれど、殲滅力が強すぎじゃないかと玄武を問い詰めたら、玄武の盾は単体では最強クラスだが、複数に囲まれると力を発揮できないようだ。確かに盾を敵に当てないとならないので、使い勝手は悪いのかも知れない。ちなみに液状化は攻撃力が弱い玄武を案じて、創造神が与えた権能なので魔法で再現は不可能らしい。俺にも何かチート権能をくれても良いのじゃないでしょうか? 創造神……
白虎がミーティスの事を『剣の動きに覇気がない』と、騎士に向いていないのではないかと言っていたのは気になった。父の事は「是非、手合わせしてみたい」と言っていたけど、戦わせるつもりはないからと釘を刺したら尻尾が下がっていた。
魔物は十分な数が狩れたので、玄武に身体を返してもらった。
領都カストルムにレビタス車で帰って来ると、城塞に連れて行かれた。初日以来、久しぶりに正門から入ったけれど領主城とは別の建物に初めて入った。ミーティスによると領軍団本部で治療して欲しいようだ。領都防衛隊の本拠地と合わせて七十名超えて治療したが、これ医療崩壊しているんじゃないかと心の中で突っ込みつつ冒険者ギルドに戻ってきたら、今度は他のギルドを周回させられる羽目になった。
ミーティスと別れると、冒険者ギルド長に引率されて父と5つのギルドを回って、追加で百名近く治療する。一番に気になった名前の魔法者ギルドだけど、「魔法が使えるんだから回復魔法は出来るでしょ!」と愚痴ったら、光属性が使えないと回復魔法を使えないと思っていたらしい。俺も最初はそう思っていたから人の事は強く言えないけれどね。ついでに水属性が回復魔法に一番効率が良い事も伝えながら、魔法者ギルド内で闇属性の回復魔法を実演したら、天地が引っ繰り返るような騒ぎになった。冒険者ギルド長に乞われて冒険者ギルドでも実演する事になってしまった。
行って良かったと思ったのは最後の航宙者ギルドで、冒険者ギルドくらいのモフモフ率だった。物流が一部滞っていたので、これで再開できると喜ばれたのも良かった。
俺はギルド名が6つ刻印されたギルドカードを、航宙者ギルドで受け取ると収納に入れた。結局の所、6つのギルドに加入して、初日から2ランクアップして貰ってギルドランクが全てのギルドでDになった。これは貴族が初めてギルドに加入する時と同じランクらしく、平民ではありえない快挙らしい。モフモフを追求するとギルドランクが上がるんだよと父に言ったら笑われた。真理だよね?
冒険者ギルド内で闇属性の回復魔法を実演してから冒険者ギルド長と別れて、父と随分と遅い夕飯を外で食べた。それから父の宿泊している貧民街の安宿前で明日は午後に冒険者ギルド前でと約束して父と別れると、崖の上の結界モニュメント前で玄武に身体を貸す。先ほど倒した魔物の魔石を収納から取り出して結界モニュメントを操作していると、原因が分かったのか玄武はスッキリした顔で言った。
『魔物が想定よりも強くなっていた。結界の設定を引き上げるので、これで魔物は領都に入って来られなくなるんだが、世界樹の設定も変えないとならない』
『何で世界樹が関係あるの?』
『前にソータがやらかしていた船で世界樹の若木がダウンした件があっただろ? このまま単純に結界の設定を引き上げると、あれと同じことが星レベルで起こってしまう』
『うへぇ! 結構ややこしいんだね。神殿に行くのは敷居が高いから、もう少し医療崩壊の解消を手助けしてからかな。父や母が死なれても困るし』
城塞に戻ったら婆に「遅いお帰りですね」と、嫌味と心配を混ぜたような口調で迎えられた。バスケットを返して、明日は午後に出かける事を伝えた。分身と記憶同期したらクリスの兄のスマラグドゥス…、名前が長いので皆からスマラと呼ばれている男の子と一緒に、分身が歩いているのが判明。クリスはまだなのに歩くの早くないかな? まあ婆もスマラの使用人も楽しそうだから良いか。
ルキウス状態で寝て朝に起きたら、婆にさっそくお強請りする。
「婆、お薬下さい」
「まあ、どこか悪いのですか!?」
「お薬で試したい事があるだけ。身体はどこも悪くないよ」
「お薬で悪戯はいけませんよ」
婆は笑いながら窘めつつも、ポーションを1本用意してくれたが、かなり高価なのでと釘を刺された。1本で平民の月収の8分の1くらいらしい。滅茶苦茶に高いぞ! ポーションを収納にしまい、使い勝手を聞いてみると、飲まなくても良くて身体にかけるスタイルのようだ。かけてしばらくすると人体に吸収される感じで、水浸しにもならない不思議な液体らしい。
