第十一話 悪魔と天使と新人魔法少女 その3
「あ、そうだ、沙希。新人魔法少女をスカウトするなら、このリストを――」
「わお、ありがとう! ん、ツチグモやヤスの名前も挙がってるじゃん!」
さて、光桜学園旧校舎四階にあるオカ研の部室へ向かう途中、私はヘルメスから、そんなリストを受け取るのだった。つーか、ツチグモやヤスの名前は挙がっているんだか――。
「土屋出雲って男子でしょう、沙希? 男子も魔法少女候補なの?」
「うん、男子の場合はね。コイツのように性別が入れ替えればOKなのよ」
「ちょ、そんなこともできるの!? うへえ、魔法少女業界ってすごいわねぇ……」
「し、新人である私には驚きだー!」
「俺は後悔なんざぁ、してないぞ! TS最高! わっはっはっは~☆」
「TS? 性転換の略だっけ?」
「うんうん、なんでコイツがスカウトされたのか気になる。三十×歳のオッサンなんでしょう、元は……」
「いんだよ、細けぇことは!」
「…………」
ミスティアは元々は、私が住んでいるS市の隣町であるO市に住んでいたアニメやゲーム好きの三十×歳のオッサンだったらしいわね。それがなんの因果か魔法少女にスカウトされ、そしてTSして私と同世代の女のコに――経緯が何気に気持ちが悪いわね。しかも使い魔は女性型夢魔なのよねぇ。
「山崎さん、ちょっと待ちなさい!」
「うへ、真田先生、またなにか用事ですか?」
「用事もなにも……うわ、なんです、その妖精のような生き物は!? それに天城さんが大きな蝙蝠を連れて……ペットの持ち込みは禁止です!」
「お、僕の姿が見えるの?」
「アハハ、沙希ちゃん、意外なところに新人候補がいたわね。三十路近い年増だけどさ~☆」
「うみゅ、意外だわ!」
ムムム、真田先生が私達の後を追いかけてきたわ。まだなにか用事があるのかしら――え、ヘルメスと清水さんは見えるの? 清水さんはともかく、ヘルメスは穏行の術を使って姿を見えないようにしているはずなんだけどなぁ……真田先生って魔法少女の候補となる逸材なのかも!?
「ヘルメス、〝アレ〟を真田先生に――」
「フフフ、沙希、君はホント悪戯が大好きだなぁ~☆」
「悪戯じゃないわ。彼女にとっては喜ばしいことになると思う」
「まあいいや、はい……指輪をアナタにプレゼントします」
「え、指輪をプレゼント? あら、私好みの指輪だわ。早速、はめてみます」
「ゲ、ゲエェ、その指輪はまさか!?」
「早苗姉ちゃん、黙ってて! さ、部室へ行くわよ。ああ、真田先生も一緒に来ませんか?」
「そうですね。アナタが所属する部活の部室で要件を語るとしましょうか――」
私はヘルメスを介し、真田先生に指輪をプレゼントする。フフフフ、この指輪には、ちょっとした秘密があって――さ、オカ研の部室である旧校舎四階の図書館へ改めて向かおうかなぁ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「ん、ミルちゃん!? 私のコレクション……山の妖精さんシリーズの紅一点のミルちゃんじゃない!」
「違うよ。僕はヘルメス。そこにいる沙希の相棒さ。ま、そのミルちゃんって人形に宿ったのが、今の僕ではあるんだけどね」
そういえば、ヘルメスは山の妖精さんシリーズという人形の紅一点であるミルちゃんに宿っているんだったわね。しかし、分霊とはいえ、神の力はすごいなぁ、宿ったミルちゃん人形が本物になってしまったわけだし――。
「ん、部室の前に男子が集まっているけど、どうしたんだろう?」
「ま、行ってみれば判るさ」
「集まってる連中に訊いた方が早いだろう? 俺が訊いて来るぜ! おい、その冴えない男子!」
旧校舎四階にあるオカ研の部室こと旧図書館の出入り口前に到着っと――んんっ!? 男子がそんなオカ研の部室前に集まっているんだけど、なにかあったわけ? さて、ミスティアがオカ研の部室前に集まった男子のひとりに、なにがあったのかと尋ねる。
「さ、冴ない男子!? 何気に傷つく一言だなぁ……」
「ホントのことだろう?」
「ううう……」
「ま、まあ、そんなどうでもいいだろう? ええと、確か同人誌部の山根君だよね?」
「ああ、山崎さん! 聞いてよ、このコに冴えないって言われたんだ!」
「ア、アハハハ……てか、ウチの部でナニがあったのか説明よろしく!」
ミスティアの馬鹿! 冴えないってホントのことを言っちゃダメじゃん。ムッと唇を尖らせ拗ねているじゃないか、山根君が――とまあ、そんなデリカシーのない物言いをするミスティアに代わって、私がなにが起きているのかを訊いてみるのだった。
「すっげぇ可愛いコが、さっきオカ研にやって来たんだよ!」
「うんうん、某アイドルグループみたいな?」
「しかし、オカ研には可愛いコが多いな! あのコも山崎の仲間?」
「つーか、貧乳じゃなかったら、俺の好みなんだけどなぁ、山崎は――」
「あー、俺もそれが言いたかった!」
「おい、なんで話題が私に移るわけ! てか、貧乳って言ったヤツは死ね!」
ムムムム、貧乳って言うな! てか、なんで私のことに――と、それはともかく、山根君を筆頭としたオカ研の部室前に集まった男子曰く、すっげぇ可愛いコがやって来たとか……誰よ、一体!?
