29、姦しヒュドラとソロキャンパー。 ①
だいぶ間が空いてしまいました。
本当に申し訳ありせんm(__)m
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灰色のどろどろとした水面に気泡というか、泡がぼこぼこと絶え間なく湧きあがっている沼の間を歩く。周囲の岩肌からは至る所で蒸気が吹き出している。
日本で言えば温泉地に良くある地獄、それが広大かつおどろおどろしくなった様な場所を僕達は進んでいた。
理由は勿論神代の者であるヴァエルフさんに会いに行く事。
周囲を眺めれば木や草は殆ど生えていない。生き物の姿も全く見えないし、良くいっても悪くいっても不毛の大地と言う言葉が似合う場所だな。
ヴァエルフさんはなんでこんな場所に住んでいるのかとタラちゃんに聞いてみれば、こんな所に住んでいるのではなく、彼女が住む場所の周囲がどうしてもこうなってしまうという事だった。
それを聞いて納得。ヒュドラと言えば、何となくだけど強力な毒や酸なんかを持っているイメージだもんな。もしかしたら、9つの首からそれぞれ違う攻撃したりなんかするかもね。
『『もう直じゃ』』との声に前を向けば、先の方の岩肌に洞窟が見える。ここから先は馬車が通らないみたいなので皆で歩く事にする。すると、洞窟に近づくにつれてどろどろとした沼や蒸気の噴き出す岩が消えていく。
「なんだ?これ!?」
――洞窟の入り口では摩訶不思議な現象が起こっていた。
花や草、低木なんかが一気に成長しては枯れていく。花は数十秒で咲き誇り、そのまま散って、草や低木も同じ様に成長し葉を茂らせては枯れるのだ。
僕達は、その意味が分からない、けれども美しいと呼べる光景に、しばらく茫然としてしまう。
『『相変わらず凄まじいの』』
「これってヴァエルフさんの力?」
『『そうじゃ。ヴァエルフの力じゃ、優しすぎるあ奴のな――』』
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彼女はこの世界を心から愛していた。と同時に自身の力にある種の憎しみを持っていた。
その力は彼女自身未だ制御できていない。成長と腐敗、毒と薬、火と水、相反するものが同時に発現するその力は自身の周囲、半径2マーフに渡って効果を及ぼす。
自身を中心として減衰はして行くものの、その影響下に入った生物は急速に老化と成長を繰り返す、猛毒で瀕死になりながら無理矢理治癒され続ける等のあり得ない現象にみまわれる事になる。それは想像するだけで死より辛いもの。
世界を愛してやまない彼女は苦しむ。この力を神々に向かって振るう分には何の憂いも無い。世界に害をもたらす神々、むしろ苦しめとさえ思う。だがこの力がここの命に降りかかる事には耐えられない。愛する者たちが自身の力によって苦しむ――、そのような事に耐えられる筈も無い。
彼女は選んだ。このまま世界と共にあるか、収穫の時まで世界と隔絶して生きるかを。
結果がこの場所、前回の収穫から300年超。
――優しすぎる彼女は、たった1人でここにいる。
「周りに苦痛を与えるから1人で……、悲しい話ですね…」
『『まああ奴は嬉しそうじゃったぞ、これで周りを傷つけずに済むなんて言っておったな』』
「それでも1人はお辛いでしょう……」
『『なに、大丈夫じゃ。アイーシャよ!良く考えてみよ、人格が9つあるのじゃ!9人で生活してるようなもんじゃろ?』』
「それは確かにそうかもしれませんが……」
「あれ?そういえば」とレッドアイが呟く。
「どうしてあたし達は平気なのかな?」
『『そこはほれ、ワシの大いなる力というやつじゃ!』』
そんなの大した事でも無いという風にタラちゃんは『『クフフ』』と笑った。
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「まあ!良く来て下さったわね!」
「ふん、突然来られても迷惑だがな」
「タラスク~!元気だった~!?」
「お、お茶の準備、し、しますね」
「……まだ眠い…」
「今度のはぐれ人は今までと違うという話でしたが見た感じはそこまで変わっている様には見えませんね……これは是非調べさせて頂きたいと思いますが如何でしょうか?」
「ちょっとそこのお姉さん、あたしと良い事しな~い?追いかけっことかぁ」
「そこの魔族!!いい肌してんじゃねえか!なあ!!」
「ちょっと皆さん!静かにして下さい!!」
「そうですよ?久方ぶりのお客様なのですから、皆さんお静かに」
ここで問題です。誰が誰でしょう、か!?
