第六章 月光市場のある騒動
海岸線を歩き、少し中へ入ると見たことも無い広い草原に出て、そこに月光市場はあった。
正確には分からないが十メートルはある高い木の板が隙間なく並んで出来た壁に囲まれた奥行きが分からないぐらいに広い敷地内に、数え切れないほどの店がひしめき合っていて、祭りとはまた違った迫力のある活気、さらに言うと熱気に満ちていた。
月光市場は、市場と言うだけあって多種多様な品物が売りに出されていた。
何に使うのかわからない不思議な形の道具が並ぶ店や、テレビでも図鑑でも見たことの無い尾とひれの長い魚が巨大な水槽に泳いでいる魚屋や、本物と見紛うばかりに精巧に作られた義手や義足が立てかけられている店、はたまた中東辺りの国で作られているような緻密な模様が描かれた絨毯や装飾品を販売している店など等、この市場もやはり夢の世界だ。
そうまったくの夢の世界。
キネムはリンゴを二つ買った。
そして疲れた足を休ませるために市場の隅っこにあるベンチへ腰かけると、一つを私にくれた。
それは見事に真っ赤なリンゴで、キネムが皮ごとかじるのを真似てかじると桃かと思うほどの甘い蜜がじゅわりと口の中に流れ込んできた。
「美味しいね」
「うん。美味しい」
私たちはジューシーなリンゴをかじりながら行き交う人の流れに目をやる。
「訊いていい?」
キネムからの返事がないから話を続ける。
「キネムはどうして私のそばにいてくれるの?」