12.良く会う人
ちょっと曇りで肌寒く、外に出たくないなと思いながら部屋で温かいお茶を飲んでいると扉が叩かれた。
依頼かなと扉を開けると、アルフォードさんが立っていた。
手にはなにやら荷物が色々。
「おはようございます、ナオミ・タグチ様。今お時間よろしいでしょうか?」
「おはようございます。はい、大丈夫です」
「本日は、先日の依頼に対する報奨をお渡しするために伺いました」
「ああ、はい。えっと…中に入られますか?」
荷物もあるみたいだし、廊下じゃあんまりかなと体を横にずらして道を開ける。
「よろしいのですか?」
「はい。ただ、大きな物音がしたら合鍵を持っている武器屋の方が、すぐに来てくれるようになっています」
これは、男性だけで来るお客さんに警告として必ず伝えるようにしている。前に変な人が来たんだよね。
その時にゲルハルトさんから必ず警告しろ。何かあったら大きな音を立てろ。助けにいってやるから!と言ってもらえたため、自分の身がかわいいのでしっかり守っている。
それを聞いたアルフォードさんは困った顔をした。
「不安でしたら、ここで十分ですが」
「いえ、男性に必ず言っているだけで、アルフォードさんが信用出来ないとかじゃないんです。不快に感じましたらすみません」
「なるほど、重要ですね。私はナオミ様が不快に思うことは致しません。失礼ですが、女性に持たせるには重たいので中に入らせていただきます」
律儀に断ってから頭を下げ、荷物を抱えて部屋へ入った。
大きなのから小さなのまで、沢山の箱がアトリエに置かれる。テーブルに乗せてくれようとしたけど、テーブルが小さすぎて…違うな、荷物が多過ぎて一部は床に置かれた。
どれも豪華な細工がされ、宝箱や宝石箱みたいできれいだ。
箱自体が高そうだなぁと考えていたら、アルフォードさんが口を開いた。
その手にはパピルスを1枚持っている。
「贈られる報奨品を読み上げますので、お品があるか、一緒にご確認をお願い致します」
言われるがままに、贈られたものを確認していく。
鍵付きの宝石箱みたいなのに入った、1年位暮らせそうな凄い額の報奨金。
宝箱その1には、刺繍が華やかに施されレースまで縫い付けられた、着ていく所を選びまくるドレス。その2・その3に入った靴やアクセサリーも普段は使えそうにない高そうなもの。
少しだけど、羊皮紙とパピルスもあって、服よりよっぽど嬉しい。
その他細々貰って、最後に「礼状」と読み上げたアルフォードさんが、縦長の箱から羊皮紙を取り出した。
上下を持って、私に向かって広げて見せる。
内容は「お仕事ご苦労様。いい仕事したね。これからも頑張るんだよ」ってところか。
王太子殿下の名前は入ってないけど、国の押印がされてるっぽいから正式なものだと思う。
「それでは、代読させていただきます。画家ナオミ・タグ_」
「え?いや、いいですよ」
なになに?読み上げるつもり?
恥ずかしいからやめてほしい。
「え?よろしいのですか?」
まさかの驚いた顔で聞き返された。
「いや、自分で読めますから。大丈夫ですよ。お気持ちだけいただいておきます」
「え?」
さらに驚いた顔をされた。
本当は王室からの礼状を、騎士隊長に読み上げてもらうって名誉なことなのかな。
…いやぁ ないわ。卒業証書じゃあるまいし。私には恥ずかしいわ。
「ありがたくお受けしますので。読み上げはちょっと」
「さようですか。ご自身で読まれるのでしたら、それで」
箱に入れ直し、渡してくれるのを受けとる。
「こんなに色々いただけるんですね」
「依頼者の方が、大変お喜びでしたので。紙などは手ずからお選びに成られました」
うん、ドレスやら選んだ人に比べてものすごくセンスあるわ。
口には出せないけど。
「お礼をお伝えください。アルフォードさんも重たいのにありがとうございます」
「かしこまりました。お伝えしておきます」
一礼して出ていくのを扉まで送る。
扉を出たところでアルフォードさんが振り返った。
「ナオミさんは、本日はお昼はどちらで食べるか決めていますか?」
「いえ、特に決まってませんが?」
なぜお昼ごはん?