まあ、答えなんて分かっているだろうけどね。ヴァエルフすごい。超姦しい。
とにかく姦しいのだ。9つの頭からそれぞれが同時に話しかけてくるんだよ?これはいくら聖徳太子でもいっぱいいいっぱいになるだろうさ。間違いなくね。
「まずは代表して私がご挨拶申し上げますわ。皆様ようこそいらっしゃいましたね」
真ん中の首が慇懃に話を進める。
「私はヴァエルフ・ウーヌス、1つ目の頭で長女、統合を司っております。どうぞ宜しく。 さ、皆さんも自己紹介を」
「ああ、私はドゥオだ。火を司っている」
「あたいはトレース!3つ目ね!使うのは水ー!」
「わ、わたし、クアットゥオルって言います。4女です。あ、それで、毒を、その」
「あたしはクィーンクゥエよう。あたしはそうねぇ、薬というか治癒、かしらぁ」
「セクスです。私が司っているのは腐敗ですが如何でしょうかはぐれ人殿一度私の力をその身に浴びてみるというのは?中々に良い実験結果が取れそうなのですが」
「俺はヴァエルフ・セプテム!7番目だ!それとあれだ、成長だな!」
「初めましてオクトーと申します。8女で、再生を司っています。って!ノウェム?まだ寝ちゃ駄目よ!?」
「……9番目、破壊。……もう無理……クゥ、クゥ……」ケントゥム
皆さん中々に個性豊かなようだけど、……あれなのね、9姉妹だったんですね。
しかしまあ、何とも不思議な光景。竜形態のタラちゃんと同じ位のサイズで頭は9つ、蒼紫の鱗に尻尾も9つ、喋るたびにハ虫類独特の二股に分かれた舌がチラチラと飛び出している。だけど喋る言葉は完全に皆うら若き女性の声なので混乱してしまう。
……うん。見た感じは完全にヒュドラなんだよな……だけどなあ。
『『久しぶりじゃの、ヴァエルフよ。ところでこ奴らが困っておる様じゃ。一度人型になってくれるかの』』
「あら、それはごめんなさい。でも宜しいのかしら?私達の場合は人型の方が力が強くなるのですけど……」
ウーヌスが少しだけ不安そうに答えると『『大丈夫じゃよ。ワシの力、分かるじゃろ?』』
と洞窟全体に手を振る様な仕草を見せる。
洞窟全体を覆う様な魔力の流れが見える。――結界を張ったのだろう。あのタラちゃんダッシュからずっと魔力を練る鍛錬を続けてきたおかげか、今は魔力の流れが見える様になって来ているのだ。
それにしても凄まじい魔力だな――、タラちゃんってやっぱりとんでもないわ。
「相変わらず素晴らしい力ですわね、タラスクさん」そう言いながらウーヌスが自身の全体に魔法陣を展開させた。その途端にヒュドラの巨体が消えて、その場に9人の人型の影が現れる。
中心にいるのがヴァエルフ・ウーヌスなのだろうか?蒼紫の髪をふんわりと縦ロールにして、両手をお腹の前で組んだ状態で背筋良く立っている。
向かってその右、ロングのストレートがドゥオだろう、胸を張りながらこちらを睨むように見ている。――張る程無いっぽいけどな!
向かって左にいるのがトレースか。少し跳ね気味のショートカットだ。見た目からして元気一杯って感じだな。
戻って右側の2番目、ミディアムボブの女の子。内気そうに肩を竦めている感じからして、彼女がクアットゥオルだろう。
今度は左側の2番目、緩めのウェーブが掛かったロングヘア、醸し出す妖艶な雰囲気が
喋り方と実に合っている。クィーンクゥエは彼女か。でも追いかけっこって?嫌な予感が。
そのまま左の3番目がセクスか。髪をアップに纏めているが、何となく全身からマッドサイエンティストの雰囲気が漂っているな……、てか白衣着てるし。マジで?
左の4番目、何と言えばいいのか、激しめ2ブロック?そんな感じの髪型で、男勝りなポーズを決める。きっと彼女がセプテムだな。
右の3番目は間違いなくオクトーだな、あの委員長タイプの髪型は間違いない。手を後ろに組みながらも背筋はぴっしり、どう見ても委員長タイプだ。
その横でグースカ寝てるのがノウェムか。右目が隠れた首筋までのショートボブ。あ、アホ毛が飛び出てる。可愛い(ペット的な意味で)
同じ髪の色で、下から徐々に1人の成長を感じさせるような顔付き。髪型の違いが無ければ一瞬誰が誰だか分からないが、良く見ると少しずつ違っている。それぞれの雰囲気がそうさせているのだろう。共通しているのはやはり皆美しいということだろうか。
ただ、1人を除いてはそれぞれに延々と喋っている。姦しいというよりも、むしろ煩い。
これは話を聞くのに苦労するだろうなあと、先が思いやられる気分になった時だった。
「では、一度統合致しましょうか。皆さん」
ヴァエルフ・ウーヌスがそう言うと、またもや魔法陣が蒼紫に光り輝いた――
次回は週明け火曜日予定です。