普通は飲まないが不味いらしく、飲んでもすぐに吸収されるので腹に貯まらないと試した人から聞いた事があるそうだ。試したのは俺の祖父のようで、婆を笑わせるためにパフォーマンスで飲んでみせたそうだ。お茶目なお爺ちゃんである。
離乳食を食べ終わると、今日の母は伯爵夫人と領政の事務作業で1日城に籠るらしいのを聞き、婆は食べ終わった食器を持って部屋を出て行った。蒼汰に変身してから分身ルキウスをベビーベッドに出して、部屋のソファーの前の机に先ほど貰ったポーションを収納から出すと、四神が現れた。ポーションの瓶の蓋を開けて1滴を指に取ると、俺は舐めてみる。白虎が慌てて止めようとするが、すでに味わった後だ。
『ソータよ、そんな不味い物を舐めるでない』
『確かに不味いけどハーブっぽい味だね。でも青い汁よりは苦みが薄いかな』
『そんなに不味い飲み物があるのか?』
『あれは不味いのが身体に良いって商品だから。飲みたいなら今度、似たようなの作ろうか?』
『『『『遠慮する!』』』』
四神全員にそんな不味い飲み物が売れる訳がないと、散々に地球と言うか日本の食文化を否定された。料理が発展してない元異世界人達からも批判される青い汁って……。でも年間4桁億円近く売れていたよね?
『このポーションって簡単に作れるのかな?』
『難しくはないな』
『そんなに難しくなかったはずよ』
玄武と青龍は作った事があるようだ。俺はアカシック・レコードで素材入手が簡単かつ、最も作成が楽で効果の高いポーションの作り方を検索してみる。素材は薬草をすり潰して布でこして、最後に魔力で練るのが調薬士でないと難しいらしい。
『調薬士って何?』
『神殿で調薬に向いている属性を持つ人材を教育して、勝手に任命している職業じゃなかったかしら。確か国が認めている職業じゃないのよ』
『それなのに薬販売を独占しているのか神殿……』
地球の先進国なら独禁法違反になるな神殿。神聖魔法と回復魔法の独占もあるので、病院と薬局を両方独占とか、人の生存権を盾に金儲けしているとしか思えない組織だ。
『これは美味しいポーションを作るしかないね』
『『『『美味しいポーション?』』』』
『俺が居た世界では、普段に飲む飲み物で健康になりましょうみたいな商品が、薬品とは別に販売されていたんだ。健康飲料って言っていたんだけど、ポーションを美味しくして飲み物として販売したら、薬品を売ったら駄目な法律に引っかからないよね』
『アイデアとしては良いと思うけど、その不味いポーションが本当に美味しくなるのかしら?』
『さっき言っていたポーションより不味い青い汁だけど、美味しくなる方法があったりする』
『僕、美味しいポーション飲みたい!』
取りあえず実験台は朱雀で決まったので、ポーションの蓋を閉めて収納にしまう。
『そう言えば神殿に真似されても困るから特許とかないのかな』
『普通は神殿に頼むんだけど、神聖魔法に契約魔法ってのがあるよ。破ると神罰になるやつ』
『う~ん、神殿狡い……』
『ソータが自分で申請して、承認もすれば良いと思うけど』
『何それ。もっと狡いじゃん』
俺はアカシック・レコードで契約魔法を調べた。紙に内容を書いて、神に申請して承認されたら有効になるのね。俺、神になったつもりないんだけど、まあ出来れば良いか。
俺は父と待ち合わせをしている冒険者ギルド前に出かけた。すぐに父に見つけられて近寄って来た。
「ソータ殿、昨日はドタバタで忘れていましたが、パーティ申請をしたいのですが」
「どうやるの?」
「ギルドカードを出して下さい」
俺は収納からギルドカードを出すと、父は首元の紐を手繰り寄せてギルドカードを出した。
「パーティを組むと言いながら、お互いのカードをぶつけます」
「「パーティを組む」」
二人のギルドカードが重なり合うと、カードの宝石から画面が表示された。パーティ情報に父の名前が載ったので成功だろう。
「パーティよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしく」
父が拳を出して来たので、自分の拳をぶつけてから腕を組んだ。ギルドカードを収納にしまって、それから少し雑談すると、金額を言ってお互いのギルドカードをぶつけると決済が出来るのを聞いたので、ギルド口座に入金していないのを思い出したのと、昨日の魔石も売りたいのもあり、冒険者ギルドの中に入った。
「そうだ。昨日の魔物の魔石はもう要らないので、換金したいんだけど」
「換金と購入ならば、こちらですね」