「それでしたら、これから一緒に食べに行きませんか?」
間が空いたけど、また口止めかな。
そろそろもう一度警告しておこう!みたいな。
イヤだ。ごはんは美味しく食べたい。
「せっかくですが、食事の時に営業することもありますので。他言無用は覚えております。ご心配なく」
「いえ、そうではないのですが…」
「騎士さんも大変ですね」
「え?あ、いえ。そんなことはありませんが」
アルフォードさんもおんなじ話を何回もするの大変だろうな。
私だったら言う側でもすぐに飽きる自信がある。
「雨が降りそうなので、気を付けて帰られて下さい」
「…はい。ありがとうございます」
アルフォードさんが帰ってから、またお茶も出してないことに気付いた。
荷物に圧倒されて忘れてたな。申し訳ない。
あぁ この荷物どうしよう。ドレスとか正直置き場にすら困る。
仕方なく重たい箱を引きずるようにクローゼットの奥に追いやった。
紙は嬉しいな。ちょっと色んなこと試そうっと。
◇
温かい朝ごはんを食べた後、食後のお茶にカフェオレを飲んでいた。
ケントさんが中々減らなくて、と入れてくれたものだ。
「ナオミちゃん、飲みながらでいいからちょっと話していいかな?」
「もちろんです。どうかしたんですか?」
今日宝箱で朝ごはんを食べていたのはたまの贅沢ではなく、ケントさんから「ごちそうするから朝ごはん食べに来てくれ」と言われたからだ。
「トムは誰かわかるよな?」
「はい、わかりますよ」
トムさんは宝箱の常連さんで、なんというか、失礼だけど「普通のおじさん」という感じの方だ。ちょっとお腹の出た、髪が…薄い…形容すると悪口みたいになってしまうけど、ちょっと気難しそうで、でも仲良くなるととても親切な普通の中年期の男性という印象がある。
「あいつの娘さんが、今度結婚するんだよ。それで、皆でなにかお祝いを贈ろうと思って。でも、嫁ぎ先がカイド王国で、嵩張るものは迷惑になるからさ、ナオミちゃんに絵の依頼をしたくて」
「わぁ!おめでたいですね。もちろん受けさせていただきます。あれ?でも、トムさんそんなこと何も言ってなかったですよね」
「あいつはなぁ意地っ張りだから、素直に喜んでるのを表現できないんだよ。父一人子一人なのに、娘の嫁ぎ先が外国ってのが寂しいのもあるかもしれないが」
「それは…仲のよい父娘なら寂しいでしょうね」
「でも、結婚に反対することは全くしなかったらしい。お前の幸せが一番だ、ってな。普段飲んだくれでも父親らしいところもあるんだよ」
「娘さんの幸せが一番、ですか…」
私には縁のないことだけど、そう言ってくれるお父さんで、娘さんも幸せだな。
「それでね、結婚式はカイド王国でするらしいんだけど、お披露目会ってのをうちの店ですることになったから、ナオミちゃんも参加して絵を描いてもらえないか?お任せが一番いい絵にしてもらえるって評判だから、描く絵はお任せで!」
「わぁ 責任重大ですね。でも、トムさんのためですからね。頑張ります!」
「それで、お代なんだけど」
未だに絵の値段はお客さんに決めてもらっている。
1枚1人で10000カルがいつのまにか基準になってるけど、王室のお仕事を受けてから、裕福な方からの依頼では競うような高額がつけられることもある。「○○さんのところはいくらだったんでしょう?うちはそれより多く払うわ!」みたいな。
どの絵も丁寧に描いてるんだけど、まぁ いただけるものはありがたくいただいている。
「30000カル払うから、それで3枚なんかいい絵を描いてもらえないかな?」
「え!?いえ、常連さん価格でお受けしますよ!」
「俺1人じゃなくて、皆で出し合うもんだから遠慮しないでくれ。お祝いをケチったなんて思われたくないからな!」
「なるほど。わかりました。では、それでお受けします。よろしくお願いします」
「おう、よろしく頼むね!」
お店を後にした私は、犬の散歩通りを歩いていた。
昨日がお仕事で遅くて、ちょっと眠たいんだよね。
だからパンでも買って帰って、お昼過ぎてから出かけなおそうかなと思って。
ちょうど焼きたてのパンを買えてウキウキしたのに、ハースベ(コンロの燃料)が少なくなっていることを思い出して、ついでに買ってからテンションが下がった。だってこれが結構重いんだ。
水場の広場を通って、まだ遠いなと思っていると、またアルフォードさんを発見した。
こちらに気付いたのか、なぜか笑顔で近寄ってくる。
今の私は愛想笑いなんて作れそうにないから、見張りなら今度にしてほしい。
「おはようございます、ナオミさん」
「…おはようございます、アルフォードさん」
「それ、ハースベですか?持ちますよ」
ひょいっと手からハースベが離れ、腕が軽くなる。
結構ですと断るべきなんだろうけど、正直ありがたい。
「ありがとうございます!」
私は満面の笑顔を向けた。
今が軽ければ見張りでもなんでもいいや!
