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第四章 ある電車での出来事
「あなたたち、どちらまで?」
「白岡です。月光市場へ行くんです」
「月光市場には無いものは無いのだそうね。私も一度、行ってみたいものだけれど……」
「あなたはどちらまで行かれるんですか?」
訊くと女性は微笑んだまま答える。
「わからないの」
「わからない?」
「私はいつから電車に乗っているのかも忘れてしまった。そしてどこまでいくのかもわからない。きっとずっと乗り続けるのでしょう」
息をのんだ。つまりこの電車には始まりも終わりもないのだろうか?
「それは退屈でしょう? 僕ならば耐えられない」とキネム。
「いいえ。それが私なの。私は私、あなたはあなたよ。何を成して何を成さないかは各々の天命によるものじゃない?」
「それは大変失礼いたしました」
キネムはうやうやしく頭を下げた。そこで後ろの車両に続く扉が開いた。連結部でバランスを取っていた赤い丸鼻のピエロが私たちの車両に入ってくる。
「いやぁ、休憩です」
緑の衣装に身を包んだピエロは微笑みの女性の隣、とは言っても二人分ほど間をとって座った。
「お疲れさま」
女性の労いの言葉にピエロは「いえいえ」と曖昧に返事して服と同じ緑色の三角帽をとる。黄色のソバージュヘアがふわりと広がった。白い化粧の下の顔には微かな憂いが感じられた。




