第十一話 悪魔と天使と新人魔法少女 その5
「つ、使い魔!?」
「うーん、なんですか、それは?」
「ああ、こういうヤツのことだよ。狼姫、ちょっと来なさい!」
「うお、いきなり呼び出すとはなんだ! イタタッ! わらわは猫じゃないぞ。首根っこの肉をつかむな!」
使い魔とは、なに!? と、怪訝そうに訊いてくる早苗姉ちゃんと真田先生に対し、口で説明するより早いというわけで、私は急遽、足許に召喚ゲートをつくり、その中に右手を突っ込み狼姫を引っ張り出す。
「あ、お爺ちゃんの家に言った時に拾ってきたワンちゃん! う、今しゃべったわ!」
「ふ、不可解だわ! 犬がしゃべるだなんて!」
「おい、わらわは犬ではないぞ! 狼だ、それに人の姿にも変化できるぞ!」
「「わあああっ!」」
そりゃ、驚くのも無理はないわね。普通ならしゃべるわけがない狼がしゃべったわけだし、おまけに金髪碧眼の美女の姿に変身したわけだし――。
「ほえ~、ワンちゃんが人間に変身するだなんて! あ、ところで沙希、私の怒りの感情をそらそうとしたって無駄よ!」
「そうです! 怒りの感情をそらそうたって無駄ですよ!」
「まったく、アンタの行動なんてお見通しなんだからっ!」
「ア、アハハハ……う、うわあああっ!」
「ぐええ、何故、わらわまでっ!」
むう、早苗姉ちゃんと真田先生の怒りの感情をそらす目的で使い魔リストを手渡したことが、なんだかんだとバレていたっぽいわね。それはともかく、早苗ねえちゃんは無意識のうちに魔眼を発動させたようだわ。ヒュー、流石は我が姉――って、私と狼姫は、ズドーンと吹っ飛ぶ!
「衝の魔眼か、イタタタァ……」
「衝の魔眼?」
「そうそう、両目に収束した邪気を衝撃波に変換し、放つ魔眼の一種よ。中々、攻撃的じゃん!」
早苗姉ちゃんの魔眼は、中々、攻撃的だわ。無意識に発動させたとはいえ、この私に手痛い一撃をお見舞いするとか――。
「私にはどんな能力があるんでしょう? 試す方法はないんでしょうかね、山崎さん?」
「先生は魔眼を持っていないようです。それだけは判りますよ。能力に関して、これから行う修行の中で判明すると思います! さてと、改めて使い魔にしたい動物の種類を選んでください、おふたりさん!」
自分にどんな能力が秘められているのか気になった様子ね、真田先生は――と、それはさておき、私は改めて使い魔にしたい動物を選んでほしいと早苗姉ちゃんと真田先生に対し、訊くのだった。
「早苗、私と同じ蝙蝠がオススメだよ!」
「嫌よ! 可愛くないし!」
「ガ、ガーン!」
可愛くないから、嫌だ――と、早苗姉ちゃんは即答する。アハハ、私も同感だわ。清水さんには悪いけど、蝙蝠は好きな動物じゃないのよね。
「爬虫類も嫌ね。うーん、動物以外の使い魔のリストはないのかしら?」
「オススメはしないけど、夢魔はどう? ああ、夢魔っていうのは、ミスティアと一緒にいるファムみたいな騒々しいチビのことよ」
「アハハ、違ぇねぇな♪ ファムみたいな夢魔は近くにいると、マジで騒々しいぜ!」
「うわ、ひどっ! 私のどこが騒々しいのよ! つーか、チビって言うなや、沙希!」
「う、うーん、とりあえず、可愛い使い魔なら、夢魔でもいいわ」
可愛い使い魔なら、騒々しくてもファムのような夢魔でもOK みたいね、早苗姉ちゃんは――と、その一方で真田先生は、なにを選ぶのかしらね?
「私は、この動物がいいです」
「兎ですか? シンプルですねー」
「シンプルこそ一番って言いません? とにかく、最初からクセのありそうなモノを選んで苦労するのは嫌ですし……」
「ムムム、何故、私をジッと見るんですか!」
「アハハ、まあ、最初はシンプルな使い魔を選んだ方が得かもしれないかな~☆」
シンプルこそ一番ねぇ。ま、言えないことはないわね。最初から取り扱いに苦労するような使い魔を選ぶよりは無難なのは確かね。そこらへんを考えると、真田先生は用心深いのかもしれない。
「んじゃ、使い魔を呼び出します。ヘルメス、召喚用マットを――」
「は~い、夢魔と兎なら、これくらいのマットでOKだね!」
さて、ふたりが使い魔を選択したので、私はそんな使い魔を召喚するための特殊なマットを用意する。ちなみに、縦横三十センチほど布のマットで、その中心に燃えあがる炎の眼が描かれた魔法陣の絵が刺繍されたものである。
「それじゃ夢魔から呼び出すよ! むうううん、魔法少女沙希の名において命ず――魔界の使者であり、夜の精よ、我が前に、その妖しき姿を顕現させよ!」
とまあ、そんな呪文を唱えてみたけど、実は適当な文言なのよね。それはともかく、バアアッと召喚用マットに刺繍された燃えあがる眼が光き出し、ボンッという軽い爆発音とともに紫色の光の球体が飛び出す――ふう、とりあえず、召喚に成功したようだわ。
「ん、誰だよ、私を呼び出したのは?」