ロビーの奥に行くと素材売買の受付があって、今日は空いているのですぐに売買可能だそうだ。昨日の受付のお姉さんと窓口が違うので、ここは頭が薄くなった中年男が対応してくれるようだ。
「魔石を買い取って欲しいんだけど」
「ギルドカードを出せ」
「はいよ」
俺が収納からギルドカードを出して売買窓口の男に見せると、仏頂面がニヤリと笑い出した。
「昨日ギルドを騒がせたソータか。こんなガキだと思わなかったぞ」
「これでも四十なんだけど」
「嘘だろおい」
売買窓口の男はギルドカードを2回指で叩くと年齢を確認したようだ。個人情報保護法はないのかな……。ちなみにカード本人の許可がないと、カード内の情報は他人には見られないらしい。しかしギルド職員は無条件で見られるそうだ。父がこのやり取りに笑いながら教えてくれた。
「マジだ! 俺より年上じゃねぇか!」
「で、魔石は買い取ってくれるの?」
「ああ、悪い悪い。ここに出しな」
カンッ、コンッ、ジャララララララララララ……
俺は大きな魔石十個を残して昨日取った全部を、売買窓口の男の目の前のカウンターに収納から出した。異世界お約束の買い取りカウンターを埋め尽くすシーンの再現に俺は満足する。売買窓口の男は目と口を大きく開けて固まってしまった。後ろで父は腹をかかえて笑っている。
『玄武、大きいの十個を残して全部出したんだけど、何個あるか分かる?』
『五十三個のはずだ』
『昨日は凄く楽しそうだったけど、やっぱり数えてたんだね』
『久しぶりに身体を動かしたからな。それは前の食事の礼だが足りるか?』
『十分なので、また何か作ったらごちそうするよ』
『それは楽しみだ』
「五十三個あるみたい。査定に時間かかる?」
「……お時間を下さい」
売買窓口の男は預かり票に預かった事を記入すると、ギルドカードと一緒に渡してくれた。
俺と父は受付カウンターの方へ向かうと、丁度、手すきになった昨日の受付のお姉さんに笑顔で呼び止められた。
「ソータ様、ホリゾン様。冒険者ギルドへ、ようこそ。昨日はありがとうございました。ご用件を伺います」
「ここに大きな机があって椅子がある所と、多少大きな音を立てても大丈夫で、換気もされている部屋が借りられないかな? 今日だけで良いんだけど」
「2階に大会議室と1階に調理場がございます。賃料は大銀貨6枚になりますが、ご利用なさいますか?」
「借ります。あとギルド口座に入金したいんだけど、ここで出来る?」
「お受けできますので、ギルドカードと入金する貨幣をお出し下さい」
「はい。これでよろしく」
俺はギルドカードと、婆から貰った小遣いの残りを収納から出して渡した。お姉さんは貨幣を素早く数えると、入金票に記入して俺に見せる。
「こちらの金額でお間違いなければサインをして頂きます」
大体あってそうなので俺はサインすると「しばらくおかけになってお待ち下さい」と言って、受付のお姉さんは奥に引っ込んで行った。俺と父は椅子に座って待つ事にする。
「魔石は3人で分配だけど良いよね」
「えっ?」
「さっき買い取りした奴は、ホリゾンとミーティスに護衛して貰ったから」
「私とミーティスは殆ど付いて行っただけですが……」
「後ろを守って貰えたのは貢献として大きいよ。あの盾は単体しか倒せないからね」
「懐が寂しかったので貰えるならありがたいです。それとミーティスも貧乏男爵の次男なので喜ぶと思います」
「ミーティスだけど騎士が天職だと思っているのかな?」
「どういうことです?」
「剣の動きに覇気がない」
(白虎がそう言っていました……)
「それは……良く気が付きましたね。実は彼は昔から商業に興味があって、貴族院では商業科と政務科を専攻していました。しかし父親が騎士なので騎士科も取らされたのです。騎士爵を持つ武官としては珍しく、法衣貴族の爵位も持つ文武両方の爵位を持っています。皮肉にも魔石伯の領地は武官の比率が高く文官が重宝されるので、騎士団に即採用された経緯があります」
これを聞くと伯爵夫人が領政執務をしていたのも、文官が少ないせいじゃないかな?
「騎士以外にも興味を持ってくれるかな…例えば商会とか?」
「何かやるつもりですか?」
「神殿をギャフンと言わせたいかな」
「神殿ですか!?」
「うん。連絡を取って貰えると助かる」
次回の話は翌日の19時になります。
蒼汰君VS神殿の開幕です。 後半
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