第五章 ある山の小屋と砂浜の光
二つの駅を過ぎて三つ目の駅、白岡に着いた。
微笑みの女性と挨拶を交わし電車を降りるとそこは辺りが鬱蒼と茂った木々と暗闇に囲まれた小さな駅だった。
どこかで流れる小川の音がやけに大きく聞こえる。
キネムと一緒に歴史を感じさせる古びた陸橋を渡って改札へ向かった。この駅で降りたのは私とキネムだけで改札は無人。
私たちは改札に設置してある切符がたくさん入った木箱へ自分たちの切符を入れて駅を出た。
「月光市場ってここから遠いの?」
白岡駅は山の中腹にある駅のようで、辺りには雄大な自然が広がっている。人の気配はない。
気温も幾分か涼しく、土の匂いと植物の香りをほんのりと含んだ澄んだ空気が肺に気持ち良かった。
「この時間だとバスはもうないみたいだからそこそこ歩くね。でも無茶な距離じゃないから」
バス停の時刻表を確かめ終えたキネムが歩き出し、私は例の如くその後についた。
街灯のない道。空に輝く星明かりだけが頼り。
駅から離れると人口の明かりが完全に無くなって道の脇には高い木が並ぶ。
キネムの姿が黒い影絵になり、足元もおぼろげになった。だから空を見上げた。
左右に並ぶ高い木々のシルエットの間でまたたく星の粒。山の方から緩やかに流れてくる風。耳に優しい草木のさえずり。
突然、私の脳の底からある記憶の泡がぷかりと湧いて、パチンとはじけた。
「私、この道を知ってる」
「え?」
「この道、お爺ちゃんの家の近くの山の道だ。お父さんの故郷の山の道」
小学生の頃、お盆にお爺ちゃんの家へ遊びに行って、お父さんがペルセウス座流星群を見に連れて行ってくれた時、あの時、私は本当に眠たかったのだけれど確かにこの道を歩いた。
こうも確信できてしまうのが不思議だけど、間違いない。