「アンタ達、通れないじゃん! 除けて、除けてぇ!」
私はオカ研の部室前に集まる男子達を除けながら、オカ研の部室の中に入る。あ、説明していなかったわね。山根君達、男子は旧校舎内に部室がある部活に属す連中だ。ここには、生徒会の連中に非公認扱いされているマニアックという名のを修羅の道(?)を進む変わり者の生徒達のたまり場だったりするのよねぇ。
「え、ええと、すっげぇ可愛いコって誰? あ、ディオニュソスがいる!」
「わあ、沙希じゃないか! 会いたかった~☆」
ん、白いワンピースに麦わら帽子という格好をした長い髪の可愛い女のコが、オカ研の部室内にいるわね……って、ディオニュソスじゃん! なんでいるわけ!?
「わ、わわわわっ! アイタァー!」
そんなディオニュソスは、私と目が合うと同時に、嬉しそうにスキップをしながら、駆け寄ってくる――が、コケた! 豪快に、仰向けにズデーンと……あ、その際に着こなす白いワンピースのスカートがペロンと捲れあがり、私、そして山根君達、オカ研の部室前に集まった男子達の双眸に、ズギュウウンとディオニュソスの見てはいけないモノが映り込んでしまう!
「オ、オエエエエッ!」
「め、眼がっ……眼がァァ!」
「グエエエ、み、見てはいけないモノを……見てしまった!」
「おおおお、男だったのかよォォ~~!」
「ウホッ!」
「う、嘘だろう? き、君は男だったのかァァ~~!」
「ぐわああ、ショックだ! 超ショックでだァァ~~!」
ううう、軽いショックを受けたかもしれない。見た目は可愛い女のコだけど、実際は男子なのよねぇ、ディオニュソスは――う、他の男子と別の反応をした奴がいた気がしたけど、私の気のせいかしら?
「君達ィ、見たね? ウフフフ~☆」
「「「見ていません!」」」
う、私達は一斉に見ていないと答える。そう答えざるを得ない――と、思ったからだ!
「アナタ達、ここは旧校舎とはいえ、大声を張りあげるとか、一体、なにをやっているんですか!」
「わ、生活指導の真田先生……ですよね?」
「え、そうですよ! なんです、その珍妙なモノを見るような視線は!」
ディオニュソスことがともかく、真田先生はま~だ気づいていない様子だわ。自分の身に起きていることに、なぁ~にも――。
「あ、いや、あのその……なんだかちっちゃくなった気がして……」
「そ、それに俺らの同級生かと思ってしまって……」
「え、どういうことです!? う、そういえば、服が小さくなった気がします!」
「沙希、いい加減、教えてあげたら?」
「うん、そうだねぇ、クククク」
真田先生って、何気に鈍いわね。ま、いいや、そろそろ教えてやるかぁ。
「そうねぇ……んじゃ、オカ研の部室内に入りましょうか!」
「アンタ達は入っちゃダメよ!」
「え、えええー!」
ま、なんだかんだと、私達はオカ研の部室として再利用していり旧図書館の中へと足を運ぶ。ああ、山根君達も一緒に入ろうするが、ドンッと天城先輩に足蹴にされるかたちで追い出されてしまう。ま、部外者の立ち入りは禁止ってわけで――。