「…いえ。今日はお仕事には出かけられないのですか?」
「お昼はパンを食べて、午後からでも出かけようかなと思ってるところです。アルフォードさんはお休みですか?」
「そうなんですね。私は今日は休みです。普段はどちらで絵を描かれてるんですか?」
「日中は公園とか広場とか、大体決まった所で絵を広げてます。夜は酒場さんにお願いして隅のほうで依頼待ちをしたり」
あれ?これ普通に答えてよかったのかな。
酒場とかってお酒を飲んだら口が軽くなるとか思われる?
でも嘘つくのもな。
「酒場は、帰りは暗くないのですか?」
「暗いですよ?」
「女性が1人で歩くのは危ないでしょう」
「まぁ 安全とは言えないのかもしれませんが。でも、いつも行くお店とかだと、同じ方向の方が送って下さったりしますよ」
特に月の光亭や宝箱とかだと、最近は必ずと言っていいほど誰かが送ってくれる。遠回りになったりで迷惑がかかってると思うけど、夜の1人歩きは少し恐いのでお言葉に甘えてる状況だ。
「そうですか…。」
そのまま部屋までハースベを持ってくれたアルフォードさんに、一応義理で聞いてみた。
「ありがとうございました!よければお茶でも飲んで行かれますか?」
「よろしいのですか?」
あれ?誘ったものの、本当に飲んで行くとは思ってなかった…。
でも今さらそんなこと言えないよね。
「はい。あ、でも本当にお茶しかないんですけど…」
「…少しだけ、お待ちいただけませんか?必ずすぐに戻ってきますので」
「え?はい…あ、いやお忙しいなら、全然ムリはしなくても」
忙しいよね?そうだよね?
ムリしなくても大丈夫ですよ!お気遣いなく!
「いえ、すぐに!戻りますので」
「あ…はい」
つかつかと歩いていくアルフォードさんの背中を見送って、荷物を置いてお茶の準備を始めた。
それから本当にすぐにアルフォードさんが籠を持って戻ってきた。
渡された籠にはお菓子が入ってて、なんと気が利く人なんだと感動する。
お茶に誘ってよかった!いや打算で誘ったわけじゃないけど!
いつものお礼にね。
「ありがとうございます!!」
「甘いものはお嫌いじゃないですか?」
「はい。大好きなのですが、中々買えないんですよね。お湯沸きましたから、そちらにどうぞ」
アトリエ側のソファを勧めて、お茶を準備する。
もちろん入れるのはいつもの自分用のじゃなくて、お客さん用のいいやつだ。
ソファに近付けたテーブルにお茶を置いて、私はイスに座った。
アトリエ側には1つしかイスがないんだよね。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
「こちらこそ、荷物を持ってもらった上に、お菓子までありがとうございます。いただきます」
どれ食べようかな~たくさんで迷うなぁ。ふふふ。
「ふざいひょう、でしたか。出来上がったんですね」
「気付いていただけました?そうなんです。試行錯誤の上あの形になりました」
そう。出来上がったんだよね、不在表!
枠の上には、空火水風土の暦のイラスト。空は太陽と雲、火は熱網と炎、水は水道から滴る水滴、風は葉が巻き上がる横線、土は双葉が生えた弧線で表現。
枠の左には縦向きに、太陽、スプーンとフォークを3箇所、月を描いて1日。それを2段。
あと苦労したのは一番上!
家の中に人がいないイラストで×、人がいないのにノックしてるイラストで△、扉を開けて人と会えたイラストに○。
「いくつか×がついていたところは、ナオミさんが不在ということですか?」
「そうです!」
「自分か来た時にナオミさんが不在だったら、△を書く?」
「そうです!そのために木炭ペンを置いてるんです」
「次に来ようと思うところに○を書けば、」
「その日は私も家にいるようにする!」
わかってもらえると嬉しいよね~!
ゲルハルトさんにも説明したから、伝言残してくれる人が増えて下に迷惑がかかることが少なくなってきてるんだ~!
「良くできてますね。ご自分で焼き入れたんですか?」
「ありがとうございます!はい。難しかったですけど、楽しかったですよ」
そのあと少し話して、アルフォードさんは帰っていった。
寝損なったけど、不在表をわかってもらえて気分はいい!
でも、この後くらいから広場で依頼待ちをしている時や、夜にごはんを食べる時にアルフォードさんが度々現れて話しかけてくるようになった。
話してる内容は好きなものとか最近女性に流行っているお店だとかの当たり障りない内容から、国や家族について聞かれる身分調査かと思われる内容まで。
騎士さんの監視っていつまで続くんだろう。
まぁ 不便ないからいいんだけど。




