第四章 ある電車での出来事
「あなたがマジシャンなんですか?」
勇気を出して声をかけてみると、「まさか」とピエロは畏まる。
「私はただの賑やかしにすぎません。みなさんが観るのはマジシャン。私はそんなみなさんを盛り上げるだけなのです」
「簡単に言うけれど、それって凄いことだわ。私には到底できそうにないもの」
微笑みの女性の言うとりだと思う。どんなに素敵なドラマや映画も、心打つ曲の演奏も周りの雰囲気が悪ければしらけて楽しめたものじゃない。きっとこのピエロの存在にマジシャンも救われているのだろう。
「いやはや、お恥ずかしい。褒められるのにはなれておりませんで」
ピエロは本当に恥ずかしいのか、それをごまかすようにコミカルに動いて頭の後ろをかいた。それを見て私たちはクスクス笑った。
その後、私たちの車両は静かになった。
電車の走行音がやけに大きくなって、時たま隣車両の歓声が聞こえ、踏切の警告音が響いて流れ去った。
それでも気まずさはなく、居心地のよい沈黙に、ゆったりとまどろむような時間を過ごしていた。
「そろそろ戻るといたします」
ピエロが帽子をかぶり立ち上がると同時、電車の速度が明らかに落ちて、ついには窓の外に駅のホームが見えないのに停車してしまった。
私たちが、どうしたんだろう? と顔を見合わせていると電車のアナウンスが鳴る。
『ただいま、氣燐を確認いたしました。通り過ぎるまでしばらく停車いたしますのでお待ちくださいませ』
「珍しいこともあるもんだ」
キネムはすっかり理解した顔をしているけど私には何がなんだかさっぱりだ。
訊こうとすると微笑みの女性が自分の後ろの窓から電車の進行方向を見て「見えた。大きいわ」とつぶやき、私はキネムと一緒に微笑みの女性のいるシートへ移る。
キネムが窓を上へ持ち上げて開くと、星のかけらを採取していた草原と同じ匂いが車内に流れてきた。
そして私は微笑みの女性の視線の先を追って窓から顔を出す。




