第五章 ある山の小屋と砂浜の光
「けれどもその時間の存在ゆえに私たちはいつか死んでしまいます。つまり時間が私たちを殺す、とは考えられないでしょうか? それでも感謝する必要があるのでしょうか?」
だって、時間の概念さえ飛び越えられたなら、きっと私はお父さんが事故に遭った日に戻る。
そしてなんとしても家から出さない。
なのに時間はそれを絶対に許さないんだ。
「君は死を勘違いしている」
男性は静かに話した。
「死と言うのは悲しい事ではないのだよ。死と言うのは頑張った人間に贈られるご褒美なんだからね。でないと人間はみな可哀相な最後を遂げることになってしまうだろう。そんなのはあまりにもやるせないと思わないかい? 私は今、辛い事に耐えながら生きている。が、いつかは死ぬ。その時にはこう言おうと決めているのだ。私はついにご褒美を頂くことにしよう。どうだ、うらやましいだろう、とな。そしてそのご褒美をくれるのもやはり時間なのだ」
死をご褒美ととらえる考えは素敵かも知れない。
だけどやはり受け入れるのは難しい。
「それでも私は死が恐ろしいです。時間の経つのが恐ろしい」
「死を恐れるのが人の特権であったりもするのだ。君たちは深く考えず感じるままに生きるのが良い。しかし時間は大切で愛すべきものだ。それだけは覚えておいてもらいたい。では私はまた目を閉じて一分、一秒を愛でるとしよう。引きとめて悪かったね」
「いいえ。興味深いお話を聞けました」
掘っ立て小屋は無人になったかのようにしんと静まり返って、私とキネムはペコリと頭を下げるとその場を静かに後にした。




