Anotherstory8
フェーリークスという名前をもらい、店のルールなんてものも教えてもらった。それからも、毎晩夢の中でこの奇妙な店に通い続けるのは変わらない。
「…ねぇ店長~」
「なんですか」
店長は温かいココアを持ってくると溜息をつく私の前に差し出した。
「店長。この店が私の作り出した夢じゃないことはもう分かりました。店長が私に名前を教えてくれない理由もこの間のルーフスさんの話で分かりました」
「それで?まだなにか御不満でも?」
「不満っていうか…」
別に不満があるわけではない。ただ…。
「私は魔女じゃないんだから名前知ったって何もできないですよ」
「はぁ…、まだそんなことを」
「一回気になったらずっと悩むタイプです…」
温かいココアに手を伸ばす。
初めてこの店に訪れた日のことを思い出した。あの日、この店に来て最初に飲んだのは紅茶だった。それを私はものの見事に噴き出した。以来、店長は私に紅茶を出すことはない。
「そういえば店長」
「今度は何ですか?」
「初めてここに来た時、店長言ってましたよね?ここは一部の人を除いて簡単にたどり着けるような場所じゃないって…」
「…そうでしたか?まぁ確かに、貴女のように毎日ここに来る人はそういらっしゃいません」
「不可抗力です!……毎日店に来るようになって思ったんですけど、この店に来る人達は時代も国籍もバラバラです」
「ええ、ここは様々な人が集まる…それが売りですから」
店長はにこりと笑った。見本のような完璧な笑顔、下品さはなく、無邪気なわけでもない。品はあるがどこか冷たいそれは何度も見てきた。
「そもそも人間じゃないのもいるし…」
しゃべる猫を見た時にはとりあえずおもいっきりハグした。
「ここに来る人たちは…みんな変わってる……」
「なぜそう思うのですか」
「………わかんない」
答えられなかった。
明確に何が変わっているのかは分からないのだ。ただ何となくそう感じるだけ。
「変わっているのは貴女の方ですよ、フェーリークスさん」
「へ?」
店長の言葉に私は素っ頓狂な声を上げる。店長は言った。
「貴女は何もかもがイレギュラーなのです。だって貴女は紅茶が飲めないでしょう?」
「店長?それってどういう意味ですか…?」
「そのままの意味ですよ。貴女は紅茶を飲んで苦いと言った」
「あの時のこと、まだ怒ってるんですか…?」
「…いいえ」
本当に店長は怒っていないのだろう。だけど、貼り付いた笑顔がなんだか怖かった。
「じゃあ一体」
「どうせ毎日のようにここに来るんです」
店長は私の言葉を遮って言った。
「もっと周りを観察してみてはいかがですが?」




