30、姦しヒュドラとソロキャンパー。 ②
30話目です!
気づけば30話w
ブックマークや評価も増えてうれしい限りです!
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統合と聞いて9人が1人になるのを想像していた僕は、ちょっと唖然としてしまう。
9人が魔法で合体でもして1人の女性になるのだとばかり思っていたら、そうではなく人格が1つになるという統合の形だったのだ。9人が同時に同じ事を話す、先程の姦しさは多少減ったが、煩い事には変わりがない。
例えば――
「リヴィアスより聞いてはいますが、再度確認いたします。半年後に間違いなく収穫は起こる、という事で宜しいのですね?」
こんな台詞がステレオやサラウンド、5,1chどころではない、異常な音響で響いてくるのだ。タラちゃんは気にも留めずに応答しているが、正直かなりきついものがある。
これならば姦しい方が良かったんじゃないか、なんて思っていると9人が一斉に僕の方を向く。……無表情で。
え?何これ?ホラー映画か何か?ぶっちゃけ超怖いんですけど。
「ユズル様、出来ればあなたの能力を私にお見せ頂けますか?」
「……は、はい」
あまりのホラー的怖さに頷くことしか出来ない。……いや、マジだから。
喋り方からすると統合後の人格はウーヌスに近いのだろう。その慇懃な口調が余計ホラーな感じを強くしているのだ。
「おや?どうなされたのですか?顔色が優れないご様子ですが……」
「い、いえ、別にどうもありませんよ?」
言えない。「超怖いんですけど!」なんて言えない。
「怖い?私が、ですか?」
!!??? はれ~??
思わず頭の中をどこかの生徒会副会長が真っ赤な顔で飛びまわる。
……あれだよね、可愛いよね、か○や様。僕がプラチナ会長だったらすぐ告ってるね!
現実逃避した頭の中で、これはどうやら口に出してしまった様だと気付いた僕は、急いで言い訳を考える。いや良い訳は良くない!! ――ここは!
「いえいえ、そ、そんな事は言ってませんよ?僕は統合後のヴァエルフさんはなんとお呼びすればいいのかなとお聞きしたくてですね……」
苦しい!苦しすぎる話のずらし方だが、ここは何としても、何としても話をずらすのだ!話をずらすことさえ出来れば後はどうとでもなる! ……はずだ。いやどうとでもなって?お願いだから!
「ああ、そうでしたね。私の事はヴァエルフ・ニヒルとお呼び下さい……、それで話の続きなのですが、怖い、とはどういう事でしょうか?」
ああ、無表情の9人、その額に青筋が見える……、あかん、これヤバいやつや。
結果。
僕の能力披露は土下座から始まった……。
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左手直上に光を全く反射しない直方体の柱を出現させると、右手に握りこんだ『祓』をゆっくりとその直方体に刺し込んでいく。
直方体はユズル最大級の闇魔法であり、DMGシリーズに分類される『ノワール・ビリオンズDMG』をスタンバイ状態にさせたもの。
この『ノワール・ビリオンズDMG』という魔法、本来ならばこれは光を反射する物に対して極めて有効な魔法なのである。反射という言い方をすると語弊を生みそうなのだが、要するに光が当たっている物全て――勿論術者が標的とする物だが――を、その漆黒の立方体で塗りつぶす、言い方を変えれば「喰らい尽くす」事により標的の存在をほぼ抹消というところまで追い込むという、このダリアで言うところの『極大等級魔法』を超える大魔法なのである。
その上使い方によって、対単騎・広域殲滅のどちらにも対応出来るのだ。対単騎であれば、直方体をそのまま標的に向かって発射、広域殲滅での使用であれば直方体を分裂させ、極小かつ無数の直方体を生み出す事により広範囲に対しての攻撃を行う。
ここまで言えば、最強に近い魔法なのでは?と感じてしまうだろう――
