第六章 月光市場のある騒動
「何があったのかな?」
「商売上のトラブルなんだろうけど、穏やかじゃないね」
私たちが話していると、力を失った若い男性はよろめきながら立ち上がって人込みをかき分け私たちの方へ。
野次馬していた後ろめたさに視線を逸らすと、そんな私のそばを通り過ぎ、光の当たらない市場の外壁の根本に座り込んで、絶望の成分をたっぷりと含む深いため息を吐いた。
チラリと目をやる。しっかりと筋肉のついたたくましい体格をしているけれど、顔はどこか気の弱さが見て取れる二十歳前後の男性だった。
男性はまた深いため息を吐く。
どうやら絶望の泡は次々と胸に湧いて、吐いても吐いても追い付かないらしい。
キネムを見ると、キネムも同じように困った顔で私を見ていたから、仕方なく「あの。どうしたんですか?」と声をかけた。
男性は薄がりでも隠しきれない悲壮感を漂わせた顔をこちらへ向けて、私とキネムを交互に見た後、涙目に変わり「俺はもうおしまいだ!」と嘆いた。
そして「この数年、辛いことも苦しいことも必死に耐えてきたと言うのに!」と喚いた。
「落ち付いて下さい。いったい何があったと言うんです?」
穏やかな口調で話しかけるキネムにつられてか、男性の荒い呼吸も幾分か治まって、さらに「深呼吸をしてみてはどうです?」とのキネムの言葉に従って息を長く深く吸い、長く細く吐く、それを何回か繰り返すと少しの余裕ができたみたい。
「これは失礼をしたね。恥ずかしい所をお見せした」
照れくさそうに立ち上がった男性は光の届く所へ出てきて「俺は工藤権平。黄道雑技団の団員なんだ」と自己紹介を始めた。




