第四章 ある電車での出来事
祭りの賑わいが微かに聞こえる町の外れに小さな駅。
駐輪場には持ち主に捨てられたのだと思われる錆びた自転車が数台あって、オレンジの街灯を浴びた無人の公衆電話が物悲しい。古びた鉄筋コンクリートの外観は私の知っている駅と何の違いもなく、このような光景を目の当たりにすると自分が立っているこの世界がどっちの世界なのかがまた分からなくなる。
切れかけて明滅する蛍光灯に虫が集まる入り口を足早に通って中に入ると柱の上に備え付けてある扇風機が首を振ってぬるい空気をかき混ぜていた。
券売機はないから切符売り場の窓口へ近付くと、透明なプラスチック張りの壁の向こうから鉄道員の格好をした小さな男の子が風呂椅子のような台を持って現われた。
「白岡まで大人二枚」
キネムが言うと小学生の低学年ぐらいの男の子は置いた台にのぼり、小さな丸い穴がポツポツと開いた会話口から「四百二十円になります」と高い声で答えてプラスチックの壁の下にある窓からお金を乗せる盆をこちらへ出した。
キネムがその盆へお金を乗せると男の子は指で数え「四百二十円丁度ですね。確かに頂きました」と今度は窓から切符を寄こした。
「まもなく電車がやってきますよ」
男の子はピョンと台から降りて駅室から出ると改札口に立つ。
そんな男の子にキネムは切符を渡しつつ「君は祭りに行かないのかい?」と話しかける。
男の子は「祭りは随分と楽しいのでしょうね。だけれども僕はこの仕事が好きなのです。ですからここにいるのです。それに僕がここにいなければ困る方がたくさんいらっしゃるでしょう?」とハキハキと返事して黒い切符鋏で切符を切った。パチリと誇りある音がした。
「では行ってらっしゃいませ」
男の子に見送られ駅のホームに出て電車を待つ。
私はさきほどもらった星のかけらをキネムと一緒に眺めていた。本当に心の落ち着く輝きで、飽きることなくどれだけでも見ていられる。
ここで南の方から電車の走行音が聞こえてきた。目をやると暗い先に小さな灯りが見えて、音と共に近づいて来る。
やってくる電車はあずき色の見慣れた電車であったけど、速度を落としながらホームに進入して停車したのを見れば、いつにもなくたくさんの車両が連結されていて、それは田舎の小さな駅のホームに収まりきらない。
遠くまで伸びる車両を数えようとしたのだけど私たちの前に停車した先頭車両の扉が開き、キネムが乗り込んだので諦めて後に続いた。