紫色の光の球体は、バアアアンと次の瞬間、ブレザーとスラックスといった学生風の衣装を着こなす背中に一対の黒い翼の生えた手の平サイズの小さな妖精の美少年が姿を現す。
「私よ、レイン。なにか問題でも?」
「わああ、沙希ちゃん! もしかして私を呼び出したのって……」
「そう、使い魔にしてあげようかなぁと思ってね」
「アハハ、やっとその気になってくれたか~♪」
「あ、でも、私じゃなくて、彼女の――私のお姉ちゃんの早苗の使い魔になってほしくてね」
「え、そうなの? フフフ、もちろんOKさ! 私は女のコの使い魔になりたかったわけだし~☆」
「フフ、OKってわけね。ああ、ちなみに、コイツは男子学生風な格好をしてはいるけど、女のコよ。つまり男性型夢魔ではなく、女性型夢魔よ」
「え、えええーっ! 男のコなの! あ、でも、可愛いから許す~♪」
「ムムム、男装女子なのかよ! 女装男子の俺とは馬が合いそうだな!」
「アハハ、なんだか親近感が湧くなぁ~☆」
「コ、こう見えても女性型夢魔です。よろしくね~☆」
さて、早苗姉ちゃんの使い魔として呼び出した夢魔は、一見すると男性型夢魔だけど、実際のところは男装女子な女性型夢魔である。ちなみに、コイツとは数日前、実家の近所の公園で出会ったわけだ。レイン曰く、美味しそうな標的がいたらしい。そんなわけで取り憑こうと思っていたらしいけど、私が邪魔したことになるのかな? とまあ、その後、色々あって仮の契約を結んでいたわけだ。
「ホ、ホントに男のコなの? 信じられないわね……」
「アハ、そう? でも、女装してはいるけど、女のコが大好きな健康優良児な男子に変わりはないよ。なんなら証拠を見せようか?」
「う、激しく拒否します!」
男性型夢魔は、女性の寝込みを襲うとされるむっつりスケベな夜の精である。そんなわけで、当然、女装しているとはいえ、レインは男性型夢魔なわけで――むぅ、男である証拠なんて見たくありません!
「さて、お次は真田先生の使い魔を呼び出すとするか――」
「あ、それには及ばないよ。すでに彼女に相応しい使い魔の兎を私が召喚してあるよ。ほらほら~☆」
「わ、ディオニュソス、どこに手を突っ込んでいるのよ! ん、烏帽子をかぶった白い兎!?」
お次は真田先生が選んだ使い魔の召喚だ! と、思ったけど、そんな私に代わってディオニュソスが、黒い烏帽子をかぶった一羽の白い兎を着こなす白いワンピースのスカートの中から引っ張り出す――ちょ、おまっ! なんで、そんなところに!!
「麻呂の名前は、兎田兎麻呂でおじゃる。兎族の貴族でおじゃる。職業は陰陽師でおじゃる」
「陰陽師!? あの安部清明みたいな?」
「うむ、そうでおじゃる……ん、そこの女子が麻呂の主人なのかな? まあよい、よろしく頼むでおじゃる」
烏帽子をかぶった兎は、兎田兎麻呂と名乗る。ふーん、陰陽師ねぇ。
「沙希、俺も使い魔が欲しいぞ!」
「師匠、俺もっす!」
ん、ツチグモとヤスも使い魔を欲しがる。んー、そうだなぁ。コイツらも一応、候補だし、使い魔を与えておくのもいいかなぁ……。
「んじゃ、ふたりにも使い魔を与えるとするか! ヘルメス、あの〝指輪〟をふたりに――」
「OK、沙希~♪ しかし、君も大胆なことをするねぇ」
「ま、ああでもしないと、あのふたりは力を発揮できないしね。さ、その指輪を左手の中指にはめてね」
「わ、かっこい指輪っすね!」
「うむ、気に入ったぜ、沙希!」
「「ニヤリ~」」
さてと、ヘルメスを介し、私がツチグモとヤスに対し、男子がいかにも好みそうなカッコイイ指輪を手渡す。
「う、まぶしいっ!」
「いきなり光った!」
ふたりが指輪を左手の中指に装着すると同時、カッと純白の光が、左手の中指に装着した指輪から放たれる――そして、純白の光の奔流が消え失せると同時に、ツチグモとヤスの姿が!
「わお、出雲君が女のコになってしまったわよ、沙希!」
「ヒュー、ヤスも女のコになったぞ、沙希!」
「「な、なんだってー!!」」
ドーン! ツチグモとヤスの性別がチェンジした! ふたりは女のコになったしまう――クククク、上手く成功したわ。
「ど、どういうことだァァ~~ッ!」
「わああ、師匠、説明よろしくっすゥゥ~~!」
「その指輪の魔力が、アンタ達の性別を変換させたのよ。それに魔法少女候補生っつうわけで、男子のままじゃダメかなぁと思ってさ、テヘ~☆」
「テヘ……じゃねェェ~~!」
「うわあああ、俺の……俺の大事なモノがなくなったァァ~~!」
「アハハ、大丈夫だよ、君達。さっき手渡した指輪を取れば、男の姿に戻れるよ」
「そ、そうなのか、ホッとしたぜ……」
「ふいいい、一生、女の姿のままかと思ったっす!」
「さて、喜ぶのはまだ早いわよ。早速、ツチグモとヤス、そして早苗姉ちゃんと真田先生、特訓を開始するわ!」
「「「「な、なんだってー!」」」」
さ、特訓の開始だ! 新人研修も兼ねて、四人にはやってもらうことがあるってなわけで――うーん、だけど、新人には、ちと危険かもしれないわね。




