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第五章 ある山の小屋と砂浜の光
山を下っていくと道の脇に並ぶ木々の上の方が揺れて、葉と葉がこすれてさらさらと音を立てた。そしてその木を揺らす風に乗ってほんのりと潮の香。
耳をすませてみると、微かに波の音が聞こえる。
「海が近いね。少し寄って行こうか?」キネムが言った。
私はこくりとうなずいて波の音のする方を見る。背は低いが奥の深そうな森がそこにあった。
Y字路の別れ道、右は舗装された道路で左は未舗装の獣道だ。
私たちは波の音の強い左の獣道を下りて行く。
すると徐々に辺りが開けてきて、道もアスファルトで舗装され出し、真っ暗な家の影がポツポツと出てきた。
そして強まる潮騒と香。
すっかりと山を下りると、街灯がそこらに灯っている。だけれど人影はない。
まるで無人の町。
その町を波の音に耳を傾けながら進み、ひっそりとした家と公民館らしき建物の間の細い道へ入ると潮の香がまた一段と強くなった。
そして踏切を超えると防砂林と思われる松林のシルエットが横に広く見えて、その合間をぬって行くとすぐに砂浜に出た。




