すべて流れ、それだけで
イワは牢から出される直前、皇太子に「素晴らしい劇団だ」とほめ言葉をいただいた。
皇太子の秀麗な顔には、あきらかに冷たい知性の輝きがあった。
皇太子はアイを試した。あの状況になり、どのように足掻くか。皇太子妃を騙すことができるか、試したのだ。そして騙すことができれば、アイを皇家の一員として認めようと。
イワは下界を試す殿上人のありように、あがらいがたい差を感じた。
しかし、イワの決意はかない、計算違いも多かったが、アイは権力を手に入れた。
イワは皇太子の召使の召使の召使から、報奨金をもらいぺこぺこ頭を下げながら、小春日和の道を歩いていた。使用人出口から出るように言われたのだ。通り過ぎるやつらはそいつもこいつも忙しいという顔をして、まるっきり周囲の人格や世界に興味を抱いていないようだった。イワは鼻歌を歌い、使用人の女が運ぶ白いシーツにつばをはき、兵士の甲冑に爪で傷をつけ、片手で金貨を守りながら、金持ちそうな女の宝石をプチプチ盗み、小鳥の死体を端によけ、使用人の道を拭いている汚い老婆の頭に金貨を置いてやった。
使用人出口には兵士たちがりりしくたっていた。
物語ももう終焉だ。
イワは、いつも終幕のときにする礼を城に向かってした。
瑠璃の色が頭に浮かぶ。
皇太子の傲慢は自分がすべて「試す側」であるという意識で、だけどまたイワも試した。
「俺もまた試したんだ」
イワは弱弱しく、けれど足だけはしっかり踏みしめた。
この世界の下が、上に瑠璃色を送り込んだ。
「汚い子供」
「なんだあれは、手もなけりゃあ。目もおかしいじゃないか」
イワはにやにや笑った。
こいつらの思い上がりには報いてやる。
後ろから、よたよたとした足音が聞こえた。でも少年の軽い足音だ。荷物を持っているのだろう。
「イワ、使えそうな衣裳は全部入れてきた」
イワはぐっ、心臓をつかまれた気分だった。
少年の声は当たり前のことを報告する、気軽さで少し遅れた待ち合わせ風情だった。
「あと、おばあさんの頭に金貨を落としてました。持ってきました」
という。全部ご承知、という顔をしようとして失敗して、振り返ったときは眉を寄せていた。
アイはいつも通りの襤褸で、片手に金貨を掲げ、頭にはぼさぼさの鬘をかぶっていた。
「じゃあ、帰りましょう」
アイは荷物を抱え治し、歩き出した。
イワはアイに自分の手持ち荷物を持たせると、何度か城を振り返りにやにや笑って、ぶらぶら歩きだした。
【片徐帝(藍銅) 出自が最も低いといわれる帝。父は先の帝の隠し子であった黄=アイ(居法淋に詳しい。俳優であり現在の瑠璃劇団の初代劇団長)であった。母は史書に名を残せぬほど身分が低かった。
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