第四章 ある電車での出来事
乗り込んだ先頭車両は空いていた。
私たちを入れても四人だけ。
一人は背筋がピンと伸びた姿勢の良い三十代ほどの女性。もう一人はずっと奥の方で、酔っ払っているのか座席に深く沈み顔を真っ赤にして眠っていると思われる老人男性だった。
私たちは女性と向かい合う様に青い生地の貼られた横に長いベンチのようなシートへ座った。
ベルが鳴り、電車はゆっくりと窓の外の景色を流し始める。
突然、隣の車両からドッと歓声が起きた。キネムと一緒に顔を向ける。
詳しくはわからないけど、紙吹雪が舞っているのは見えた。パーティーでも行われているのかな?
「マジックを披露しているのだそうよ」
通路をはさんで前に座る女性だった。薄い化粧の気品のある顔立ち。
「マジックを? 電車の中でですか?」
不思議がっていると女性は整然とした姿勢を崩さず優しく微笑んだ。
「わけあって、長い旅をしている人たちを心優しい鉄道員たちがそれぞれの特技を生かして楽しませているのよ。三両目では演奏会、四両目では食事会、五両目ではダンスといろいろと催し物があるの」
だからこの車両には人が少ないのか。
「あなたは見てこられないんですか?」
「私は賑やかなのが苦手なの。こうしてみんなの歓喜の声を離れた所から聞いているのが心地よくてちょうど良いのよ。あなたたちは楽しんできたらどう?」
キネムは、どうする? って顔で私に声もなく訊いて、私はそれに対して首を横に振った。
「私はここにいる」
さっきの星の風祭りの熱気に当てられたのもあって少しのんびりとしたかった。そんな私に電車の走行音にまざって聞こえる、ささやくような歓声は確かに心地よい。




