第六章 月光市場のある騒動
工藤さんとセント・エルモ号の演技が終わりを迎えると、私たち以外にも観客が集まっていた。
そして鳴りやまない拍手。
工藤さんは照れ臭そうにお辞儀をして、セント・エルモ号は草を食んでいた。
「君たちのためだけに披露する芸だったのに、すまなかったね」
工藤さんがやってきて言ったけど、そんなのはどうでもよかった。
だって私は最後まで観客が増えていることに気づかないくらいに、演技に夢中だったから。
「それじゃ俺は、そろそろテントに戻るよ。君たちはどうするんだい?」
「私たちは探し物があるんでもうちょっとこの市場にいます」
「探し物? それは何?」
「大切な物としかわかっていないんです」
「大切な物ねぇ」
工藤さんはたくましい腕を組んで斜め上に視線をやる。それから少し考えた様子で「やおよろず屋へ行ってみたらどうだろう?」と私たちを見た。
「やおよろず屋? それはどこにあるんですか?」
「月光市場の北の方に他の店よりも随分と大きいどっしりと構えた建物がある。本当に大きいし真っ赤なのぼり旗が立っているからすぐにわかるはずさ」
「そこに大切な物があるんですか?」
この問いに工藤さんは「わからない」と困った顔で笑みを見せた。でも「ここは月光市場。売っていないものはないと言われる市場だ。その中でもやおよろず屋は創業八百年の老舗の中の老舗、あのペテン師野郎と違って誇りのある商売をしているからな。注文すれば何だろうと意地でも探し出してきてくれるだろうさ」と続けた。




