第十一話 悪魔と天使と新人魔法少女 その4
「わ、なんです、ここは!?」
「砂浜!? ちょ、なんで海水浴場なんか!」
「うお、砂浜のあっちこっちに本棚があるぞ! き、奇妙な場所だなぁ!」
ズギュウウン! と、オカルト研究部――略してオカ研の部室として再利用中の旧校舎四階にある旧図書館内に足を踏み入れると同時に、私達は椰子の巨木が生い茂る南国な森に囲まれたプライベートビーチって感じの砂浜へと移動する。ああ、ここは砂浜のあちこちに本棚が見受けられる奇妙な場所でもある。
「さて、水着に着替えなくちゃ!」
「うお、一瞬で赤いチェック柄のビキニ姿に!? てか、貧乳が着ちゃいけない水着だァァ~~!!」
「ちょ、なにさ、その偏見! つーか、光桜学園の制服の下にシースルーの水着を着こんでいるとは……やるじゃん!」
「フン、たまたまさ!」
「ちゃうちゃう! ミスティアは最初っからプールに行く予定んだったのよ。ほら、中身はオッサンだし、女のコの水着姿を見るのが目的というわけで……ムガガ!」
「それを言うな、ファム!」
ミスティアの使い魔である女性型夢魔のファムが姿を現す。白いビキニ姿だわ。ちっちゃな妖精のような姿をしてはいるけど、スタイルだけは抜群なのよね。ぐぬぬぬ、ちっちゃいクセになんてスタイルを……。
「ん、なんだか不思議なんだけど……」
「ん、何々?」
「全然、暑くないんだけどさ。ここって本当に……」
「私も山崎さんのお姉さんと同意見です。一体、ここは……」
「フフフ、とりあえず、〝とある神〟の固有結界だって言っておくわ。さ、あの海の家へ移動するわよ」
ここは常夏の南国ビーチである。しかし、温度に関しては、私達、人間にとって適温な場所なのよね。ま、それはともかく、この南国ビーチな心象風景をつくりだしている張本人がいる海の家へと移動するとしよう。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
光桜学園の旧校舎四階に私――山崎沙希が所属する部活ことオカ研の部室として再利用されている旧図書館は、永劫砂浜という〝とある神〟の固有結界とつながっている。
その〝とある神〟を数日前に自宅近所の河川敷で拾ったのよね。なにがあったのかは定かだけど、大怪我していたし、見て見ぬふりはできなかったわけで――とまあ、そんな感じで保護するかたちでオカ研の部室へ連れ込んだわけだ。そのせいか、オカ研の部室と〝とある神〟の固有結界がつながってしまったわけである。
「あ、師匠! 呼ばれたので参上したっす!」
「お、沙希……ん、それに早苗姉さん、ついでに真田先生? それに見知らぬ女のコが一緒だが、お前と同じ穴のムジナか?」
「おいおい、もしかして新人って、そのふたりか、沙希?」
さて、海の家に赴くと、私のことを師匠と呼ぶ不良クンの安田靖彦、それにオカ研の仲間である同級生の土屋出雲ことツチグモ、それに太田辰巳ことタツの姿が見受けられる。
「あれ、他の部員は?」
「今のところ俺達しかいないぜ」
「ふむ、茜なら呼べば、すぐにやって来そうね」
オカ研の仲間は、とりあえず、ヤス、ツチグモ、タツだけのようだ。ま、茜なら呼べば、すぐにやって来そうだわ。一応、メール送っておくかぁ。
「彼とは馬が合ったね。すぐに仲良くなったよ~☆」
「うむ、趣味仲間って最高だな~♪」
同じ女装という趣味が一致する仲間――というわけでふたりは、魂兄弟の契りを結んだとか……むぅ、理解できない世界だわ。
「なあ、どうでもいいけど、沙希の姉さん……若返った? 同い年くらいに見えるんだが?」
「あら、出雲君、気づいた? ま、まあ、そんなところね……」
「つーか、真田先生も若返った気がする……気のせい?」
「え、若返った!? この私が?」
「はいはい、この鏡を見て見て~」
「か、鏡を見ろですって!? う、うわ……ちょ、嘘でしょう!」
土屋出雲ことツチグモは、何気に幼馴染だったりするのよね。アイツの自宅は、私ン家の近所だったりするし――と、それはさておき、私は真田先生に手鏡を渡す。今の姿をよ~く見てもらうために!