しかし運用に関しては問題が多い魔法でもある。まずはその運用コスト、魔力の使用率が全魔力の25%という所である。使用者の魔力量の最大値、その割合での消費量なのだ。まあこの割合消費については、DMGシリーズ魔法群の全てがそうなのだが――
次に他のDMGシリーズと同じく『エスペラーザ』にしか効果が無い事。しかもこの魔法は最大級ではあるが、以前の戦闘で使用した『フル・クリティカル・マギ・バースト=コード・ノワール』と比較した場合、第2位階に対してのダメージ量が少ないのである。
具体的に言えば、『F・C・M・B』と比較した場合のダメージ量はその3割程度になってしまうのだ。単純に第3位階以下の殲滅には使えても、決戦魔法としては弱いと言わざるを得ないものであろう。
そして最大の問題、いや欠点というべき物。
――そう、ペットボトルを介さないと使用すら出来ないという事だ。
これについては現状ではどうしようもない事であり、パーティーの皆と何度も対策を考えている問題でもある。今のところは突発的にエスペラーザとの戦闘になった場合、ペットボトルを使用するまではタラスクを頼みにするしかない状況なのだ。
無論ユズル自身の成長によって大分カバーは出来る様になってきているだろうが、今後の対エスペラーザに於いての命題とも言えるものである。
ともあれ、その魔法『ノワール・ビリオンズDMG』を纏わせた刀『祓』を、右斜め下方に構えたユズルはヴァエルフ・ニヒルに対峙する。
その手に握られた『祓』の刀身は本来の輝きを失い、艶が全くない漆黒に染まっていた。
――魔法と刀剣術の複合スキル――
ここ最近の鍛錬による刀剣術の向上、魔力を練る事によって得た魔力の流れの掴み方。
それによって、刀剣スキルに魔力ではなく、魔法を乗せる事を可能にしたこのスキル。
――『魔刀術』、とでも言うべきそのスキルは、対エスペラーザ戦だけではなく、通常の魔法を刀剣スキルに乗せる事により、対魔物・魔獣戦に於いても極大級の威力を発揮するものになっていた。
「では、いきます」
「……遠慮はいりません。どうぞ、いつでも」
その言葉を機に僕は詠唱を始める。
「彼は西風、ハンビの息子、獅子の頭に蠍の尾、四対の翼は荒風を、その根からは蝗王を、荒ぶり出づるは旱魃を、其をもて敵を食い破らん…」
……実は魔刀術(仮)を会得したときにステータス更新が行われたのだけど、このスキル『詠唱』が必要なのだ。絶対に。
ぶっちゃけ恥ずかしい事この上ないが仕方がないと僕は詠唱を続ける。
「リーイガン!!」
その瞬間、9人のニヒルを同時に8つの連撃が襲う。
同時に8回の突きを繰り出す攻撃、それが『リ・イガン』の主体となる攻撃方法である。只、これは1体に対しての話、今回は9人への同時攻撃、ゆえに繰り出された剣撃は72。
その72の剣撃に乗せられる魔法は突き込まれた敵の内部より浸食し、内からそれを喰らい尽くしていく。後に残る物など果たしてあるのか……。
「ああ、あああ、あはあああああぁあぁぁぁ……、素晴らしいですわ。私の体が闇に飲まれていきます!この様な快感!初めてですわ!ああ、私が彼の者でないことを疎ましく思う日が来ようとは!もっと、もっと下さいまし!!ユズル様お願いですから、もう一度!もう一度だけで良いのです!はあ、はうぅ」
――ドン引きである。
防御することなくその身に刀を受け入れたニヒルは、頬をこれでもかと紅潮させて見悶えている。いや悶えるという言葉ではそれを表現するには足りないだろう。クネクネと科を作りながら、体中を激しく痙攣させているのだ。……まるで狂ったかのように。
「ねえユズル様!?お願い!もう一度!もう一度それを下さいな!もう一度で私、天に昇れると思うのです!ですからお願いします!あ、はああぁ」
こんな状況早く終わらせたい――、その一心でもう一度スキルを発動させる。
「あ。来ましたわ!来まし、あ、あ、あはあああああああああぁあああぁぁぁぁっ!」
――後に残るは昇天しきって元に戻ったヒュドラの巨体。
何でヒュドラの昇天模様なんぞ見なくちゃいかんのだ……はぁ。
次回は金曜日を予定しております。
味方側の登場人物がどんどん敵のボス風味になっていくw




