第六章 月光市場のある騒動
「よし、取引だ。今、契約書を持ってくるから待っていてくれ」
そう言って店に引っ込んだ長鼻さんが戻ってきた時には手に分厚い紙の束。
「これが契約書だ。ここにサインして横にハンコを押してくれ。ハンコがなけりゃ拇印でいい」
長鼻さんがニヤニヤと笑いながら差し出してきた紙の束をキネムは受け取らなかった。
「面倒なのは嫌いです。この話はなかったことにしましょう」
「い、いまさら何を言う」
「取引はもっと簡潔にしましょう。こちらは星のかけらを渡す。そちらは馬を渡す。それだけです。紙一枚もいりません」
キネムと長鼻さんの見つめ合いが続いて、一分ほど。「はぁ」とため息を吐いた長鼻さんは「わかった。それでいい」とあきらめた様子で柵の方へ向かった。
それと同時に工藤さんがひょこりと立ちあがって、キツネにつままれたような顔になって、その後パッと顔を明るくすると私とキネムの手を取った。
「ありがとう! 本当にありがとう!」
力任せにぶんぶんと手を上下させられ、肩が抜けるかと思うほどだ。
「ど、どういたしまして」
「けれど俺にはどうお礼したらいいのか分からない。とりあえず、新しい鞍を買うために持ってきたお金を受け取ってくれ」
「あの石はもらった物ですから、私は何も損をしていないんです。だからお金は受け取れません」
「それでも何かお礼をさせて欲しいんだ」
工藤さんの気持ちは嬉しいけれど、本当にお礼なんて必要ないから困り果てていると、そこに長鼻さんがセント・エルモ号をつれてやってきた。
「さぁ、工藤さん。セント・エルモ号を」
キネムが促して、工藤さんは「ああ。もう離さないぞ」と本当に嬉しそうな笑顔でセント・エルモ号の鼻先にすがりついた。