「ふ、ふええ~っ! なんですか、この姿は!? わわわ、若い頃……高校生の頃の私が鏡の中に!」
ガタガタと小刻みに身体を震わせ、おまけにズギュウウンと血の気が引いた真っ青な顔で真田先生は、私が手渡した手鏡の中に映り込んだ自身の姿をジッと見続ける。
「どうですか? 若返った感想は?」
「どうもこうもありません! なんという不可解な出来事が、この私の身に起きるだなんて……わ、若返るなんて奇妙奇天烈摩訶不思議です!」
まるで宝くじの一等数億円を当てたかのように真田先生は驚く。そりゃ、無理もないわ。突然、十七歳の時の姿に若返ったわけだし――あ、ちなみに、真田先生の元の年齢は、今年で三十路だったかな?
「さて、撫ぜ、若返ったのか? そのネタばらしと洒落込みましょうか! 真田先生、それに早苗姉ちゃん、私があげた指輪を見てよ」
「え、この指輪ですか? わ、青く光っています!」
「アハハハ、沙希、説明は不要よ。私が二十四歳から、アンタと同い年の十七歳に若返ったのは、この指輪のせいだってことくらい理解できたわ」
「えええっ!? この指輪のせいってどういうことです!」
「フフフフ、その指輪は永遠十七歳。装着した者の外見年齢を十七歳に固定する魔法の指輪ってところかな~☆」
「「なっ!」」
フフフ、早苗姉ちゃんも、そして真田先生も驚きが隠せないわね。ま、でも、〝大人〟を勧誘する場合、仕方がないのよね。魔法少女としての能力を最大限に発揮できるのは未成年のみだし――え、そのうちお前も未成年じゃなくなるぞって? アハハ、その時は私も装着するさ、永遠十七歳を!
「なあ、俺の指輪も永遠十七歳なのかな?」
「それは形状こそ違うけど、永遠十七歳と同じ効果のある指輪だわ」
スッとミスティアが、左手の中指にはめている黄色い光を放つ指輪を私の目の前に突きつけてくる。形状こそ違うけど、外見年齢を十七歳に固定する魔術宝具こと永遠十七歳と同じ効果がある指輪だわ。しかし、誰がつくったのかしらね? あのマダム弓子かしら?
「おや、その娘さん達が新人魔法少女なのかな、沙希姫?」
「あ、ネロジーさん。つーか、姫って呼ばないでよぅ!」
「ハハハ、なにを照れているのだ?」
「照れてなんかいないわ、まったく!」
まったく、姫って呼ばないでよね! とまあ、そんなこんなで、私のことを姫と呼ぶダンディーなヒゲのお爺さんが、ニヤニヤわらいながら、ヌッとカウンターの奥にあるキッチンから顔を出す。このダンディーなヒゲのお爺さんこそ私達が今いる海の家の主であるネロジーさんだ。
「姫って沙希のこと? というか、何者なのよ、あのお爺さんは?」
「あ、紹介するわね。この海の家の主であるネロジーさんよ。ああ、そうそう、私達が今いる南国風な海水浴場は、ネロジーの心象風景を実体化した固有結界の中よ」
さて、そんなネロジーさんこそ南国風な海水浴場という固有結界をつくり出している存在である私が数日前に自宅の近所の河川敷で拾った〝とある神〟なのよね。あ、ちなみに、ネロジーさんの名前か仮名である。本人曰く、名前を忘れたらしいので、外見などから名前を消失した爺さん――ネロジーと、私が仮の名前をつけてあげたわけだ。
「こんにちは、ネロジーさん。そういえば、以前どこかでお会いしませんでしたっけ?」
「私も、どこかで会った気がする!」
「はて、どこかで会ったことがあったかな? わしにはまったく覚えが……人違い……神違いだな」
「ふむ、そうですか、僕の気のせいかな?」
「うむ、そうだと思うぞ。小さなお姫様~☆」
ヘルメス&ディオニュソスは、ネロジーさんとどこかで出会っているのかな!? でも、人違う――神違いだってネロジーさんは答える。ま、分霊とはいえ、神様にも間違えることもあるよね。
「さて、早苗姉ちゃん、それに真田先生、新人魔法少女の候補生として、今から修行を受けてもらうわ」
「ちょ、沙希! アンタいきなりなにを!」
「そうです! なにを言い出すんですか!」
「まあまあ、そう怒鳴らなくても……」
むぅ、早苗姉ちゃんと真田先生がキッと怒り出す。まあ、急な話だし、怒って当然かなぁ?
「あ、その前に使い魔を選んでよ。哺乳類型、爬虫類型、鳥類型、もう少しハードルが高い使い魔もあるわよ。例えば、幻獣型などなど――」
怒る早苗姉ちゃんと真田先生に対し、私は使い魔リストを手渡す。さ、ふたりはどんな使い魔を選ぶのやら――。




